第2話〜カチカチ筋肉とドッジボールの王様
目が覚めたら、女子高生から「カチカチの大胸筋を持つ新兵アルト」になっていた――。
そんな理不尽極まりない異世界転生(?)を果たした主人公。前話では、慣れない男の身体と軍隊という超過酷な環境に大混乱する様子が描かれました。
第2話となる今回は、いよいよ本格的な軍隊生活がスタート。男性としての身体の扱いに四苦八苦しながらも、容赦なく「地獄の最前線」へと引きずり出されるアルト(中身:元JK)の、命がけのサバイバルが幕を開けます。
ドッジボールで培った驚異の回避能力は、果たして戦場で通用するのか!? 泥と鉄にまみれた過酷な日常を、どうぞお楽しみください!
「嘘、でしょ……」
時計の針は容赦なく進み、午前七時半を指していた。
私は手垢と泥で汚れた軍服を身に纏い、姿見の前に立っていた。カチカチの大胸筋をキツキツの制服に押し込み、なんとか男らしいシルエットを作ったものの、問題はそこではない。
「立ち小便、一滴も出なかったんだけど……!」
人類が数万年かけて培ってきた排泄の技術を、たった一晩で習得できるはずがなかった。膀胱の緊張感と、未知の器官をコントロールできないもどかしさに冷や汗が流れる。だが、股間の違和感に悶絶している私を嘲笑うように、教会の鐘が重々しく鳴り響いた。
タイムリミットだ。私は震える手で、木製の粗末な小銃と、ずっしりと重い弾帯を肩に掛けた。
「……行くしかない。死にたくないなら、やるんだ」
アルトとしての第一歩を踏み出す。扉を開けると、冷たい朝の空気が私の頬を刺した。
東部国境守備隊・第三砦出張所。
そこは、想像を絶する「鉄と泥」の世界だった。
錆びついた装甲車、煤けた石壁、そして何より、行き交う兵士たちの目が死んでいる。誰も彼もが、戦場という名のグラインダーに魂をすり潰されたような顔をしていた。
「おい、新入り! のろのろするな!」
不意に、背後から雷のような怒声が降ってきた。
振り返ると、熊のように大柄で、片目に深い傷のある男が立っている。階級章を見るに、この部隊を率いる軍曹のようだった。
「ひゃいっ!」
「……あん? なんだその情けない声は」
軍曹が怪訝そうに眉をひそめる。しまった、恐怖のあまり完全に女子高生の悲鳴が出てしまった。
「あ、いや……! 喉を痛めておりまして! 申し遅れました、アルト・フォン・ヴァイス、ただいま到着いたしました!」
私は喉の奥を意識的に潰し、昨日確認した低音を絞り出した。軍曹はなおも鋭い視線で私を上から下まで値踏みするように睨みつけたが、やがて鼻を鳴らして私の肩を強く叩いた。
「フン、お坊ちゃんが。まあいい、身体つきだけは一丁前だな。さっさと整列しろ。今日から貴様らは、地獄の最前線へ行く!」
生肉のグラインダーへの切符が、今、正式に切られた。
周囲の兵士たちに混ざって整列しながら、私は必死に心の中で念じる。
(私はアルト。カチカチの筋肉を持つ男の子。そして、ドッジボールの回避率NO.1だった元・女子高生……! 絶対に生き残って、元の世界に帰るんだから!)
銃の重みが、私の細くなった(はずの)肩に重くのしかかっていた
第2話をお読みいただきありがとうございます!
無事に(?)初陣の砲撃をドッジボールの精神で切り抜けたアルトですが、男の身体のスペックの高さに振り回されつつ、中身は完全に女子高生のままです。極限状態の戦場で、果たして彼女(彼)の膀胱は耐えきれるのか……。
次回、第3話「男たちの洗礼と、初めての〇〇」。
戦場のバイオレンスな日常と、女子高生マインドのギャップをさらに加速させてお届けします。お楽しみに!




