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またお前か

 レイナは先ほどの罠に引っかかった自分に苛立ちを覚えていた。

 ついでにもう一つの事についても、レイナは苛立っていた。


「またお前か」

「そんな言い方されると、僕、傷ついちゃう」


 口に手を当ててしなを作るフラットに、レイナは半眼でフラットを見て、


「まあいいけれど、それで、貴方のお兄さん……貴方に似て随分と個性的ね。タコの着ぐるみとか」

「……あんなの何処で手に入れてくるんだろう、ノイズ兄さん」

「あら、同じような趣味があるんじゃないの?」


 八つ当たりもかねてレイナがじわじわフラットに言うと、そこで初めてフラットがいつもと違う表情を見せた。

 それはフラットの姿をした微笑む人形のような表情でレイナに、その苛立ちすらも見透かすように問いかけてくる。


「それで、何を苛立っているのですか? レイナ」

「……何を言っているのかしら」

「さっきからレイナらしくないなって。もっと余裕を持って、僕と二人の時は間合いを取っていますからね」

「ふーん、気づいていたの。でも、それで何が言いたいの?」

「聞きたいのはレイナの方だと僕は思うよ。それとも僕から何も聞く事がないのかな。だったら僕もお手伝いはしないけれど」


 楽しそうに表情を変えずに笑うフラットに、レイナは舌打ちしたい気分に陥る。

 軽薄そうで、その場の雰囲気に飲まれやすい……そう装っているだけで虎視眈々とこちらの様子を見て狙っているのだ。

 かといってレイナが欲しい情報はフラットから聞くのが一番妥当だ。

 あのクルスはアリスと仲がいいし、まだどんな人物かわからない異常ただの一般人の可能性も捨てきれない。

 そんな彼を巻き込むのは、今の所得策ではない。となると。

 始末に終えないとレイナは嘆息しながらフラットに、


「ええそう、私は貴方に聞きたいことがある」

「へえ、それでその対価は何を頂けるのですか? 巫女」

「……頬にキスをしてあげるわ」


 レイナにしてみれば冗談のつもりだった。

 けれどその言葉を発した瞬間、フラットは凍りついたようだった。

 その珍しい様子をレイナが観察していると、すぐにフラットは顔を真っ赤にして、


「キ、キスって……」

「何よ。キス程度で。随分と余裕がないのね」

「あ、当たり前だ! だってキスなんてそんな……」

「……貴方が言うキスって何? 説明しなさい」

「こうほっぺたに唇を触れさせる行為です!]

「間違っていないわね。どうしてそこまで反応するわけ?」

「え! だって彼女すら僕は今まで居たことがなかったのに!」

「……ああやって誰彼かまわず口説きまわれば、誰か引っかかるんじゃないの?」

「僕にだって好みがあります!」


 言い切ったフラットに、レイナはなんだか頭が痛くなってきて、けれど、


「貴方の弱点は分ったわ。今度からそこをつかせてもらうわ」

「酷い! このサド女!」

「……鞭で打たれるたびに気持ちが良くなる体に調教してあげましょうか?」

「ごめんなさい。ゆるして……え?」


 そこでレイナがふわりと近寄り、フラットの頬に口づけする。

 その感触にフラットは更に耳まで赤くして、


「な!」

「前払いよ。これで、私の聞きたいこと全部吐きなさい」

「……はあ。もう、いいですよ、で、僕に何を聞きたいのですか」

「ここに来て、アリスはいつも遺跡の何かを動かしている、正解?」

「……正解。その時の状況は、アリスちゃんは気絶して意識が飛びそうになったらしい」

「協力的ね、いいことだわ。それで意識が飛んだ?」


 レイナが、深刻そうな表情でいるので、フラットは試しにもう少し情報を与えてみる。


「そう、気絶して、そのまま意識がどこかに飛んでいきそうになるらしい。それをこの前、引き止めたりしているが」

「随分と面白いことが出来るのね、貴方」


 レイナが警戒するようにフラットに言うので、フラットはレイナが、クルスがした事をフラットがしたと勘違いした事に気づいた。

 けれど、それを訂正しない方がクルスとアリスにはまだ良いように思えて、


「それで、アリスちゃんがこう、変な像に触れて暫くすると動き出すみたいなんだ」

「……話を逸らそうとしたみたいだけれど、まあいいわ。要はアリスがこれらの遺跡と親和性がいい――引き寄せられてた事で意識が飛びやすい、そういう事ね……しかも時間差か」


 なにやら考え込むレイナ。

 フラットも、レイナに聞きたい事があった。

 何故このレイナという巫女は、他と違っているのか。

 けれど、それを問いかける前に別の事態に遭遇してしまったのだった。

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