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状況の変化

 気絶したアリスを抱き上げて走りながら、クルスは妙な気配を感じて不安を覚える。

 強い魔物の気配。

 そしてその近くにフラット達がいる。


「……フラットは、自力で何とかなるだろうがレイナがいる。それにレイナがいると、本気で戦えないか」


 ああ見えてフラットは繊細だ。

 もともとある理由から、昔は屋敷の外にほとんど出られず、家の中に引きこもっていた。

 そのせいか内向的で大人しく、けれど書を読んだり、楽器を弾いたりといった程度にしか娯楽がなかった事も加えて、その知識量と音楽の才には目を見張るものがある。

 さらに、内向的なために周りの様子を観察し続けた結果なのだろう、周りの状況に聡い。


 だから、レイナの前で自身の力をフラットは使う事に躊躇する。

 そもそも巫女であるレイナにとってフラットは“敵”と区別が付かないだろう。

 それもフラット自身が分っていて色々とやっているようだが、今度の相手は誤魔化しきれる程度に力を抑えて戦える相手とはいえない気がする。

 それに今、あんな風に動けるのはクルスの手助けに他ならないのだ。もしも力を使いすぎてしまったなら、本来のフラットに戻ってしまう危険性がある。


 確かに今感じる範囲では余裕だが、何かを隠している気配がする。

 それがクルスの不安を誘うと同時に、別の不安要素がある。


「あのフラットに過保護気味なノイズさんが、何かやらかさないといいが……」


 昔の諸々の理由から、フラットに対しては彼の家族全員が過保護なのだ。

 それが嬉しいと同時に窮屈なんだと以前フラットが漏らしていたが、それくらいに過保護でもあるのだ。つまり、


「お忍びがばれる以前に、この遺跡自体を破壊しかねないんじゃないのか? まだ一杯冒険者もいるのに」


 罠に引っかかったのと、アリスの影響か、またそれまでに知られていない階層に放り込まれて周りには人気がないが、ここもまた初心者用で綺麗な遺跡である。

 そのために多くの人達で賑わっている。

 都合が悪いからとノイズから逃げ出したクルスは、今になってそれを後悔した。

 だが、仕方がないじゃないかとクルスは心の中で言い訳をする。

 だって、クルスはアリスの事が好きで、普通に口説きたいのだから。 

 そこで、気絶しているアリスが寝言を呟いた。


「……駄目」


 その声と共に、階層の下のほうから轟音が聞こえたのだった。






 アリスは暗闇の中を歩いていた。

 そこが酷く心地よくて、何かが動き出す音が聞こえて、アリスはふふと笑う。

 同時に、色々な風景が円形状に回りに映し出されて、楽しそうな人が沢山見える。

 ここ遺跡だったよなと思うも、よく見ると男女の冒険者が多い。

 というか手を繋いでいたりと、仲良さそうな雰囲気が漂っている。


「……いいな」


 つい零してしまった羨ましそうな声に、アリスは自分自身で驚いた。

 そういった恋愛ごとよりも、ずっと、違う事の方に夢中だったから。

 確かに恋愛小説を読みはするけれど、それ以上を想像したかったわけじゃなくて。

 そこでふっと現れた風景に、アリスは顔を赤くした。


「な、な……」


 そこに映っていたのは、クルスに抱きかかえられているアリスの姿だ。

 ぐったりとしている自分と、クルスに抱きかかえられえいる自分に、アリスは……胸がどきどきしてしまう。

 嬉しいという気持ちと、何でという気持ちと、恥ずかしいという気持ちとで一杯一杯だった。

 思わず顔を両手で隠して、けれど気になってみてしまう。


 クルスの方を、見てしまう。

 けれど耐え切れず再びアリスは自分の目の前を手で覆う。

 そこでまた別の映像が出てきたのに気づいて、アリスは息を止める。

 そこに映っていたのは、レイナとフラットと、そして人のような何か。

 少年のようだが着ている服は、この世界のデザインに少しにているも、けれど違う。


 その気配からとても怖い魔物だとアリスは気づく。

 少年がフラット達に手をかざした。


「……駄目」


 アリスが呟くと、ぎぎっと大きな音がして水の刃がその少年に向けて放たれたのだった。






 フラットはばっと気配のしたほうに振り返るのと、レイナが振り返るのは同時だった。

 そこにいたのは少し変わったデザインの服を着た少年だった。

 けれど浮かべる笑みは、ぬるりとした気持ちの悪さを感じる。


「……まあいいや。とりあえず君達を殺せば、出てくるかな?」


 誰がとは言わず、無邪気にフラット達に少年は言い放つ。

 そして、手をかざす少年を見てフラットはレイナを自分の後ろに下がらせる。

 まさかそんな行為をされるとは思わず、レイナはフラットを見上げた。

 フラットは何時になく真剣に、睨みつけるように少年を見ている。

 いつものふにゃふにゃした成りとは違い、何処か頼もしさを感じるその表情にレイナは一瞬どきりとしてしまう。

 だが、こいつは危険な奴なんだと、レイナは自分自身に言い訳していると、フラットが、


「……僕がひきつけている間に、レイナは逃げろ。出来れば……クルスかノイズ兄さんに事情の説明をして、援護を」

「ここで足止めするの?」

「……危険だから、レイナが逃げられる時間くらいは稼ぐ」


 それは、レイナが足手まといだといっている事に気づいて、けれど目の前の敵の得体の知れ無さにレイナは言い返すのではなく頷いた。

 だが、そこで水の刃が遺跡と水中を隔てる場所から飛んできて、その少年を打ち付ける。

 突然の高速で打ちつけられる水の威力を消すことが出来ず、少年は壁に打ち付けられる。

 いち早く状況の変化に気づいたフラットはレイナの手を掴み走り出した。

 水の刃はまだ止まらず、少年の気配は消えないが、足止めはされている。

 何故、どうしてよりも逃げることが先決と足早にその場を去るフラット達。

 そして、その場から遠くに逃げ切ると、その水の刃は止まる。

 少年が忌々しげに呟く。


「僕がじきじきでこちらに来たというのに……だが、まあいい。面白いものもまだこちらにはいたしな。しかし、相変わらず“女神”は面倒だ」


 そう呟いてその場を一欠けらの痕跡すら残さず瞬時に去る。

 それをノイズがじっと見ていた事に、その少年は気づいていなかった。

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