それぞれの密会
お待たせしててすいません。
毎回謝ってるな……
あれからジュネスは少し頑なになった。毛嫌いしている実家の話をグレイが持ち出したことがよほど堪えたらしい。グレイとしては、血の繋がった家族が存命しているというのに、いつまでも敬遠している事に対して複雑な心境なのだ。
以前も少し考えてしまったことだが、どうしてもライナと比べてしまう。もちろん二人は生まれも育ってきた環境もすべてが違うとわかっている。『家族』に対するとらえ方も違うだろう。それはジュネスだけに限らず、グレイを含めたその他多数にも同じことが言える。
けれど少なくとも、どんなに望んでも両親に会えなくなってしまったライナと、自ら距離を置き決して会おうとしないジュネス。二人の事を知っているからこそ、思わず比べてしまうのだ。
「グレイ様。もうすぐパーティスとロックが来ます」
「……ああ、もうそんな時間か」
考え事は当人であるジュネスによって遮られた。
今までの成果を報告し合うため、仮住まいにパーティスたちが来ることになったのが、つい二日前。住所を教えた翌日だった。これだけ早く接触してくるということは、なに掴んだことがあるのかもしれない。
「カーテンを引きますか?」
「対外的には別に疚しいことで集まるんじゃない。見られたって構わない。ま、話の内容さえ外に漏れなければ充分だ」
「では、窓は開けないようにしておきます」
窓はすべて施錠されていくが、カーテンはどんどん開けられ明るい光が部屋を満たしていく。その光は実家の食堂を思い起こさせた。ライナが来てから毎日穏やかに行われるようになった『揃って朝食』という行為。
毎朝ライナが朝の挨拶をしてくれていたこと、美味しそうに食事を食べる姿、いってらっしゃいと見送ってくれ、おかえりなさいと迎えてくれた笑顔。様々な情景が思い浮かんだ。
笑顔で、楽しそうに。マナーの授業の時だけは大人しくしていたけれど、それ以外の自由時間では結構パタパタと走り回っていた元気な姿。木に登っていた時には本当に驚いたが、そのお転婆ぶりも全てが愛おしい。声が出ない事は、決して楽天的になれるものではないのに、ライナは大したことではないのだとでも言うように笑っていた。
いま、無性にその笑顔に癒されたかった。
「ホームシックかな」
小さな呟きは、準備を続けていたジュネスには届かなかった。
「隊長〜いいとこ住んでますねぇ」
現れたパーティスは、挨拶を見事にすっ飛ばしてくれた。後から入って来たロックは、そんなパーティスを押しのけてグレイの前まで進み出ると、お手本のような敬礼をしてくる。見事なほど正反対な二人だ。
「お久しぶりです、隊長」
「久しぶりというには最近だな」
パーティスの軽すぎるところはどうかと思うが、ロックの固すぎるところもどうかと思う。二人を足して割った位がちょうどいいと思う今日この頃だ。
「二人ともまぁ座れ」
「はい」
「失礼します〜」
居間のソファーに誘導している間に、ジュネスがワゴンに人数分のカップを乗せて現れた。いつの間にか買ってきたのか、ちゃんと茶菓子まで用意してあった。ジュネスにとっては、パーティスもロックも部下になるため、本来であれば給仕をすることはないのだが、対外的に見られた場合の事を考え、ジュネスはあくまでバーガイル伯爵の従者に徹することにしたのだった。
思わず手を出して手伝おうとしたロックだったが、ジュネスの冷たい一瞥に諦めた。目の前に並べられていくティーセット。だが、パーティスはその用意されたティーセットよりも、棚に並べてある(観賞用の)ワインボトルに視線を走らせた。
棚中のワインは結構な年代物が並んでいる。迂闊には開封できない代物だった。恐ろしくて手が出せなかったボトルたち。年代物とは分かっていないだろうが、すぐさまワインを見つけるとは……状況把握能力が高いと褒めていいところなのか悩むところだ。
ちなみに安物ワインは食糧庫に何本かあったが、飲みつくさないように定期的に市場に赴いて補充している。
「ジュネスさぁん、俺ワインとか飲みたいなぁ〜」
恐れを知らないパーティスは、へらりと笑うとおねだりする様に両手を合わせ、首を傾げてみせた。ちなみにいくら顔が良くても、軍で鍛えられ体格のいい男がそんな仕草をしても可愛いわけがない。
「―――任務中という職務についているはずのパーティスくん」
「ひぃっ」
「な・に・か……言いましたか」
案の定冷気漂う一言で、パーティスだけでなくロックまで一気に姿勢を正し「「何もありませんっ」」と声を揃えて首を振った。
部下たちの変わらないやり取りに疲れつつも、砕けた会話に多少安堵もしていた。なにしろ先の見えない任務なのだ。気持ちが荒んでしまっていてもおかしくない。だが、ジュネスはともかくパーティスとロックの二人に変わりはないようだった。
「パーティス、ロック。そろそろ本題に移ろう」
「はい」
ソファーに座りなおしたロックは、ずっと持っていた書類入れの中から数枚の紙を取り出した。それをテーブルに広げていく。
「これは?」
「パーティスが調べた内容を、俺がまとめました。話を聞いているだけじゃ長いだけでまとまらなくて……不明点は直接こいつに聞いて下さい」
「助かる」
この凸凹コンビの相性も気にしていた一つだが、凸凹なりにそれぞれの役割をしっかり把握してくれているようだ。
「ここに来るまでの報告……」
★以前、15歳くらいの少女を探していると売春宿に男が来た
★ほかの村などでも目撃例あり
★男手を募集していると斡旋業者がきた
★精霊が見えるかを子供たちに聞いて回る不審者がいた
★10代から30代の男たちを中心に募集していた
★一帯で数件の失踪あり。行方不明のまま未解決
★募集に応じた男たちにはその場で頭金の支払い
★貧民であっても受け入れる
★少女を探している者たちと、男手を集めている者たちは同一業者?
「パーティス、これは……」
グレイは愕然とした顔で報告書の主を見た。横で一緒に文字に視線を走らせていたジュネスも青い顔をしている。雑然と箇条書きにされているが、内容はきっぱりと二つに分かれる。
一つは少女を探している
一つは男手を集めている
そしてこの二つは同じ者たちが行っている、という疑惑もあるようだ。だが、そんなことよりもグレイとジュネスの反応したのは『15歳くらいの少女』と『精霊』のふたつだった。これは十中八九ライナの事ではないだろうか。
「とりあえず、ここに来るまでに集めた噂話とかですよぅ〜。綺麗なお姉さんから聞いたのと、酒場のおっさんに聞いたのとか混ざってますけどね〜」
「すいません、隊長……まとまりなくて」
温くなった紅茶を啜っているパーティスと、自分の力のなさに打ちひしがれるロック。お前たち、なかなかいいコンビだよ。と言って笑ってやりたいところだが、グレイの心境はそれどころではなかった。
「ライナに外出を控えるよう、連絡したほうがいいのでは」
「ああ……」
小さく囁いてくるジュネスに、グレイは言葉にできない衝動を必死に抑え込んでいた。
全身を駆け巡る嫌な予感に、グレイは耐えなければならない。何故失念していたのか。ライナには花祭りの時に見知らぬ男に連れ去られそうになった前例がある。最近はずっと穏やかで気が緩んでしまっていたとしか言いようがない。
「師匠に精霊を飛ばす。ライナの周りを強化してくれるだろう」
言うが早いか、グレイはその場ですぐに精霊の速さを特化し、報せの為にロットウェルに向けて飛ばせた。ジュネスとロックにはまったく見えていない作業だったが、パーティスはその見事な技に目を丸くして感嘆の声を上げた。
「隊長、すごいです〜……」
「見えてるお前も結構なものだ」
ファーラル仕込の【魔法士】の技だ。なかなか見てわかるものでもない筈なのだが……もしかすれば、国から放り出されたこの任務のせいで、彼の中で能力が成長しているのかもしれなかった。
―――とりあえず、いまはこれくらいしか出来ない……か。
不穏な動きが見えてしまうと、こうして他国に潜入任務をしていることがつらくなる。出来るならライナを守りつつ、不穏分子をすべてこの手で刈り取ってしまいたいほどだ。だが、いまはその役目をファーラルに任せるしかない。手紙のやり取りは足が付きそうで行えないのだ。
「隊長、聞きたいことがあるんですが」
「……なんだ」
それまで黙っていたロックがおずおずと手を上げた。
「俺たち、身元証明をしたんですが……軍籍記録が消えてるんですよね」
「除隊処分ってことは、軍籍記録はあるはずなのにおかしいな〜と思いましてぇ」
「ああ、すまん。お前たちの記録は除隊処分じゃなくて、記録抹消だった」
「「えぇぇえぇえ抹消!?」」
あっさりと告げられた内容に、パーティスとロックは目を剥いた。しかもサラッという内容ではない。
「この前、除隊処分って言ってましたよね!?」
「言い間違えた」
「抹消ってどういうことですかっ」
「軍記録自体に、お前たちの名前はない」
「そんなあっさりと衝撃の内容話さないでくださいよっ」
「どっちにしても任務後は復帰なんだから、どっちでも同じだろう」
あまりにも悪びれず告げられた内容に、さすがの凸凹コンビも頭を抱えて唸っていた―――のだが、パーティスの立ち直りは早かった。
「つまり、多少羽目を外しても許されると〜!」
「違う」
「つまり、今俺は隊長の部下でもないと〜!」
「いい度胸だな」
「う、うそです……っ、ああああ頭、砕け…ま……っす」
グレイは大きな手でパーティスの頭を掴むと、ギリギリとその軽い頭を締め上げたのだった。
その頃ロットウェル
薄暗い室内に、数名の男たちが集まっていた。その中には身なりの整った者もいれば、見るからに粗野であろう男もいる。貴族階級者なのか、裕福層なのか、庶民なのか。それ以前に犯罪を犯したことが無いと断言できる者が含まれているのか……それすらも集まった雰囲気からでは分からない。
しかし、一人の男が発した一言がすべてを物語る。
「バーガイル伯爵がいない?」
「ああ、なんと今はマーギスタだとさ」
「それは俺たちにとっては幸運だな」
「なるほど……『籠の鳥』を狙うなら今ということだな」
男たちは様々な笑みを浮かべ、頷きあった。
評価・お気に入り登録・コメント等々いつもありがとうございます。
活動報告にSSでも書ければいいのですが、どうにも不器用で申し訳ないです。よろしければコメントなど頂けると舞い上がって更新したくなると思いますので、なにか残していただけたりするときっと大喜びします!(≧▽≦)
次回も本編更新予定です。
そろそろマーギスタとロットウェルのアレコレが絡み始めます。




