第6話〜オーガスト副隊長とスパイ
「スパイ容疑」を「二重スパイ」のハッタリで切り抜けろ!
男装がバレて軍法会議に送られるか、国家反逆罪で即座に処刑されるか。
極限の選択肢を前にしたアルトが放ったのは、前世の遺物(十徳ナイフ)をダシにした、あまりにも大胆な「大嘘」だった。
冷酷なオーガスト副隊長から突きつけられた猶予は、わずか3日。
「3日以内に、本物の売国奴を私の前に連れてこい」
存在しない「本物のスパイ」をでっち上げる、命と性別をかけたアルトの超高速の綱渡りが、ついに幕を開ける――!
……おい。そこで何をしている、アルト」
背筋に氷柱を突き立てられたような錯覚に、私の心臓が跳ね上がった。
ゆっくりと振り返ると、そこには腕を組み、冷徹な双眸で私を射抜くオーガスト副隊長の姿があった。ハンスのようなお人好しとは対極に位置する、冷酷非情なリアリスト。彼の前で先ほどの「一族の掟」などという中二病のハッタリが通用するはずもない。
「オーガスト副隊長……」
私は引きつりそうになる頬の筋肉を必死に抑え、敬礼をした。
「他の者が去った後も、一人でここに残っているな。しかも……妙に焦っている。何を隠している?」
オーガストが一歩、私へと歩み寄る。その鋭い視線が、私の首元や、男にしては線の細い肩口へと向けられた。バレる。この距離で細部を観察されれば、女であることなど一発で見抜かれてしまう。
(もうダメだ、ここで私の軍隊生活は──)
絶望が脳裏をよぎった瞬間、オーガストは私の足元に落ちていた「あるもの」に目を留めた。
それは、私がポケットから落としてしまっていた、前世(現代)から持ってきた唯一の遺物──小さな「多機能型ビクトリノックス・アーミーナイフ」だった。
オーガストはそれを拾い上げると、見たこともない精巧な金属の作りに眉をひそめた。
「……これは、我が国の支給品ではないな。見たこともない技術で作られている」
彼の冷たい声に、今度は別の緊張が走る。
「……ッ」
「この簡易トイレの裏は、部隊の弾薬庫に繋がっている。アルト。お前、他国の『間諜』だな? その奇妙な道具で、防壁の構造を探っていたのか」
(えっ、スパイ!?)
男装がバレるどころか、まさかの国家反逆罪の容疑をかけられてしまった。
だが、ここで「違います、私は女です」と真実を告白すれば、男装の罪でどのみち軍法会議行きだ。
「……ふっ、さすがはオーガスト副隊長。お目が高い」
私は一か八か、不敵な笑みを浮かべて見せた。
「ですが、それを『間諜の証拠』とするには、少し想像力が乏しいのでは? 私がここにいる本当の理由は……」
アルトの、命がけの「二重スパイ(のフリ)」作戦が幕を開ける。「……ふっ、さすがはオーガスト副隊長。お目が高い」
私は一か八か、不敵な笑みを浮かべて見せた。
「ですが、それを『間諜の証拠』とするには、少し想像力が乏しいのでは? 私がここにいる本当の理由は……」
私は一歩、あえてオーガストへと歩み寄り、声を潜めた。
「――この部隊に潜む『真の売国奴』を炙り出すためです」
「……何?」
オーガストの眉がピクリと動く。その冷徹な瞳に、わずかな猜疑の光が宿った。
私は手元にあるビクトリノックスを指差し、もっともらしい嘘を並べ立てた。
「これは我が一族が極秘裏に開発した、魔力を感知する隠密測定器。他国に漏れれば技術バランスが崩壊するほどの代物です。私は上層部からの極秘指令を受け、二重スパイとしてこの部隊に入り込み、本物の裏切り者が接触してくるのを待っていたのです」
沈黙が流れる。
オーガストの鋭い視線が、私の顔と、手元にある奇妙な金属器を交互に往復した。
ゴクリ、と喉が鳴るのを必死に堪える。彼が私の言葉を「ハッタリ」と切り捨てるか、「利用価値あり」と判断するか。命の天秤が揺れていた。
やがて、オーガストは薄く、冷酷な笑みを浮かべた。
「いいだろう。その戯言、信じてやる。ただし――」
彼はビクトリノックスを私の胸元に押し戻し、低い声で囁いた。
「猶予は3日だ。3日以内に、本物の売国奴を私の前に連れてこい。できなければ、お前を国家反逆罪で即座に処刑する。……異論はないな、アルト?」
「……っ、もちろんです、副隊長」
敬礼する私の背中を、冷たい冷や汗が伝い落ちていった。
存在しない「本物のスパイ」を、わずか3日で見つけ出す(でっち上げる)。
男装女子アルトの、命と性別をかけた超高速の綱渡りが、ついに幕を開けた。
本作をお読みいただき、ありがとうございます!
女であることがバレる絶体絶命のピンチから、まさかの「国家反逆罪(スパイ容疑)」へ。アルトの機転と、現代の遺物であるビクトリノックスが紡ぐ、冷徹なオーガスト副隊長とのスリリングな心理戦をお届けしました。
男装女子としての秘密を守るため、あえてさらに危険な「二重スパイ」というハッタリの泥沼に飛び込んでいくアルト。リアリストなオーガストを相手に、彼女が現代の便利ツールをどう「未知の超技術」としてプレゼンしていくのか、これからの展開も楽しんでいただければ幸いです!




