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無声の少女  作者: けい
マーギスタ
66/145

「はじめまして」

大変お待たせしまし…た…

 ここマーギスタは、ロットウェルともドルストーラとも違う体制の国だ。ドルストーラは一人の王を頂点としており、ロットウェルでは六人会議が示す通り、6人の代表者が国を動かしている。だが、マーギスタでは、選挙で選ばれた一人の代表者が主軸となり各部門の長として国を運営していた。

 一人の代表者と言えばドルストーラと似たようなものだと疎い者は考えてしまうが、全く別物だ。


 世襲によって王制が維持されているドルストーラは、一部血族のみが優遇されるという弊害が生まれている。実際いま行われている【精霊士】狩りにしても、王に媚を売る者たちが提案した愚策の1つだ。しかし、マーギスタでは国民がそれぞれ投票し、自分たちで選んだ代表者を国の長として据えている。国民を無視した政治を行えば、その力関係、勢力図はあっという間に書き換えられ、また代表の椅子から落とされた者は二度と国政に関われないという厳しい処罰も受ける。

 国民の信頼を失くさず、期待感を維持して国を動かし続けることは並大抵の努力では賄えない。


 ロットウェルはその分、六人がそれぞれの得意分野を受け持ち、その責任も個々ではなく六人全員が請け負うのだ。妙な工作など施し、まして国や民になんらかの被害が被った場合、その非難は六人全員へ―――そして最終的にはまとめ役として存在しているファーラルに向かうだろう。期待感が失望に変わり、それが解消されなければ憎悪に変わる。政変を体験した者たちは当時の苦しさを実感しているからこそ、下手な政は出来ないという責任がある。


 隣り合っている国同士で、ここまであからさまに体制の違う国造りになってしまったのも、それぞれの国が抱える過去の歴史が起因しているのだろう。



 ロットウェル有力貴族とその従者として入国したグレイとジュネスは、予定通り事前に契約を交わしておいた仮住まいに移った。名目はそのまま、ロットウェル(となりのくに)の貴族が起業家に融資するため、視察に来たという体になっている。自分の利益にかなうような人物がいれば、金銭面などで融通するということは貴族間では多々あることだ。だが、それが他国にまで及ぶことは稀であり、実際グレイはマーギスタの貴族たちから少し訝しむ視線に晒されることになっていた。


「ロットウェル内にもやる気のある起業家はいるのですが、どうしても周りと似たり寄ったりになってしまいがちで。他国にまでくれば、また新しい出会いがあると思ったのですよ」


 招待された会食の席で、グレイはその話題をさらりと流した。聞いていた者たちは、それは一理あると思い至るものもあったようで、逆にマーギスタにはない職種への質問や融資への流れなど、積極的に質問攻めにあうことも増えた。


 一通りの顔合わせと食事が終わり、出席者たちはそれぞれ歓談へと移った。今回伝手を通して招待されたのは、まさに起業を目指す若者とそれを支援しようという貴族の顔合わせのようなものだ。起業家の卵たちは自分の夢を熱く語ったり、現在進行形のプランの説明などに余念がない。グレイは周囲へと視線を向けつつ、壁に背を預け会場を見渡していた。

 そして残った者たちの輪でひとつ、青年たちの集まりがあった。


「造船?」

「荒れた海に出るっていうのか」

「危険すぎるから、乗り手がいないだろう」


 誰かの提案した内容に、異議を唱える声が続く。


「それに海はよく凪ぐ。風が無ければ人力で動かすしかないが人手が足りないぞ」

「そりゃあ、ドルストーラやほかの島国にでも直接荷物が運輸できれば美味しい商売になるだろうけどさ」


 海路が未発達な現状では、あまりにも危険すぎる賭けだ。なんとか造船までこぎつけたとして、それを動かすための人手がないだろう。そうなれば宝の持ち腐れになってしまう。


「だいたいにして、そんな無謀な計画に出資してくれる人もいないだろう」

「そうでしょうか〜。うーん。奇特な貴族様がいるかもしれないですよ〜」


 間延びした声に、グレイとジュネスはぴくりと肩を震わせた。聞き覚えのある男の声だ。だがまだ動かない。話に耳を(そばだ)て続ける。


「いない、いない。えーっとどこから来たんだアンタ」

「ロットウェルからです〜。パーティス・オルガンと申しますので、仲よくしてください〜」

「ロットウェル!また遠路だな」


 パーティスの言葉に、反応した青年は大業に驚いた声を出した。周りの何人かも追随して同じような声を出しているのが分かる。


「なにしろ爵位のない三男坊でしてね〜自分で生計を立てないと食べていけないわけで〜」

「わかる、わかる。ここにいる連中も似たようなもんだ」

「文官にでもなれればいいんだけど、狭き門だしな」

「そうそう」


 どうやら似た者同士の慣れあい集団のようだ。その中でパーティスは持論を展開していたようだが、起業家を目指す先輩たちにダメ出しを食らったということだろう。ならばそれを拾い上げるのが……『奇特な貴族様』の役目だ。


「面白そうな話ですね。ぜひ詳しく聞かせて頂きたい」

「!」


 突然割り込んできた人物に、起業家の卵たちは一斉に振り返った。その視線が上から下まで一瞬で舐めるかのようにグレイを眺め、すぐに相好を崩した。


「これはバーガイル伯爵」

「今のお話に興味がおありで?」


 馴染むように輪の中に自然と入り込み、微笑を浮かべる。もともと美丈夫であるグレイの姿は、自然と人を魅了してしまう。だが気配の中に微かに畏怖を感じさせて威圧してしまうのだ。


 ―――おっかねぇ〜〜

 これはパーティスと静かに護衛として控えていたロックの心の声である。


「今話していた彼―――ああ、君ですか。君もロットウェル出身だとか。わたしも同郷です、親近感がわきましてね」


 言いながらへらりと笑ったままのパーティスの正面に陣取ると、グレイは訓練で皮膚が固くなった手を差し出した。パーティスはその手を握り返して、その厚みに一瞬瞠目してしまうが、一瞬で表情を改めた。


「はじめまして、グレイ・バーガイルです。名ばかりの伯爵を名乗らせていただいてます」

「はじめまして〜。パーティス・オルガンです〜」

「もしやオルガン子爵の?」

「ご存知ですか〜。放蕩の三男坊です、お恥ずかしい〜」

「いやいや、異国まで赴いて事業を計画しているとは立派なものですよ」


 いけしゃあしゃあと言いながら、片手で遊ばせていたグラスを従者に徹しているジュネスに手渡す。そして自由になった手で上着の内ポケットを探り、紙とペンを取り出した。


「ここが、いま仮住まいをしているわたしの住所です。よかったら後日にでも詳しい話を聞かせてください」

「ありがとうございます〜」


 サラサラと書かれた一枚のメモには、確かにマーギスタの住所が書かれていた。これでパーティスがグレイの仮住まいの屋敷へと、自然と足を運ぶ口実が生まれた。誰にも見られないうちにと、パーティスは隠しポケットにメモを仕舞い込む。


 だが、そんなことを知らない周りの起業家の卵たちは、いきなり始まった商談の最初の一歩を目の当たりにしてどよめきを隠せなかった。自分たちが否定した内容を同郷のよしみとはいえ、あっさりと交渉のテーブルに着けてしまったのだ。焦らずにはいられない。

 一人の青年が顔を上げてパーティスに詰め寄った。


「オルガン卿!わたしもその計画に混ぜてほしい」

「うわぁやめてください〜。それならいっそ呼び捨てでおねがいします〜」

「それならオルガン君!一緒に頑張らないか!」

「えーっと、えーっとですねぇ……」


 予想外の事態に、思わずパーティスはロックに視線を送るが完全に無視された。ちらりとグレイを見るが……表情が読めない。

 最初の者のほかにも手のひらを返し、共同計画を持ち出す者も名乗りを上げ始め、その場は賑やかを通り越して騒がしい一団となってしまっていた。

 突然会場の一角が騒がしくなったため、どうしても他の出席者たちの視線も集まってしまう。


「伯爵と話す前に、まずはぼくたちで計画をしっかり立て直すべきだと思うんだ」

「それは遠慮したい」


 誰かが言った希望に溢れた言葉に、冷たい言葉の剣を突き付けたのはもちろんグレイだった。それまで黙って眺めていた人物が低い声音で拒否してきたのだ。盛り上がっていた彼らにしてみれば、冷や水を浴びせられたようなものだっただろう。


「わたしはオルガン氏と話している。君たちは部外者だ、下がりなさい」


 実際、その声音は凍っているかのようだった。低い声と鋭い眼光。戦場で見せるものとはまた別の、人を威圧し圧倒する気配。


「あ…伯爵―――あの……」


 まだ言い募ろうとした青年を止めたのは、それまで動きが無かった従者だった。


「我が主の声が聞こえませんでしたか?下がりなさい」

「……っ」

「くっ……」


 ジュネスの主と同じくらいに冷たい視線と声に晒され、輪になっていた青年たちは一人また一人と立ち去っていった。交渉を始めようとしているのに、横槍を入れてくること自体がマナー違反なのだ。グレイとジュネスの対応は冷ややかなものだったが、決して間違った対応ではない。実際、事態を理解した古参の事業家や出資者たちは、勢いだけの若い起業家の集団に冷ややかな視線を向けていた。


「これで落ち着いて話せますね(なんであんなのと一緒にいたんだ)」

「お恥ずかしい。まだこちらに来たばかりで、彼らの輪に入れてもらわないと身動きもとれないのですよ〜(そんなこと言っても、この会食に招待されるようになるまで大変だったんですよ〜)」

「わたしもまだ不慣れなものです(そんなこと知るか!お膳立てはしてあっただろう)」

「お互い故郷が同じようですし、よい関係を望みます〜(ヒドイ!隊長ヒドイ!)」


 その後笑顔を張り付けた会話はしばらく続き、後日グレイの仮住まいで詳しい話を聞くことが決まり、その日はその場で解散となった。


 だが、すぐに会場を去ることはせずお互いそれぞれ内輪の会話を拾っていく。

 グレイのところには出資希望の者たちが集い、パーティスのところは早々にバーガイル伯爵と知り合えたことを妬むもの、羨むものが集まった。

 しばらく歓談し、そろそろ暇を告げようかと体の向きを変えたところで、誰かがグレイへと向かって歩いている事に気が付いた。


あまりの自室の寒さにキーボード打つのが苦痛とか、それどんな極寒。

こんばんわ、けいです。

更新を待って下さっている優しい皆様、いつもありがとうございます。

お気に入り登録とか評価とか、本当に嬉しいです。

今後ともよろしくお願いいたします。

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