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虫の知らせ

 水族館のような綺麗な遺跡。

 それに目を輝かせながらアリスは潜って行く。

 こんな綺麗な場所に、クルスと来れて……そう思うと、なんだかデートみたいだなと思ってしまい、そんな自分が少し恥ずかしかった。


 そしてそのアリスの嬉しそうな様子に、俺がしたかったのはこんな感じだったんだ、とクルスは心の中で涙を流しながら思う。

 今回は何事も無く、このまま適当に行って終わるといいなとクルスが心の中で呟いて……嫌な予感がした。

 いや、気のせいだ、気のせいとクルスが思っていると、黒い影が躍り出てくる。


 こんな時ばかり当らなくて良いのにと、虫の知らせを恨めしく思いながらクルスは、現れたそれに対して凍りついたのだった。






 タコが襲ってきました。

 アリス達の背丈よりも大きいタコだ。


「タコ?」


 アリスが、指を差すとそのタコは腰らしきものを振った。

 ちなみにそのタコには二つほど外を見るための穴が開いており、そこからタコの触手のような足とは別に、人間の随分と筋肉質な足が二本見える。

 その足は、すね毛の処理をしてある、けれど油か何かが塗ってあるのか、その筋肉を誇示するかのようにテカテカと光り輝いている。


 初め出て来た時は、アリスは目の前のこの生物が魔物ではないかと一縷の望みを持った。

 だがこれはどう見ても……と思ってアリスがクルスを見ると、頭が痛そうに手を頭に当てていた。

 そんな目の前のその怪奇生物に対して、レイナが鞭を振るった。


ピシっ 


「ひいい、いきなり何をするんですか!」


 タコがしゃべった。

 何処からどう見てもタコの被り物をした人間だった。

 そんなタコに、レイナが無表情に、見下すようにそのタコを見て、


「黙れこの変質者が。何でこんな遺跡にそんな格好でうろついているのよ。魔物と間違われて退治されるわよ?」

「ふ! 小娘が。この私を倒そうというのか! よろしい、相手をしてやろう!」


 そう言うやいなや、タコの着ぐるみからずぼっと筋肉質な腕が出てきた。

 それを見たクルスが、何故着ぐるみを着る必要があったのかという疑問について、呆然として固まるアリスを見ながら、クルスは心の底から小一時間ほど議論をしたかった。

 そんなタコ男にレイナがそれを見て、更に冷たい目でタコを見てからぱちんと鞭を床に打ちつける。

 そこから火の玉が五つほど生み出されて、


「行け!」


 その言葉と共に、炎の玉が五つ、一斉にタコ男に襲い掛かる。だが、


「ハアッ!」


 その掛け声と共に、腕を突き出したそのタコ男によって一瞬にしてその火の玉を消し去ってしまう。

 それには魔法を使った形跡がない。

 すぐさまアリスは魔法を放出する筒を取り出した。


「アリス、止めろ、意味がない……」


 クルスの静止する声が聞こえたが、アリスは既に魔法を発動させていた。

 冷気が放出されて、ピシピシッと氷がそのタコ男を覆い始めるも、すぐさまピシッと亀裂が入り、簡単に打ち破られてしまう。


 明らかに実力が違う。

 そしてそれを見てクルスは、このタコ男が誰なのか確信した。

 だからアリスの手をぎゅっと握って、クルスは反対方向に走り始める。

 その後をレイナとフラットが追う。


 ちなみにアリスは気づかなかったが、フラットも心なしか顔色が悪い。

 そしてそんな風に逃げ出した四人だったか、すぐ背後からすここここ、という音がして、そのタコ男がアリス達を追い越した。

 そのまま何故か、出口の方まで走ってしまうのを見送って、アリス達は立ち止まる。

 そして人影の見えなくなった方向を見ながらアリスがクルスに、


「……アレは一体何? 何がしたかったんだろう……」

「……さあ」

「お答えしましょう!」


 今度は背後から再びタコ男の声が聞こえた。

 何でこんな所にいるんだろうと、クルスは絶望的な思いを感じる。

 別にお忍びでこっそりこういった事をしているので、それを様子見するのはかまわないのだ。


 だが待って欲しいとクルスは思う。


 せめて、もう少しまともな格好で出現できなかったのかと。

 こんなのがクルスの知り合いだとアリスに知られるのが、クルスにはとてもとても嫌だった。

 だから名前を呼ぶな呼ぶ名呼ぶな、と心の中で呪うように念じていると、


「ふふふ、流石のクルス様……じゃなかった、クルスもフラットも私の足には追いつけないようだったな!」


 と、笑う。ああ、名前を呼ばれてしまったとクルスは悲しげに思っていると、そこでアリスが、


「あの……クルスのお知り合いですか?」

「ええそうです、お嬢さん。所で今フリーですか?」


 いきなりタコ男がアリスの手を握った。それを見たクルスがすっと目を細めて、


「……ノイズさん、アリスを口説くのは止めてくれな……ませんか?」

「いえいえ、綺麗な方を口説くのは礼儀でしょう」

「……そっちのレイナにし……てください、美人ですから?」

「いえ、鞭を持った子はちょっと……ノーセンキュー、という感じですかね?」 


 さらっと逃げるノイズに、この感じ、フラットに似ているなと思っていると、そのタコ男がフラットを見た。


「久しぶりだなフラット、元気にしていたか?」

「……タコノシリアイナンテボクニハイナイノデアリマス」

「薄情だな、三日ぶりに会ったというのに、弟よ」

「キコエナイ、キコエナイ、ココニハダレモイナイ、マシテヤニイサンガコンナカッコウデイルハズガナイ」

「ふむ、ではこの格好でどうだ!」


 そこで、そのフラットのお兄さんであるノイズが、タコの被り物を脱いだ。

 そこに現れたのは見た目もフラットに良く似た、美丈夫の男だった。

 やけにきらきらした感じなのはフラットにとても良く似ており、ピシッと服を着れば着やせするタイプだと良く分る。

 そんな彼は、にこりと微笑んで、


「弟が最近無断で家を出て行くので、しかも友達と一緒にこそこそ何かをやっているか調べに来たんだ」

「もう少しまともな登場の仕方がなかったのですか? ノイズ……さん」

「ははは。弟を驚かせようと思ってねぇ……」


 朗らかに笑うノイズにクルスは大きく嘆息する。

 ちなみにフラットは、真っ青を通り越して真っ白になっていた。

 そこでノイズが笑ってアリスを見る。それも上から下までまじまじと見て、うむと頷いた。


「まだまだ成長するから気を落とさないといいぞ!」

「何の話よ!」

「いやいや、所で今回は皆様に私が付いて行く事になっておりますのでよろしく!」


 突然現れたフラットの兄、ノイズは、周りの話を聞かず、アリス達にそう宣言したのだった。

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