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もっと単純な理由

 それに、ああやっぱりそれかとクルスは思って、


「“供物”とするかどうかを見定めるために来たのか?」

「それもあります。ですが一番の目的は、遺跡の奇妙な挙動についてです」

「……動き出したというあれか」


 それにノイズが頷いて、アリスの方を見やる。


「初めはクルス様がお忍びで遊びに行った場所ばかりで起こるため、遺跡が何らかの事情で誤作動を起こして、クルス様達を敵とみなしたのではないかという可能性です」

「その可能性は完全に捨て切れないだろう?」


 あえてクルスは、アリスが触れたり色々しておかしな事になっているとは言わなかった。

 言えば言ったでアリスは徹底的に調べられて、二度とこうやって自由に行動は出来なくなるだろう。

 それにそうなってしまえば“供物”としてすらも、アリスがクルスの手に戻ってくるか分らない。

 特別な力を持つ者の保護。

 幾たびにも渡り、そういったもの達と会ってきたクルスは知っている。

 静かであまり人の居ない場所で、まるで虜囚の様に囚われるのだ。

 現れる人が多いほど危険が増すのは当然で、そして守るためには危険から遠ざけるのが一番良いのだ。

 だから、自由に羽ばたく事もできず、ひっそりと生きるしかない。

 そんな生き方を、アリスに強要するのはクルスには気が引けたし、あんな風にはつらつと羽飛ぶこの腕の中の少女が、クルスには眩しくて美しく見えた。

 そんなじっとクルスがアリスを見つめる様子に、ノイズは、


「誤作動であればこちらに来る事はおやめ下さい。危険すぎます」

「まだそうと決まったわけじゃない。それも確認すればいい」

「それは貴方様の仕事ではありません。それに我々は、すでに知っているのです。その少女とクルス様が行動を共にしてから遺跡に奇妙な変化がある事を」

「誤作動の可能性は限りなく薄いと?」

「そうです、ですからその……」


 そこでクルスは深々と溜息をついた。

 つまりノイズは初めからこの遺跡を動かす奇妙な力が、アリスにある事に見当をつけて同行して来たのだ。

 そしてクルスが気に入っているのに気づいて、“供物”にするかと聞いてくる。

 アリスのあの力はまだ伏せておきたい。

 かといって、クルスの“供物”として捕まえてしまえば……今ならば確かに彼らの手から、保護という名の虜囚にはならずに済むだろう。

 気絶しているアリスの柔らかな体。

 それを思う存分味わうことが出来るだろう。

 キスだけでこれほど甘く、満たされるのだから。

 けれどまだ、クルスはアリスの心が自分よりも遠い事を知っている。

 だからまだ手を出せない。

 頭の中で、幾つもの事象が短くクルスの中で浮かび上がり、それらの内容を総合的に判断してクルスはいったん瞳を閉じてから内容を整理して、決めた。

 瞳を見開き、真っ直ぐにクルスはノイズを見て、


「分った」

「どちらに分って頂けたのですか?」


 ノイズは面白がるように笑っている。

 けれどそれも作り物のように見える。

 状況が状況で、今は弟の友人として会っているわけではないのだから仕方が無い。

 クルスの身を置く世界はそんな世界。

 黒々としたものを見えなくなるまで塗りつぶして、飾り立てて、華やかに見せかけて。

 だからこんな風に息抜きが必要だし、友達としてのフラットもクルスは気に入っている。

 どんな関係にせよ、今は友達だからとずばずば色々言ったりアリスを口説いたりしているので、彼自身城を離れれば友達としてクルスと見ているのだろう。

 そういった意味でも気の置けない友人だなとクルスは思って、けれどアリスは渡さん、あの軽薄男、レイナに鞭で打たれてしまえと心の中でクルスは毒づく。


「クルス様、どちらに分って頂けたのですか?」


 もう一度問いかけてくるノイズに、クルスはにっと獰猛に笑う。


「これが答えだ」


 クルスが答えると同時に、遺跡の地面がひび割れて、隆起する。

 それを何十にもノイズを取り囲むようにした挙句、そう簡単に壊れないように防御の魔法で強化を行う。

 これで暫くノイズは追ってこれまいとクルスは思い、力を使った反動で起った僅かな獰猛さをアリスに一度キスする事で止める。

 可愛らしい瞳を閉じた姿に、クルスは小さく微笑む。

 好きだと、小さくクルスはアリスに呟き、そしてすぐにクルスはアリスをして抱き上げて、駆け出したのだった。






「随分とクルス様はあの少女に熱を上げてられているようだ。さて、どうしたものか」


 ノイズが困ったように呟く。

 本来ならば差し出させるのも“供物”としては簡単ではあるのだが、クルスの望んでいるのは“供物”であると同時に恋人である。

 自由恋愛よりも優先されるべき、貴族のその繋がり。

 それをクルスは否定しない。

 けれどノイズが見た限りクルスは口説いて落とすまでは手に入れる気も、手を出す気も無いらしい。


「これで振られたらどうなるか分っているのですかね、クルス様は」


 そう呟いてみて、好きになりすぎてしまえば、夢中になって、振られるなんて考えないものだなと思い出す。

 となると二人がくっつくように細工をするのも手なのだが、どの程度効果があるか。


「むしろそんなものいらない、自分で口説くから。とクルス様は言いそうですね。真面目ですから」


 そして遺跡の動きに関するアリスの力も、ノイズにはある程度目星が付いていた。

 それ故に、“彼ら”の動きも気になる。とはいえ、今回ノイズがここに来た理由といえば、


「本当はもっと単純な理由で様子見に来たのですが、どうしますか」


 そう、ノイズも大きく嘆息して、逃げた二人とフラットを探すために目の前の壁を破壊し始めたのだった。

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