表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
入れ替わったら戦争 行かなきゃならなくなっちゃった  作者: 遥(はるか)奏汰(かなた)
19/21

第18話〜国境の狼の意地

極限の状況において、人は何を基準に決断を下すのだろうか。

本作は、国家の命運を分ける極秘情報を託された二人の若者、アルトとハンスの過酷な運命を描いた物語である。降りしきる豪雨、迫り来る追っ手、そして突きつけられる「友情か、使命か」という究極の選択。本章では、絶望の淵に立たされた主人公が下した痛切な決断と、そこから始まる孤独な闘いの幕開けを描く。

冷たい雨のなかで散った命と、その遺志を継いで泥濘を進む者の覚悟を、緊迫感あふれる筆致で追体験していただきたい。

豪雨がトタン屋根を激しく叩き、古い炭焼き小屋全体を不気味に揺らしている。

「ハンス、しっかりしろ! ここで死なせるわけにいかない!」

アルトは泥と血にまみれた親友を壁に寄りかからせ、必死に呼びかけた。ハンスの脇腹わきばらからは、容赦なく赤い命が流れ出している。その顔は土気色に染まり、呼吸は浅い。

ハンスはかすむ視線をアルトに向け、震える手で懐から一本の小さな金属筒を取り出した。中に収められているのは、祖国の命運、そして無数の人々の命を握る、超極秘のマイクロフィルムだ。

「アルト……これを、持って……行け……」

「馬鹿なことを言うな! 一緒に逃げるんだ!」

「無理だ、足手まといになるだけだ……。お前なら、行ける……」

ハンスのかすれた声に、小屋の主である老人が沈痛ちんつうな面持ちで割って入った。

「若者よ、お前たちの言う『追っ手』がもうそこまで来ている。国境警備隊の犬どもの鳴き声が、風に混じって聞こえるぞ。……あと5分もすれば、この小屋は包囲される」

老人は静かに、しかし決意を秘めた目で、部屋の隅にある古い炭焼き窯を指さした。

「この裏に、かつて炭を運び出すために使った古い排水用の抜け穴がある。一人なら這って通れるが、負傷者を抱えては到底無理だ。……決断せよ。時間は残されていない」

その言葉を裏付けるように、風の咆哮の合間から、鋭い軍犬の吠え声と、荒々しい軍靴の足音が確実に近づいてくるのが聞こえた。

「ハンス……」

アルトはマイクロフィルムと、虫の息の親友を見つめた。

友情か、使命か。

冷たい雨が、容赦なく二人の体温を奪い去っていく。激しい葛藤のなか、アルトは震える手でハンスの肩を掴んだ。

本作をご一読いただき、誠にありがとうございました。

「友情か、使命か」という極限の選択。アルトが泥にまみれ、涙を流しながらも親友の手を振り払って進む道を選んだ瞬間、彼の本当の戦いが始まりました。

冷たい雨がすべてを洗い流していく中、あとに残されたハンスの覚悟と老人の決意が、暗い排水路を進むアルトの背中を押し続けます。託されたマイクロフィルムの重みは、そのままアルトの生きる希望であり、背負うべき十字架でもあります。

彼らの選択がどのような結末を迎えるのか、行く末を共に見守っていただけたなら幸いです。またどこかで、彼らの旅路の続きをお届けできる日を願って。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ