第10話〜裏切りと戦争の意味
暗闇の物置小屋で暴かれた、信じがたい裏切り。
フードの奥から現れたのは、アルトが最も信頼していたはずの「あの人物」だった。
突きつけられた残酷な真実を前に、アルトの心は激しく揺れ動く。
冷徹な副隊長の銃口が向けられる中、夜の静寂は決定的な決裂の音を響かせる。
息を殺し、物置小屋の隅に潜む。
月明かりすら届かない薄暗い小屋の中で、フードを被った人影が、迷いのない足取りで無線機を隠した木箱へと近づいていく。
カサリ、と乾いた音が響いた。人影の手が、私の仕掛けた無線機に触れたのだ。
「そこまでだ」
低く、有無を言わせぬ声。
オーガスト副隊長が、闇の中から音もなく踏み出した。その手には、冷たく黒い軍用拳銃が握られ、標的の頭部を正確に捉えている。
フードの人影が、ピクリと肩を揺らした。ゆっくりと両手を上げ、観念したように息を吐き出す。
「……さすがだな、副隊長。それに、アルトも」
聞き覚えのありすぎる声が、静まり返った小屋に鼓膜を震わせた。
私の心臓が、ドクンと嫌な音を立てて跳ね上がる。
「嘘……でしょ……?」
カチリ、とオーガスト副隊長が手元の魔導ランタンのスイッチを入れた。
鋭い白い光が、犯人の手元からその顔へと這い上がっていく。
ゆっくりと、フードが滑り落ちた。
光の中に浮かび上がったのは、つい先ほどまで私に心配そうな表情を向け、「信じて」という私の言葉に力強く頷いてくれた、あの男の顔だった。
「……ハンス」
私の唇から、掠れた声がこぼれ落ちる。
「どうして……ハンス、あなたが? 無線機を仕掛けに行ってくれたんじゃ……!」
「仕掛けたさ。お前の指示通りにな」
ハンスは、いつも通りの、どこか気のいい、でも今はひどく冷め切った瞳で私を見つめ返した。その手には、回収された無線機と、十徳ナイフが握られている。
「だが、お前が余計な細工をしていなければ、俺もこんな風に直接回収に来る必要はなかったんだがな、アルト」
裏切り。その二文字が、脳内で冷酷にリフレートする。
最も私を理解し、最も戦場で背中を預けてきたハンスが、敵国のスパイだった。
「ハンス・マイヤー兵長」
オーガスト副隊長の声には、一切の感情が排されていた。銃口は微動だにしない。
「貴様を軍規違反、および敵国への内通容疑で拘束する。弁明はあるか」
「弁明、ですか……」
ハンスは自嘲気味に笑うと、私を真っ直ぐに見つめた。その瞳の奥にある、言い知れぬ暗い光に、私は息を呑む。
「アルト。お前は何も知らないんだ。この戦争の、本当の裏側を」
第10話をお読みいただき、ありがとうございました!
ついに暴かれた裏切り者。まさかアルトが最も信頼していたハンスがスパイだったとは……。
「本当の裏側」というハンスの不穏な言葉が意味するものとは一体何なのか、そして銃口を突きつけられた彼の運命は?
緊迫の度合いを増していく次回も、どうぞお楽しみに!




