↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無声の少女  作者: けい
マーギスタ
60/145

ロットウェルに潜む影

 グレイはファーラルに指示された作戦のため、密かに一緒に潜入する部下の選定に入った。だが、内容は極秘とされているため、身近な人物でこのことを知っているのはジュネスだけだ。毎日いつものように出仕し、部下たちをこれでもかと訓練する日々が過ぎていく。そうしながら直接見て、接して適切な人材を選んでいった。


 自分に課せられた任務がマーギスタ潜入だと分かっているが、部下たちに知らせてある任務内容はあくまで国境警備だ。しかも友好な関係を築いているマーギスタとの接地点。ドルストーラとの国境警備に赴くのとでは、気分も気概も違ってしまい、どうしても内心緩くなってしまうのは否めなかった。


 その中で、変わらず訓練に励み、倒されても転がされても諦めず向かってくる男に目を付けた。ロック・ガゼット二等兵。庶民の出ながら、整った目鼻立ちをしている。すでに24歳らしいが、童顔のため十代半ばから20歳手前くらいにしか見えない。そのためよく同僚たちやほかの部隊からからかわれているようだ。だがそれが、ロックの負けん気を増す原因になっているのだろう。粗削りで猪突猛進な部分はあるが、磨けばそれなりに光ると思われる。なにより、負けても諦めず立ち向かっていく姿勢が気にいった。


「一人目だな」



 


 ロットウェルは【精霊士】【魔法士】が当たり前に認知されている国だが、そこら中に存在しているのではない。その数は1000人に一人程度のもので、最近はその数も減らしている。実際数はもっと減少しているだろう。隣国ドルストーラには、なぜか多数の【精霊士】が存在していたが(残念ながら過去形だ)何かしらの土地柄もあるのだろうと言われている。地続きの隣国で数に差が出ているのならば、自然界の理なのか、人の中に流れる血のためなのかと考えるのが無難だろう。

 当然ロットウェルの軍の中にも精霊を認知できるものが多数いる。ただしくはファーラルが国内で精霊を感知できる人材を集めているため、中央都市には【魔法士】が集まっていると言っていい。そして、グレイの部隊の中にも精霊が見えるものがいた。


「副長〜なんで最近俺ばっか対戦に選ぶんですかぁ〜」


 間延びした口調で倒れつつ苦情を言っている男がそれだ。パーティス・オルガン。子爵家の三男。爵位を継承しないことが決まっているからか、実家には寄り付かず放蕩していたらしい。そこを幸か不幸かファーラルに捕まって軍に放り込まれた。本人曰く『他にしたい事ないんで、軍人やりましょうかね〜』という気概もやる気もない軽さ。容姿は世間一般、貴族という存在に思い描いているだろう通りの金髪碧眼。ただ、いつも目が眠そうに半分ほど閉じて目尻が下がっているのが残念なところだ。本人は『これでも目は全開なんですけどねぇ〜』と言い、糸のような目をさらに細めて笑っていた。あれで視界が確保できているのが不思議すぎる。


 パーティスは特に精霊を使役したりは出来ないらしい。日々見ている限り、精霊を操る仕草は皆無。時々飛んでいる精霊たちに視線を向け、ぼーっとその行方を眺めていたりはしているが。頼りなさは無限大だが、精霊が見えるだけでも潜入任務をするにあたっては有効だ。少なくとも、グレイが発した精霊の急使を知ることが出来るだから。


「二人目……にするか」


 ファーラルには三人の選出を指示されていたが、結局グレイはロットとパーティスだけに絞った。自分とジュネスを含めて計4人。身を潜めるやり方ではなく、堂々とマーギスタに入る方を選んだ結果だった。





「で、選んだのがこの二人か」

「はい」

「グレイが言う、堂々とした方法ってなんだい」


 ファーラルにロックとパーティスの資料を渡し、可否の判断を乞うことにした。それを眺めつつ、視線で先を促す。


 執務室内にはファーラルとグレイだけ。部屋の外にジュネスが控えている。聞き耳を防ぐ為だろう。


「はい。パーティスは起業家、ロックはその護衛という役で行きます。俺は伯爵として出資者を名乗ます。ジュネスは従者。この辺りは普段と同じです」

「起業家!あはははははっ」


 パーティスに付けられた肩書にファーラルは爆笑した。自ら軍に放り込んだということもあり、ファーラルはパーティスの事を何気によく知っている。


「あいつが、起業家……に、似合わな…っ!」

「子爵家の三男だという事実も利用します。爵位の継げない三男が一人立ちをするために事業に手を出すというのは、実際よくあることです。そしてロックはその護衛が適任かと考えます。ジュネス同様に従者ということも考えましたが、起業家を目指す放蕩息子に従者はないか、と」


 未だ笑い続けているファーラルを無視し、グレイは淡々と自分の考えたプランを口にしていった。それを聞きつつ目に涙まで浮かべて笑っているファーラルの姿は、とても第三者に見せられるものではない。


「いいんじゃないか、それで。いつ入る?」

「警備任務まで10日ほどあるので、それまでに一旦拠点を決めるためにマーギスタに入ります。その後場所を確保して戻ってきます。警備隊と共に国境に向かい、俺たち四人だけ別任務として再びマーギスタに入ります」

「わかった」


 グレイの説明に、ファーラルは特に何も言うことなく了承する。ただ、その表情は先程まで笑っていた人物と同じものとは思えないほど鋭利だった。


「グレイ、わかっていると思うが」

「はい」

「わたしは助けもサポートも出来ない」

「……わかっています」


 ファーラルは日々、その莫大な能力を惜しげもなくロットウェルのために使っている。広く薄く中央都市に結界のようなものが張ってあるのは周知の事実だ。さらに目の届きにくい国内各地に自ら精霊を飛ばし、それを目と耳として使役している。そうすることにより、地方での災害や国民の声を聞くことが出来る。だが、その巨大な力は他国にとっては脅威でしかない。それは友好国としているマーギスタも同じことだ。そのため、ファーラルは自国内でのみ能力の発動を行うという確約をさせられている。嘘か真か、マーギスタにいる【魔法士】により、ファーラルの黒の精霊(せいれい)にのみ反応する結界が張られているという。国際問題にもなるため、ファーラルは決して自国以外の場所で能力を使うことは出来ないのだ。


「なにかあれば、おまえが精霊を飛ばして来い。外交的圧力はかけられる」

「はは。……期待しておきます」


 間接的に支援は出来ても、今までのように直接サポートは出来ないということだ。どうしても能力値の高いファーラルを頼ってしまう傾向にあるが、ここにきて本格的に師匠離れをする時が来たのかもしれない。


「それで師匠(せんせい)、渡されたこの書面内容なんですが……」


 気を取り直し、机の末に置かれた紙を持ち上げて再度読み直した。今回潜入するにあたり、その任務内容が書かれている。


「これは、本当ですか」

「いろいろと調べた結果だ」

「しかし、これは―――」


 その内容にグレイは無意識に眉をしかめた。ありえない、信じたくないという感情がそのまま表れている。訓練中などでは、ほぼ鉄仮面だというのに目の前にいるるのがファーラルだけだからか、その表情はよく動く。


「中央都市10番街から15番街のどこかに、潜んでいる」

師匠(せんせい)の力で探り当たられないんですか」

「どうやら先に動きが読まれたようでな。精霊避けの結界が張っているみたいだ。おかけで10番街から15番街が靄のように霞んでてよく見えなくなっている」


 それは中央都市の治安悪化の可能性でもあった。


「まだ大っぴらには動いていない。おかげで絞り込んで家探しすることも儘ならない。奴らいまは、地道に下地を作っているところかもな」

「悠長すぎます!」

「そう言うな。それに10番街から15番街……どれだけの広範囲の『住宅街』か、お前だってわかるだろう」

「……っ」


 そう、そこは中央都市で一番人口の多い場所。戸建てやアパートが立ち並び、商店や小売りも多数存在している。ロットウェルで庶民が生活している拠点ともいえる場所だ。


「そんなところに、そのどこかに……」


 グレイは拳をぐっと握り込んだ。ありえないと一蹴したいのに、正面にいるファーラルがそれを許さない。

 揺らぎのない湖面の様に凪いだ瞳がグレイを見据えていた。


 そして改めて口を開く。その声は―――


「ある。奴隷市場だ」


 怒りと憤りを含み、冷たく耳に届いた。


いつも読みに来ていただきありがとうございます(*´▽`*)



さて、今後ライナの出番が減るかもです。

ゼロではないのですが、減るかもです。

グレイが出ずっぱりになる予感。あくまで予感です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。