何故?
クルスに連れられて、アリスは歩いていた。
その白い煙が鏡の組み合わせによって広くなったり、時に枝分かれしている。
けれど、それをクルスは迷う事無く進んでいく。
どうして分るんだろうとアリスは目を凝らすが、違いがまったく持って分らない。
そこで、クルスが突然止まった。
「囲まれた」
「え?」
けれど、アリスは周りを見渡すも影も形も見えない。
ただただ広い空間が広がっていて、魔物の姿すら感じられない。
そこでアリスは自身の三つ網のリボンが引っ張られるのを感じた。
「何って……え?」
それは黒くてごつごつして細い、そんな干乾びた人の手のようなものだった。
それがアリスの髪のリボンに触れていて……その気持ち悪さに、アリスは叫んだ。
「い、っいやあああああああ」
アリスはとっさに自身の持っていたつつを取り出して、その黒い手を炎の風圧で吹き飛ばして燃やした。
そしてはあはあと、息を荒げるアリスに、クルスが軽く背中を叩く。
「アリス、危ないから結界を張って暫くここで大人しくしていてくれ」
「! 私だって……」
「少し大技を使うから、アリスには結界を張っておいて貰わないと困るんだ。俺は、アリスには怪我をして欲しくないから」
「そ、そういう意味なら……分った」
「よろしく。出来るだけ強めの結界を頼む」
そう告げてクルスは駆け出した。
実の所、アリスに怪我をさせたくないのでクルスはあまり戦闘に参加させたくない。
このまま連れ去って、誰も知らない場所にアリスを閉じ込めて、愛でられるならまだしも、流石にそういうわけにはいかない。
嫌われたくないし。
かとって戦闘に参加させないようにしている事がアリスに気づかれてしまえば、クルスの元からアリスは去ってしまうかもしれない。
だから、納得できる理由を用意しておかなくてはと、そのように言った。
そしてアリスが結界を張った事が分る。
だから、その鏡や壁ごと、その魔物を吹き飛ばす事にした。
「……あそこだな」
一番強い気配を感じるあたりに少し魔力を加えて、剣を振るう。
それだけで轟音と土煙が舞い、黒く大きな……先ほどの手のようなものを一杯つけた、ぎょろぎょろとした目玉の怪物が現れる。
けれどクルスにとっては、それこそ相手にならないそんな魔物だった。
それを、飛び上がり剣を振り下ろす。
悲鳴のようなものがあってあっけなく魔物が倒されて、さらさらと霧のようになって青と黄色の石を幾つか落とした。
その様子を見ていたアリスも、クルスの強さと、その時の横顔に魅入られていた。
いつも優しいし、真面目で穏やかなのに、真っ直ぐ敵を見据えるその姿は獰猛さが垣間見える。
そう思うと、アリスは顔が熱くなるのを感じる。
しかも胸がどきどきどきどきして、止まらなくなるのだ。
こんな感覚はクルスと出会ってからで、けれど、何時までもクルスを見ていたいような錯覚に襲われる。
それに気づいて、アリスはなんだか恥ずかしくなり首を背けた。
そこで、再び赤い光がすぐ傍の壁に見えた。
先ほどの事も踏まえて、アリスは手出しをしないでいる。けれど……。
「え?」
アリスの周りの結界が消えた。
アリスが解いたわけではなく、自然に消えてしまったのだ。
同時に黒い影が後ろから射し、反射的に振り返る。
先ほどと同じ魔物だ。ただし大分大きさは小さい。
この程度ならばと、使い勝手の良い炎の魔法で攻撃する。
魔物の絶叫と共に、消え去っていくその姿に、アリスは安堵する。
そして私だって、結構使えるじゃないかと自信を持って……それ故に油断した。
「アリス!」
クルスの叱咤する声と共に、アリスが黒い腕のようなものに捕まえられるのは同時の出来事だった。
えっと疑問に思う時には、アリスの足にはその黒い手がアリスの足を掴んでいた。
クルスが慌ててアリスを助けようとする。
一方、ぐっとアリスの足を掴む感触に、アリスは怖気を感じる。
けれどその手は壁の隙間から現れ出でているようで、その本体が何処にあるか分らないので、攻撃しようが無い。
そもそも普通の攻撃ではこの壁は壊せないのだ。
嫌だ。
気持ち悪い!。
そうアリスは強い感情で思い、払いのけようとした。
そこで、唐突に壁が動き出す。
ぐらぐらとこちらからは揺れたようにしか思えなかった。
けれど、先ほども聞いたような気持ち悪い悲鳴が聞こえて、アリスの足を掴んでいた黒い手が消え去る。
それから、その黒い手が生えていた壁が崩れ落ちていく。
その先に見えたのは鋭く尖った、水晶が槍のように一転に突き刺すように収束している。
「アリス……いまのは?」
「わからない。突然消えちゃって……でも壁が壊れて……」
クルスはその鋭く尖った水晶の先に、魔物の魔力の残渣を見て取る。
つまり、この遺跡自体が、それまで放置していた魔物を攻撃した事になる。
何故?。
どうして?。
それは分らないが、ただアリスは遺跡を動かす力を持っている。
そして遺跡は彼女を守ろうとする。
それは意図しないで、起こるのかもしれない。
「クルス、どうしたの?」
「なんでもない。早くここを出て、フラット達と合流しよう」
そう、クルスは、アリスに気づかれないように微笑んだのだった。




