表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
入れ替わったら戦争 行かなきゃならなくなっちゃった  作者: 遥(はるか)奏汰(かなた)
20/34

第19話〜さらば友よ

本作は、戦火の冷酷さと、そのなかで散っていく切ない絆を描いた緊迫のサスペンス・アクションです。

すべてを賭けて機密を託した親友ハンス。彼の最期の願いを胸に、泥濘のなかを這い進む主人公アルト。極限状態における人間の選択と、容赦なく迫る追手との命懸けの逃亡劇を、圧倒的な臨場感とともにお届けします。

緊迫の脱出劇の幕開けを、どうぞ見届けてください。

ハンスの震える手が、アルトの泥まみれのジャケットを力なく押し返す。

「行け……アルト。お前なら……やれる……」

「ハンス、俺は……!」

アルトの視界が、涙と容赦なく降り注ぐ雨で歪む。

だが、選択の余地はなかった。遠くから聞こえていた軍犬の咆哮が、いまや目と鼻の先まで迫っている。金属の擦れる音、そして炭焼き小屋の泥壁を叩く、荒々しい軍靴の足音。

「早くするんじゃ! 奴らが来る!」

老人がアルトの背中を強く押し、床に隠された狭く暗い排水口の蓋を持ち上げた。立ち込める泥とカビの臭気。一人分がやっと通れる暗黒の穴だ。

アルトは唇を血がにじむほど噛み締め、胸ポケットにマイクロフィルムをねじ込んだ。

「ハンス……必ず、届ける。お前の命を無駄にはしない!」

「あぁ……信じている……」

ハンスの口元に、微かな、しかし安らかな笑みが浮かんだ。それが、アルトが見た親友の最後の表情となった。

冷たい泥水が流れる暗渠あんきょへと身を滑り込ませた瞬間、頭上で激しい破壊音が響いた。小屋の扉が蹴り破られたのだ。

「動くな! 国境警備隊だ!」

容赦のない怒号と、それに続くハンスの短い喘ぎ声。アルトは耳を塞ぎたい衝動を必死に抑え、ただ闇のなかを、這いつくばって前へ進んだ。冷たい泥が顔を覆い、息が詰まる。

背後から、一発の鋭い銃声が響き渡った。

アルトの身体が硬直する。しかし、止まることは許されない。涙を泥水で洗い流しながら、彼はただ、光の見えない暗闇の先へと、狂ったように這い進んでいった。

第19話「さらば」をお読みいただき、ありがとうございました。

アルトとハンス、固い絆で結ばれた二人のあまりにも切ない別れのシーンをお届けしました。冷たい雨が降り注ぐ炭焼き小屋での極限の決断、そして背後に響いた一発の銃声……。親友の最期の想いと機密のマイクロフィルムを胸に抱き、泥濘の闇を進むアルトの運命はどこへ向かうのか。

ここから、アルトの孤独で過酷な逃亡劇が本格的に幕を開けます。

彼が光の射す場所へ辿り着けるのか、ぜひ次のエピソードもハラハラしながら見守っていただけると嬉しいです。感想や評価なども励みになりますので、ぜひよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ