表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
入れ替わったら戦争 行かなきゃならなくなっちゃった  作者: 遥(はるか)奏汰(かなた)
6/34

第5話〜恥辱

前書き


仕切りも壁もない、ただの「溝」。


男装女子・アルトに突きつけられた、軍隊生活最大の試練。


知恵とハッタリを総動員した、前代未聞の隠密作戦がスタートします!


本文


「……嘘、だろ」

目の前に広がる光景に、私の思考は完全に停止した。

コンクリートの床に、ただ一本の細い溝が通っているだけ。そこには仕切りはおろか、カーテン一枚すら存在しない。文字通りの「プライバシーゼロ」空間。

そして何より最悪なことに、すでに先客たちがいた。

「おい、アルト! お前も今からか?」

「今日の訓練、まじでキツかったよなー!」

上半身裸のむさ苦しい男たちが、並んで用を足しながら平然と雑談を交わしている。

その中に、ハンスの姿もあった。彼は私に気づくと、人懐っこい笑みを浮かべて手招きしてくる。

「アルト、こっち空いてるぞ! 隣で一緒にどうだ?」

(い、一緒にするかァァァァァ!!)

一歩でも近づけば、すべてが終わり、私の社会的な死が確定する。

限界を迎えた下腹部が「今すぐ妥協しろ」と悲鳴を上げるが、女子高生としての最後の尊厳が、全力でブレーキを踏みちぎっていた。

ここで引き返せば怪しまれる。だが、このまま突撃すれば男装がバレる。

冷や汗が全身から吹き出す中、私の脳細胞は人生史上最速のフル回転を始めた。そして、ひとつの「ハッタリ」を導き出す。

「……ハンス。悪いが、僕は『自分の美学』に反することはしないタチなんだ」

私はわざと冷徹で、影のある声を絞り出した。

「美学……? トイレにか?」

ハンスがポカンと首を傾げる。周囲の男たちも、怪訝そうにこちらを振り返った。

「そうだ」

私はフッと自嘲気味に笑い、あえて彼らに背を向けた。

「僕の故郷の一族には、厳しい掟があってね。……『用を足す姿を他人に見せることは、魂を売り渡すことと同義』。だから、誰かと並んでこれを行うことは、僕のプライドが許さない」

一瞬、静寂が訪れる。

あまりに突飛で、中二病全開の嘘。普通なら「何言ってんだこいつ」と一蹴されるところだ。

しかし、ここにはハンスがいた。

「……魂の、掟……!」

ハンスの瞳が、これまでにないほど眩しそうに輝き出す。

「そうだったのか! アルト、君のその気高さ、ストイックさの理由はそこにあったんだな! 馴れ合わず、常に自分を律する……なんて孤高の戦士なんだ……!」

(よし、引っかかった!!)

ハンスの勘違いは大伝染し、周囲の荒くれ者たちも「ほう、名家の掟か……」「やっぱりタダ者じゃねえと思ってたぜ」と、なぜか納得の表情を浮かべ始めた。

「みんな、アルトの神聖な儀式を邪魔するな! 外へ出るぞ!」

ハンスの号令で、男たちはそそくさと小屋を出ていく。

「恩に着る、ハンス……!」

「気にするな、友よ!」

ハンスは誇らしげに親指を立て、最後にパタンとドアを閉めてくれた。

「……ふぅぅぅぅぅ!!」

完全に一人になった瞬間、私は崩れ落ちるように溝へと駆け寄った。

勝った。ついに、最大の危機を乗り越えたのだ。ハンスの脳天気さに、これほど救われる日が来るとは夢にも思わなかった。

だが、安堵の息を漏らしたのも束の間。

ガタ、と小屋の裏手から、かすかな物音が響いた。

「……おい。そこで何をしている、アルト」

背後から聞こえてきたのは、ハンスのそれとは違う、低く冷徹な声音。

この部隊で最も恐れられている、氷の副隊長の Augustオーガストの声だった。

(終わった。……いや、まだだ、まだ死ねない……!!)

アルトの防衛戦は、まだ始まったばかりだった。


後書き


第5話をお読みいただきありがとうございました!


ハンスの超解釈のおかげで、なんとか「男だらけの包囲網」を突破したアルト。


しかし、安堵した瞬間に現れたのは、部隊で一番鋭い副隊長……!


果たしてアルトは、この最大のピンチをどう切り抜けるのでしょうか!?


面白いと思ってくださったら、ぜひブックマークや評価、感想で応援していただけると励みになります!


次回「背後の視線と、決死の言い訳」、どうぞお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ