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何が目的だ

 というような経緯もあって、フラットの兄であるノイズが同行することになった。

 ちなみにフラットがやけに大人しい。なのでアリスが、


「どうしたのフラット、いつもみたいに元気がないけれど」

「アリスちゃん……君は僕の心の太陽であり恵みの風……結婚して下さい! と、いうのは嘘かなって」


 フラットが、顔を蒼白にさせながら、嘘デス! と叫んだ。

 けれどその声は何処か弱々しく小さい。

 ちなみに何故すぐに嘘だといったのかといえば、アリスの見えない位置で、クルスが見られた瞬間凍りつくような冷たい目でフラットを見ていたからなのだが、それはおいて置いて。

 フラットはちらりとノイズを見て、大きく嘆息する。 


「何で保護者同伴なんだ。こんな年にもなって……」

「いいじゃないか。弟思いのとても優しくてすばらしくて美しく華やかなお兄様だと思わないのかね?」

「……兄さんに付き添われたくない」

「つまり、私にお姉さんになれと!」

「もう嫌だこの兄……なんでこんな所にいるんだろう。僕の評価までだだ下がりじゃないか」


 うっうっ、と悲しそうに泣くフラットだが、そんなフラットにレイナは容赦なく、


「元から貴方の評価は色物よ」

「この程度、色物じゃないもん」

「……なんだか本当に大人しくなったわね。今度からお兄さんも一緒にいらっしゃいませんか?」


 そこでレイナが微笑みながらフラットの兄、ノイズを勧誘する。けれどノイズはといえば、


「うーん、君みたいな子、あまり好きじゃないな。どちらかというとあっちの、そう、アリスという子の方が魅力的だな」

「へー、アリスね。どのような意味で?」

「どんな意味なんだろうね」


 にっこりと笑う含みのあるノイズにレイナがすっと目を細めるも、そこで、


「所でノイズさん、その服随分と高級そうですね?」

「ん? あ、ああ……そうだな」


 アリスとしては何気ない問いかけのつもりだった。

 そしてそのノイズの焦りをレイナは見抜いていた。だからアリスに、


「アリス、あの服がどうしたの?」

「うん、お父様が着ていたのと同じかなって」 


 答えてから、今度はアリスが顔を青くしてあわあわとする。 

 そうなのだ。

 それはアリスの父が着ていた服で、高級なお店のもので、しかも貴族ご用達のお店だった。

 バレル。絶対にこれ以上追求するとバレル。アリスがこんな事をしていると。

 なので、アリスは、


「気のせいだったかも。ごめん、レイナ」

「……そう。まあ、ありふれたデザインだからね」


 と、レイナも終わらせる。

 それにほっとしながら、アリスは心の中で考える。

 ノイズが貴族なら、フラットも? それなら……クルスも?。

 こんな風に自由にアリスが外を飛び回っていると、何らかの形であったノイズに、アリスの親達に告げ口される可能性だってある。

 でもそれ以上にもしかしたなら……もしかしたなら?。

 それ以上は、アリスには未経験の感情だった。

 なので、さっぱり分らないわと、とりあえずアリスは放っておく事にした。

 そこで、くるっとアリスが何かの気配を感じて振り返ると、そこには先ほどのタコの着ぐるみが。

 というか、ノイズがタコの着ぐるみを再度装着していた。


「きゃあ!」

「若い子の悲鳴はいつ聞いても良いものですな……クルスさ……ん、冗談ですよ。ええもちろん」


 やっぱり今のうちにしっかりと、理解させておこうかとクルスが黒い微笑を浮かべながらノイズに近づくとノイズが慌てて冗談だと誤魔化す。

 けれどフラットよりも年上のこのノイズは、ある意味女性の扱いに手馴れているのでクルスにとっては危険視せざる負えない。

 まして狙っている相手がアリスなのだから。

 と、そこでその着ぐるみを見ながらアリスが、


「ふと思ったのですが、なんでタコなんですか?」

「ははは、それは水の中を泳げるからです、お嬢さん」

「……タコは、海の生き物ですよね?」


 その問いかけにしばしノイズが黙ってから、ぽんと手を打って、


「水の中を泳げれば問題ないのです。ぽちっとな」

「おい、やめろ。何をする気……」


 クルスは慌てて、ノイズを止めようとした。

 ノイズがわざと罠を踏んだからだ。

 けれど時はすでに遅く、大量の水がアリス達を襲う。

 それを見て舌打ちしたクルスがアリスの手を引き、そのまま庇うように抱きしめられる。

 温かい、そうアリスは思って、次に胸が凄くどきどきして。

 次の瞬間大量の水に襲われて、アリスは意識を失ったのだった。






 すさまじい水の流れの後、気づけば見知らぬ場所に流される。


「まだ遺跡の中みたいだな」


 そう、腕の中にアリスを抱きかかえながら、クルスは呟いた。そしてようやく大丈夫そうだと思って、腕の中のアリスを見て、クルスは真っ赤になった。

 なにしろ、アリスの服が水に濡れて、体のラインとかこう……。


「そのまま襲ってしまえばよろしいのに」


 ノイズの声がして、嘆息しながらクルスは振り返る。

 そこには一滴も濡れていないノイズが立っていた。


「それで、何が目的だ」

「クルス様ともあろうお方が、どうして防御をなさらないのですか?」

「……防御はした」

「では何故それほどまで、力を押さえているのですか?」

「……お忍びだからだ」


 その受け答えに、ノイズは嗤う。


「本気を出してしまえば、その娘を如何にかしてしまうと、そう危惧していらっしゃるからですか?」

「何の事だか分らない」

「アリスが貴族であれば、話は簡単なのですがね」

「余計な真似をするな」


 言い返しながら、クルスは不安を覚える。

 そう、今回に限ってどうしてノイズがここにやって来たのか、だ。

 そんなクルスにノイズが先ほどまでの朗らかさとは対照的に、人形のような微笑を浮かべて、


「その娘を、貴方様の“供物”としますか?」


 冷たさを感じる、嗤うような声で、ノイズは告げたのだった。

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