第9話〜罠
罠は完璧に作動し、獲物は網にかかった。
深夜の物置小屋で暴かれたスパイの正体。しかし、それは長い陰謀の夜の始まりに過ぎなかった。
誰が敵で、誰が味方なのか。
冷徹な副隊長の眼光が光る中、暴かれた「裏切り」は、アルトたちの運命をさらに過酷な戦いへと引きずり込んでいく。
息を潜める暗闇の向こう側で、今、真実の扉が開く
……いい? ハンス。これを指定の場所に仕掛けてきてほしいの。絶対に誰にも見られちゃダメだよ」
私は、裏蓋を開けて基盤の一部を十徳ナイフの細いマイナスドライバーでバイパスした無線機を、ハンスに手渡した。
「おいおい、アルト。これ、本当に大丈夫なのか? もし見つかったら、俺たちそれこそ……」
「大丈夫、作戦通りに動けばスパイを誘い出せる。信じて」
生唾を飲み込み、ハンスは深く頷くと、影に紛れて兵舎の裏手へと消えていった。
私の仕掛けた罠はシンプルだ。
無線機の発振回路に細工をし、特定の周波数で「ピッ……ピッ……」と短いノイズ(バースト信号)を一定間隔で強制的に送信するように改造した。前世でサバイバル時に即席の救難ビーコンを作った知識の応用だ。
スパイなら、手元にあるはずの受信機が不自然な電波を拾っていることに必ず気づく。紛失した無線機が「まだ生きている」、そして「誰かに弄られている」と知れば、泳がせておくわけにはいかない。焦って回収に現れるはずだ。
深夜。冷気が忍び寄る食堂の裏手、物置小屋の影に私は身を潜めていた。
手元には、十徳ナイフ。ブレードは出していない。今はただ、冷たい金属の感触だけが、私の震える指先を辛うじて繋ぎ止めていた。
「――本当に、現れるのだろうな」
背後から、低く冷ややかな声が鼓膜を震わせる。
気配もなく隣に立っていたのは、オーガスト副隊長だった。暗闇の中でも、彼の鋭い双眸は獣のように怪しく光っている。
「……来ます。スパイにとって、この無線機は命綱ですから」
心臓の鼓動がうるさい。罠が失敗すれば、私はこの冷徹な男の手によって、明日の朝を待たずに処刑される。
その時。
静まり返った物置小屋の扉が、ギィ……と微かに軋んだ。
暗闇の中、フードを深く被った人影が、音もなく滑り込んでいく。
標的が、罠にかかった。
ついにスパイを誘い出すことに成功したアルト。
前世の知識を応用した即席ビーコンの罠に、まんまと引っかかった影の正体とは一体誰なのか……。
そして、隣で冷たい眼光を光らせるオーガスト副隊長は、この事態をどう動かすのか。
次回、ついに物置小屋の中で「裏切り者」の仮面が剥がされます。
アルトたちの命運を左右する緊迫の対峙を、ぜひお楽しみに!




