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入れ替わったら戦争 行かなきゃならなくなっちゃった  作者: 遥(はるか)奏汰(かなた)
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第7話〜地獄のようなタイムリミット

命と性別、さらには国家反逆罪の容疑まで背負い込んだアルトの、あまりにもスリリングな綱渡り。絶体絶命のピンチを、ハッタリの「二重スパイ設定」で切り抜けたものの、差し出された猶予はわずか3日。

この極限状態から、アルトはどのようにしてこの無理難題を切り抜けるのでしょうか?

「はあぁぁ……死ぬ、本当に死ぬ……!」

オーガスト副隊長が去った後、私は簡易トイレの裏でへなへなと崩れ落ちた。

張り詰めていた緊張が一気に解け、全身から嫌な汗が噴き出してくる。

命は助かった。男装も(今のところは)バレていない。

だが、手元に残されたのは、ビクトリノックスの十徳ナイフと、わずか「3日」という死刑執行までのカウントダウンだけだ。

「どうするのよ私……! スパイのフリなんて勢いで言っちゃったけど、本物の売国奴なんてどこにいるのよ!」

この広大な駐屯地で、3日以内に都合よく本物のスパイが見つかるはずもない。

ならば、やるべきことは一つ。

――誰か適当な人物を「スパイ」に仕立て上げ、オーガストの前に差し出す。つまり、冤罪のでっち上げだ。

(いやいや、ダメでしょ! 罪のない人を処刑台に送るなんて、前世の倫理観が許さない!)

頭を抱えてのたうち回っていると、草むらを分けて、のんきな声が近づいてきた。

「おーい、アルト! こんなところで何してんだ? 探したぞ」

現れたのは、同期のハンスだった。

手には食堂からくすねてきたらしい丸っこいジャガイモを握りしめ、いつもの気の抜けた笑みを浮かべている。

「ハンス……」

その瞬間、私の脳内で、悪魔がささやいた。

『ハンスなら騙しやすいぞ。ちょっと怪しい行動をさせて、それをオーガストに見せれば……』

「どうしたんだよ、そんな怖い顔して。あ、これ食うか? 厨房のおばちゃんに黙ってもらってきたんだ。内緒だぞ?」

「……ッ」

ダメだ。いい奴すぎる。

こんなお人好しを身代わりにするなんて、人間として完全に終わっている。

「ハンス、ありがとう。でも、お腹は空いてないんだ。……それより、ハンス。ちょっと聞きたいんだけど」

「ん? なんだ?」

「この部隊で……その、不審な動きをしてる奴とか、夜中にこっそり出歩いてる奴とか、見かけたことない?」

「ひっ……!」

喉の奥で悲鳴が張り付く。

泥だらけの手に、ずっしりとした金属ケースを握りしめたまま、私は完全に硬直した。

オーガスト副隊長は、感情の読めない冷徹な眼差しで、私と、その手元にある「スパイの証拠」を交互に見下ろしている。

「……私の目を盗んで逃げ出したかと思えば、ずいぶんと面白い玩具を見つけたようだな」

ゆっくりと近づいてくる軍靴の音が、死神の足音のように鼓膜を打つ。

言い訳は通用しない。だが、これは冤罪のでっち上げではなく、本物の証拠だ。

(ここで怯んだら、本当に終わる……!)

私は意を決し、震える手でケースを副隊長へと突き出した。

「お、お言葉ですが副隊長……! 私は逃げ出したわけではありません! 約束通り、売国奴の尻尾を掴んでみせました。これが、この駐屯地に潜む本物のスパイの証拠です!」

オーガストの眉が、わずかにピクリと動いた。

彼がケースを受け取り、中身の防衛マップと暗号無線機に視線を落としたその瞬間、冷酷だった彼の唇が、歪な笑みの形に釣り上がる。

「ほう……なるほど。どうやら君の『命乞い』は、ただのハッタリではなかったらしい」

生存へのカウントダウン、残り3日。

私は薄氷の勝利を確信しかけた――しかし、副隊長の次に放った一言が、私をさらなる絶望のどん底へと叩き落とすことになる。

「だが、これだけでは足りない。――アルト、この持ち主を『現行犯』で私の前に連れてこい。それができなければ、3日後の処刑台は君の特等席のままだ」

冷たく突き放す言葉を残し、副隊長は闇の中へと消えていった。

残されたのは、泥にまみれた十徳ナイフと、本物のスパイを罠に嵌めなければならないという、さらに過酷なミッション。私の胃は、限界を突破してキリキリと悲鳴を上げていた。

本書をお読みいただき、誠にありがとうございました。

命と性別、そして国家反逆罪というあまりにも重すぎるトリプルパンチを背負ったアルトの物語は、いかがでしたでしょうか。

手元にあるのは泥まみれの十徳ナイフ(ビクトリノックス)一本。頼れるのは、お人好しすぎて胃が痛くなる同期のハンスだけ。そんな絶望的な状況から、アルトが持ち前の度胸とハッタリ、そして現代の知識を総動員して難局を切り抜けていく姿は、執筆していて最も手に汗握るシーンでした。

冤罪をでっち上げる誘惑に駆られながらも、前世の倫理観を捨てきれずに葛藤するアルト。彼女の泥臭くも人間味あふれる綱渡りの結末を、皆様に見届けていただけたならこれ以上の喜びはありません。

アルトの「二重スパイ」としての本当の戦いは、ここから始まります。冷徹なオーガスト副隊長との化かし合いの行方も、ぜひ楽しみにしていてください。

最後に、本作の制作を支えてくださった編集の皆様、そして何より、最後までアルトの冒険に付き合ってくださった読者の皆様に、心からの感謝を申し上げます。

また次の物語でお会いしましょう

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