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無声の少女  作者: けい
マーギスタ
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集合

お待たせしました。

 グレイとジュネスの二人は、無事にマーギスタに入国を果たした。軍の関係者ではなく、完全な私事としての手続きを取り『グレイ・バーガイル伯爵』としての入国許可だ。もちろんジュネスも同様にいつも通り従者として入国した。ジュネスは家名を記入することを躊躇らい、結局入国書類には書かなかった。主であるグレイの名前が正確に記載されていた為、従者の家名はそれほど重要視されないのが幸いした。


 二人は予定していた通り、まずは事前に用意されていた郊外にある古びた建物内で残り二名の到着を待つことにする。一定の道具は用意されており、数日間過ごしても支障ない程度には設えてあった。


「グレイ様、これは一体誰が用意してくださったのでしょうか。ワインなどもありますが、不用意に口にしていいものか……」


 室内を物色していたジュネスは、決して綺麗とは言えない建物を探索し、食糧庫らしき場所を発見した。その中から日持ちのする携帯食やワインを持ち出してきたようだ。

 グレイはジュネスの手の中にあるものを見て、軽く口元を持ち上げた。


「ああ、それなら問題ない。ここはファーラル議長の間者が使っていた所だ」

「か、間者……はぁ。……相変わらず……謎多き人ですね」


 ファーラルについて深く追及してはならない。それは長らくグレイの傍でファーラルを見てきたジュネスの信条だった。自分の精霊が入り込めないのであれば、息のかかった自分の手駒(ネズミ)を入れてしまえばいいという、ファーラルにとっては至極当然の結論の結果だ。


「いまは間者も出払っているとかで、マーギスタの監視は手薄になっているらしい」

「出払っているとは……つまり、ほかに注視する場所が出来たということでしょうか」


 グレイの言葉にジュネスは湧き出した疑問をぶつけてみた。恐らくファーラルの中で監視対象になっている場所は数多にある。そしてここマーギスタも友好国とはいえ完全に気を許しているわけがないのだ。それなのに、放っておいた間者を引き揚げさせている。

 今回グレイたちがわざわざマーギスタに潜入しなくてはならなくなった原因もここにあるのだろう。本来であれば、潜伏している間者が行うはずの内偵を引き受けることになったのだから。


「恐らくそうなのだと思う。だが、それがマーギスタの別の街なのか、別の国なのか、もしくはロットウェル国内なのか俺には想像もできないな」

「けれど、少なくともこの首都の監視に長けていた間者殿はいない」

「そういうことだ。気を引き締めて行こう」

「はい」


 そうしてグレイとジュネスは二人で細々と過ごし、空いた時間にはこっそりと市場に行き買い出しなども行った。パーティスとロックが合流を果たしたのは、グレイたちが到着してから二日後だった。


「グレイ様。二人が着きました」

「わかった」


 到着したらしい待ち人たちは、ジュネスの案内で居間として使っている部屋に通された。必要最低限以下の設備と、朽ち果てそうな部屋の汚れ方に通された二人は思わずが顔を顰める。


「ご苦労だったな」

「子爵家の三男としてはっきり名前書いてきちゃいましたが、よかったんですかねぇ〜」


 グレイのねぎらいの言葉も聞き流し、パーティスは勧められるままに椅子に腰を下ろした。相変わらず緊張感を感じさせない、間延びした声は思わずこちらの肩の力が抜ける。けれどその表情は疲れ切っており、さすがに旅行などではなく任務として他国入りする緊張感が見てとれた。いつも飄々としている顔つきが、若干強張っている。


「俺も隊長のいう通り、堂々と本名書いてきましたが……調べられたらロットウェルの軍関係者だってバレてしまいますよ」


 童顔を強張らせ、こちらも緊張の面持ちだ。しかもロックは庶民の出で、ロットウェルから出るのも初めてだった。


「安心しろ。万が一調べてもお前たちが軍関係者だとはバレない」

「なぜですか……」


 二人の不安げな様子に、グレイはあっさりと言葉を投げた。


「おまえ達は除隊処分扱いになっているからな」

「はぁ〜〜〜!!!???」


 二人の声が室内に響く。とたんに外を見回っていたらしいジュネスが飛んできて、パーティスとロックの頭を埃の被った新聞紙で殴りつけた。


「いて、げほっ!」

「埃が、目に……っ」

「うるさい!でかい声を出すな!」


 ジュネスは頭から埃を被った二人に声を張り上げたのだが―――


「お前たち全員うるさい」

「「「……申し訳ございません……」」」


 突き刺さるかのような冷たい声に肩を縮めた。そして薄い青い瞳が冷酷に光った気がして、部下3名は大人しくその場で直立したのだった。




 その晩、集まった4人は簡素な食事を囲んでこれからの作戦を話し合うことにした。辺りはすでに暗くなっていたが、煌々とした明かりは付けられないため、奥まった光の届かない部屋に移動し、精霊に光を出してもらった。柔らかな光は目にも優しく、ほんのりと温かい。


「便利ですね、精霊って」

「信頼関係が築けるようになるまでが大変だがな」


 ロックの正直な感想に、思わず苦笑いが漏れる。実際、ファーラルの元で【魔法士】として修業した期間は本当にきつかった。あの期間があったからこそ、ここまで精霊たちと意思疎通が出来るようになったとも思うが。


「さて。これからの事を話す。食べながらでいいから聞いてくれ」


 グレイは手に持っていた硬いパンを置き、円になって座っている部下たちに目を向けた。上司が食べるのをやめたというのに、そのまま食べ続けるわけにもいかず、3人もそれぞれ手に持っていたパンやスプーンを手放した。


「明日から3週間、俺たちは2班に分かれて別行動となる。その間はそれぞれ役割を忘れず、マーギスタの貴族、企業家と親交を深める。こちらからの連絡は精霊にもたせる。パーティスが正確に読み取れ」

「はい。りょーかいです〜」


 片手に持っていたスプーンを上げ、返事をする。ジュネスはそんな行儀の悪さに鋭い視線を走らせたが、グレイは気にせず先を進めた。


「そちらからの連絡は禁止する。俺からの連絡があった際、返信として精霊に言付けろ」

「俺の言うこと聞いてくれるかなぁ〜」

「聞くようにしておく。俺たちはマーギスタの首都中央に小さな屋敷を用意した。といっても仮住まい程度のものだから、使用人はいないがな」


 パーティスとロックが合流するまでに二日間で、グレイたちは街に下りて物件を探していた。小さな邸宅の中古物件を。引っ越しの時期が重なったのか、運よく何件か候補が上がった。その中で一番安くて少し港寄りの物件に決めたのだ。


「おまえ達は起業家としてマーギスタに来たことになっている。屋敷を持つのは不自然だ。暫くは適当なところで宿を取れ」

「はい」


 グレイ言葉に、ロックは神妙に頷いた。とりあえず今夜はここに泊まるとして、明日からはパーティスの手綱はロックにかかっているのだ。いやでも緊張する。そんなロックの姿を見ていたグレイは一番肝心な注意事項を伝えていなかったと思い至り、パーティスに向き直った。


「パーティス、任務中は女を買うことは禁止する」


 突然飛び出した発言に、この日一番パーティスが反応を示した。


「え、ちょ……マジで言ってるんですか!」


 グレイからの禁止令はパーティスの想定外だったようで、思わずいつもの間延びした口調も吹っ飛んでいた。だが、どんなに驚いたところでこの鬼隊長が意見を覆させるわけがない。暫く頭を抱えて『あぁあぁぁ』『うぅうぅぅぅう』と唸っていたパーティスだったが、最後はがっくりと肩を落して了承したのだった。


「それよりも隊長、俺たちの除隊処分ってなんですか……」


 隣で無様に唸っている男の事を完全に無視し、ロックはずっと気になっていたことを口にした。最初に驚きの発言をし、大きな声を出して怒られてからイヤな響きを持つ『除隊処分』という単語を避けていたのだが、どうしても気になる。


「言葉通りの意味だ」

「そんな勝手に……っ」

「安心しろ。この任務が終わり次第、解除される」


 グレイがあっさりと言うが、それでもロックは疑わしげに目線を向けてきた。それに気づいたジュネスはそれぞれのカップに温めたブランデーを注ぎながら声をかける。


「ロック、わたしもグレイ様除隊処分扱いだ」

「えっ!」


 ジュネスから飛び出した発言に、再び高い声を上げてしまい慌てて両手で口をふさいだ。そんな姿を見つつ、ジュネスは困ったように眉根を寄せ、言葉を続けた。


「さすがに軍籍のまま潜入捜査をしては何かあった場合、責任の所在が大問題になる。だから期間中だけは全員軍籍ではなく、一個人だ」

「なるほど。確かに」


 ジュネスの説明にロックは深く頷いた。


「事件などではなくても、事故などにあって身元が調べられる可能性もありますからね。その時、ロットウェルの軍所属の人間だとなれば、マーギスタもなにかしらの行動を起こすでしょうし……」

「それが原因で軋轢を生む可能性ってことでしょ〜?まぁ、だから女買うのも禁止なわけですね……どこから情報漏れるかわからないし……はぁ〜」


 ロックの言葉に続くようにパーティスが言葉をかぶせた。

 すぐに内容を咀嚼して理解できる能力は得難い才能だ。ロックの素直なところと、パーティスの精霊感知能力を買ってはいたが、この二人なかなかいい拾いものをしたとグレイは内心ほくそ笑んだ。


「だが任務終了後は戻してもらわなければ、グレイ様はともかくわたしは収入源が断ち切られて大変困る」

「ははは、それはお互い様ですよ」


 少し茶化したようなジュネスの発言に、ロックは肩の力が抜けたのか緩い笑みを向けた。いつも気を張っているのだろうロックの表情は硬い。本人が童顔を気にしているというのも原因の一つだと思われる。だが、いまはふっと肩の力が向けたのか、柔らかい素の表情が見れた気がした。


「お互い無事に国に戻るためにも、この潜入任務は無事終わらせる」

「「「はい」」」


 郊外にある薄汚れた建物の中で、他の誰も知らない決起集会は夜半まで続いた。


いつもありがとうございます。

進んでいるのか謎ですが、進んでます、きっと!!!

次回はもうすこしサクサクと時間軸進めたいと思います。


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