第18話〜国境の狼の意地
極限の状況において、人は何を基準に決断を下すのだろうか。
本作は、国家の命運を分ける極秘情報を託された二人の若者、アルトとハンスの過酷な運命を描いた物語である。降りしきる豪雨、迫り来る追っ手、そして突きつけられる「友情か、使命か」という究極の選択。本章では、絶望の淵に立たされた主人公が下した痛切な決断と、そこから始まる孤独な闘いの幕開けを描く。
冷たい雨のなかで散った命と、その遺志を継いで泥濘を進む者の覚悟を、緊迫感あふれる筆致で追体験していただきたい。
豪雨がトタン屋根を激しく叩き、古い炭焼き小屋全体を不気味に揺らしている。
「ハンス、しっかりしろ! ここで死なせるわけにいかない!」
アルトは泥と血にまみれた親友を壁に寄りかからせ、必死に呼びかけた。ハンスの脇腹からは、容赦なく赤い命が流れ出している。その顔は土気色に染まり、呼吸は浅い。
ハンスはかすむ視線をアルトに向け、震える手で懐から一本の小さな金属筒を取り出した。中に収められているのは、祖国の命運、そして無数の人々の命を握る、超極秘のマイクロフィルムだ。
「アルト……これを、持って……行け……」
「馬鹿なことを言うな! 一緒に逃げるんだ!」
「無理だ、足手まといになるだけだ……。お前なら、行ける……」
ハンスの掠れた声に、小屋の主である老人が沈痛な面持ちで割って入った。
「若者よ、お前たちの言う『追っ手』がもうそこまで来ている。国境警備隊の犬どもの鳴き声が、風に混じって聞こえるぞ。……あと5分もすれば、この小屋は包囲される」
老人は静かに、しかし決意を秘めた目で、部屋の隅にある古い炭焼き窯を指さした。
「この裏に、かつて炭を運び出すために使った古い排水用の抜け穴がある。一人なら這って通れるが、負傷者を抱えては到底無理だ。……決断せよ。時間は残されていない」
その言葉を裏付けるように、風の咆哮の合間から、鋭い軍犬の吠え声と、荒々しい軍靴の足音が確実に近づいてくるのが聞こえた。
「ハンス……」
アルトはマイクロフィルムと、虫の息の親友を見つめた。
友情か、使命か。
冷たい雨が、容赦なく二人の体温を奪い去っていく。激しい葛藤のなか、アルトは震える手でハンスの肩を掴んだ。
本作をご一読いただき、誠にありがとうございました。
「友情か、使命か」という極限の選択。アルトが泥にまみれ、涙を流しながらも親友の手を振り払って進む道を選んだ瞬間、彼の本当の戦いが始まりました。
冷たい雨がすべてを洗い流していく中、あとに残されたハンスの覚悟と老人の決意が、暗い排水路を進むアルトの背中を押し続けます。託されたマイクロフィルムの重みは、そのままアルトの生きる希望であり、背負うべき十字架でもあります。
彼らの選択がどのような結末を迎えるのか、行く末を共に見守っていただけたなら幸いです。またどこかで、彼らの旅路の続きをお届けできる日を願って。




