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ねこみみ

 アリスはきょろきょろと周りを見回して、人がいない事を確認する。

 ここはアリスの家の庭に程近い、小さな森である。

 最近ちょっと魔法の杖を強化しようかなと思ったので、色々と弄繰り回していたのだが……ちょっと予想外の事態に陥ってしまったのだ。 


「この辺でいいかな?」


 森の中の少し開けた場所までやってきて、アリスはポケットから玉を取り出す。

 魔法道具……特に手作りは危ないので、すぐに使わない時はこの透明な玉に封じ込める決まりになっている。

 ともあれ、杖のように大きなものはここに入れておいた方が楽なので、一緒にまとめていたりするのだが。

 さてその杖だが、星を象った杖で、大きい星が一つに、幾つもの小さい星と赤い石やら青い石やらが複雑に組み込まれて、それが細かい紋様で繋げられている。

 アリスの持っている杖は、威力が結構ある精密機械な魔法の杖なのだが、多少魔物を殴っても大丈夫な程度に頑丈に作っているので、その使い方は間違っていない。

 なのでちょくちょく、杖で殴って倒していたのだが、魔法使いとしてどうなんだろうとちょっと悩んだので今回杖の威力を上げてみたのだが、


「失敗しちゃったのよね……」


 そうアリスは嘆息するように呟いた。

 ちょっとだけ威力を上げようと思ったのだ。

 本当に他意はなく、クルスの役に立てたらなとかそんな思いはまったくなく、そう、まったくなく、ただそれだけの理由だった。

 杖には適材適所がある。

 例えば狭くて回りが崩れる場所では大きな魔法は使えない。

 なので巨大な力を持つ杖はその時点でただの棒切れと化し、魔物を殴る程度にしか効力を発揮しない。

 そのためにどの程度の威力にして発動させるかという調整が必要なのだが……。

 そこでアリスが杖を振る。そこで現れたものはとても平和的であった。

 そしてその魔法がどの程度持続するかを見ていると、だいたい十分程度だと分る。

 ついでに効果の範囲も。


「せっかく作ったのに、どうしてこんなになっちゃったんだろう」

 そう目の前に広がる世界を見ながらアリスは悲しげに呟く。

 けれどすぐに自身の懐中時計を見て、

「しまった、レイナと待ち合わせをしていたんだった。レイナ、時間に煩いんだよな」


 そう呟きながらアリスは走り出す。

 今日もまた、クルス達と会えるのだとアリスは思うと、胸が踊る。ほんのりと染まった頬に笑顔は、アリスのその表情を何時にも増して可愛らしくしている。 

 そんな時、さあっと楽しげに風はアリスの髪を撫ぜて、どこかアリスの気づかない心を祝福するように通り過ぎたのだった。






 酒場でフラットが泣いていた。


「酷い、酷すぎる。こんなのあんまりだ……」


 そうテーブルに顔を埋めてなくフラットに、慰める気力を無くしたクルスがココアを飲んでいた。

 今日辺りアリスが来そうなので、酒ではなくココアを飲んでいたのだが……その、どうでもいいといった感のクルスの態度に、フラットが泣きはらした顔で恨めしそうにクルスを見上げた。


「……酷い、親友なのに放って置くなんて」

「……これで何回目だ、フラット」

「振られたのはまだ三十一回目です!」

「……他人の彼女を寝取ろうとしたんだから仕方がないだろう」

「人聞きが悪い! 彼氏が二股かけていますよって教えたら、デートしてくれるって……」

「……二股かけるくらいなんだから女の扱いが上手いんだろう。そんな奴と対抗して、フラットが勝てるとは思えないんだが……」

「この美形顔でどうにかなるんじゃないのか! イケメンは正義って!」

「……自分で言うと痛いから止めておけ。ともあれ、よりを戻した彼女は後で別の形でお礼するからって言っていたから、それを楽しみにしていろ」


 二股を教えたのによりを戻してデートが無しになったから御礼とか、明らかに何かがおかしい気がするが、何分フラットがここまで号泣しているのでクルスは突っ込まないでおいた。

 何も言わないのもまた優しさである。

 そんなフラットは、先ほど果物のジュースを頼んでおり、それが空になるまで一気に飲み干してから、


「ぐす、どこかにいい子、いないかな……」

「案外、あのレイナがフラットの運命の相手だったりして……」 

「や、止めて、嫌だ、あんなサドで性格と根性が悪くて、鞭持ってたりする様な尻に敷いて足蹴にして来そうな見かけだけしか良くない女の子は、おっぱいが大きくても嫌だ。嫌だ、嫌すぎる、あんな根性とか悪そうなの嫌だ……」

「へー、随分な言い草ね」

「ぎくっ!」

 

フラットがその声に背筋をピンと伸ばして顔を蒼白にさせた。

 そしておそるおそる振り返ると、そこには凄みのある笑顔で笑うレイナが仁王立ちしていた。


「だれが、おっぱいが大きいだけの根性悪のサド、ですって?」

「い、いえ、きっと何かの聞き間違えかと……」

「胸が大きい分、頭に栄養が行っていないですって?」

「い、言っていないです! そんな事言っていないです、鞭は止めてぇ、そっちの趣味は僕にはないです!」

「問答無用!」


 ぎゃー、とフラットがレイナに追い掛け回されていた。

 仲が良いな、お似合いじゃないかとクルスが嘆息すると、アリスがやってきた。


「ごめん、いつもよりちょっと遅かったかも」

「いや、いい、フラットが号泣していてどうにもならなかったから」

「? 何かあったの?」

「デートの約束してくれた女性が二股男とよりを戻したらしい」

「あらら、可哀想」

「いつもの事だ。それよりどうして今日は遅くなっったんだ?」

「えっと、魔法の杖を改造したら、失敗して、それで元に戻らなくなっちゃって」

「へえ、どんな風に失敗したんだ?」

「えっとこれがね……」

 そうアリスがクルスに魔法の杖を取り出して、見せる。そこで、

「うわーん、アリスちゃん、助けてー」

「こら! アリスから離れなさいよこの、ヘタレ男!」


 フラットがアリスに抱きついた。

 その拍子に杖の魔法が発動してしまう。そして、その魔法はクルスへとかかり、


「にゃあ」


 クルスの頭に猫耳が生える。

 その光景とその鳴き声に、アリスを含めてフラットとレイナも固まった。

 一応クルスも美形なので、見た目的には申し分なく、更に言うなら“萌え”であったのだが、流石に人間に試した事がなかったのでアリスは、

「えっと、クルス、大丈夫?」

 そう近づいて行って、そのまま猫耳クルスにテーブルの上に押し倒された。

 しかもそのまま圧し掛かられて、クルスに耳を軽くぺろりと舐められてしまう。


「ひゃぁああんんっ」


 アリスは今まで出したことがないような声が自分から出て、顔を赤くする。

 けれどクルスはそのまま、ちゅちゅっとキスを散らせて、そのままアリスの首筋に舌を這わせて軽く歯を立てる。

 それだけでアリスはびくんと変な刺激が走り体を震わせた。

 未知の感覚とクルスに押し倒されているという現実に、アリスは頭の中が混乱して動く事が出来ない。


「アリスから離れなさい! というか呪いを解除して……」


 レイナが焦ったように魔法を使い呪いを解く。

 瞬時にクルスの頭からネコミミが消えて、クルスは現在の状況を正しく認識した。

 クルスはアリスをテーブルに押し倒している状況を。

 認識して、クルス本人が石のように固まる。

 待て、どうして俺はアリスを押し倒しているんだ? そう考えて顔をかあっと赤くして、クルスはアリスから弾かれたように体を離した。

 アリスもクルスと同じように顔が真っ赤だった。


「その、すまない。記憶にない……」

「う、ううん、仕方がないよ、魔法が間違って発動しちゃって……」

「わ、悪かった」

「い、いいよ」


 そう答えながら、アリスは胸がどきどきして、服の上から触れ合ったクルスの体温を感じて、もう少しこのままでいたいと思ってしまった自分に気づいて更に顔を赤くした。

 一方クルスも、、自分の無意識の願望が出たのではないかと苦悩しつつ、何で覚えていないんだ俺と悔しい思いをしていた。

 そんな何処か初々しさのある二人の様子にレイナは嘆息して、


「アリス、その杖はもう使うのをやめなさい」

「う、うん。そ、そうだ、それで今日は何処に行くの?」


 話題を変えるように今日の行き先を聞くアリス。

 それにクルスは、


「水中遺跡だ」


 そう、答えたのだった。

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