第13話〜サーチライトと犬の咆哮
冷たい濁流へと身を投げたアルトとハンス。
背後で響いた銃声は、二人の体を貫いたのか、それとも虚空を切り裂いたのみだったのか。
激流に飲み込まれ、容赦なく引き離されそうになる手のひら。
渦巻く闇のなかで、アルトはただハンスの体温だけを追い求めます。
国家を揺るがすマイクロフィルムを抱えた二人の決死のダイブ。
生と死の境界線で、彼らを待ち受ける運命とは――。
緊迫の脱出行、運命の歯車が大きく動き出す第13話、始まります
雨は激しさを増し、漆黒の空を切り裂くように真っ赤な閃光が弾けた。
アルトが放った信号弾の光は、泥濘の森を不気味な紅蓮に染め上げる。至近距離に迫っていた追手たちは、突如眼前に炸裂した光と爆音にひるみ、一瞬だけ射線を乱した。
「な、何をする気だ!」
元同僚のひとりが、眩しさに顔を背けながら叫ぶ。
「ハンス、走って!」
アルトはハンスの濡れた右腕を自分の肩に回し、無理やり引きずり起こした。目指すは、この鬱蒼とした森の境界を流れる「国境の川」だ。背後からは再び鋭い犬の咆哮と、泥を蹴る無数の足音が追いかけてくる。
「ハンス、しっかりして! マイクロフィルムを無駄にしないで!」
「アルト……すまない、足が……」
「謝る暇があるなら足を動かして!」
息が苦しい。冷たい雨が目に入り、前がよく見えない。それでも二人は、容赦なく体を叩く枝葉を掻き分け、斜面を転がり落ちるようにして進んだ。
やがて、嵐のノイズに混じって、地鳴りのような猛々しい水の音が聞こえてくる。
国境の川だ。長雨の影響で完全に増水し、濁流が渦を巻いている。
「追いつめたぞ! 武器を捨てて手を挙げろ!」
振り返れば、サーチライトの光がすぐそこまで迫っていた。暗闇から現れた元同僚たちの銃口が、再び二人を捉える。もはや逃げ場はない。目の前は、一歩足を踏み入れれば命の保証はない激流。後ろは、真実を闇に葬ろうとする組織の銃口。
ハンスは懐のマイクロフィルムを強く握りしめ、覚悟を決めたように濁流を見つめた。
「アルト、俺を置いていけ。これさえあれば、お前だけでも……」
「馬鹿なこと言わないで」
アルトは不敵に微笑み、ハンスの冷え切った手を今度は両手で固く握りしめた。
「地獄の果てまで付き合うって言ったはずよ。……跳ぶわよ!」
二人の体が激流に向かって宙を舞った瞬間、背後で激しい銃声が響き渡った
第13話をお読みいただき、ありがとうございました!
ついに濁流へと飛び込んだアルトとハンス。絶体絶命の状況下で、二人の絆が試される緊迫の限界ダイブとなりました。
銃声が響くなか、決死の覚悟で手を繋ぎ合った二人の運命は果たしてどうなるのか……。
激流の先に待ち受けるのは、希望の光か、それともさらなる過酷な現実か。
国境を越えた二人の旅路を、ぜひ次回も見守っていただけると嬉しいです!
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