第28話〜雨の廃港覚醒のステップ
降りしきる雨と重低音の羽音。廃港に追い詰められたアルトを待っていたのは、容赦なき暗殺者の刃だった。
絶体絶命の危機の中、脳裏に響くハンスの冷徹な声。その戦術予測と、アルト自身も自覚していなかった「投擲の才能」が重なったとき、泥まみれの反撃が始まる。これは、ただ逃げ惑うだけだった少女が、自らの手で運命を切り開く瞬間を描いた、覚醒の第28話。
男の身体は雨を切り裂いて宙を舞い、崩落したキャットウォークの瓦礫の山へと激しく激突した。鈍い肉撃音とともに、暗殺者は二度と動かなくなる。
静寂が、廃港を包み込んだ。
聞こえるのは、壊れた天井から降り注ぐ激しい雨の音と、アルトの荒い呼吸の音だけだ。
「……ふぅ、ハァ……っ!」
アルトはその場に膝をついた。緊張の糸が切れ、全身を猛烈な疲労感が襲う。しかし、その瞳には怯えではなく、信じられないほどの高揚感が宿っていた。
「……終わったぞ、アルト。周辺の『残響』はすべて消失した。お前の勝ちだ」
脳裏に響くハンスの声には、先ほどまでの冷徹さに加え、確かな称賛の色が混じっていた。
「信じられない……。私、本当にやっちゃったの……?」
「お前の『キャッチ』と『投擲』のセンス、そして私の戦術予測の融合だ。だが、感心している暇はない。この騒ぎだ、すぐに次の追手が来る。立て、アルト。ここを出るぞ」
アルトは震える脚に力を込め、ゆっくりと立ち上がった。泥と雨に濡れた鉄パイプをもう一度きつく握りしめる。彼女はもう、ただ逃げ惑うだけの少女ではなかった。
本作をお読みいただき、ありがとうございます。
雨の廃港という閉鎖的な空間で、絶体絶命の少女アルトが異能の力と相棒ハンスの機転によって覚醒する、物語の大きな転換点となる一幕でした。ただ逃げるだけだった彼女が、泥にまみれながらも鉄パイプを握りしめて立ち上がるラストシーンは、執筆していて特に熱が入った場面です。




