「最初はシリアスな話だった」
「龍霊雨器」本編では語りきれなかった設定や裏話に加えて、
各回の最後には、ここでしか読めない限定SSもあります。
*本編のネタバレ満載の内容になりますので
未読の方はお気をつけください。
龍霊雨器を書くときは
「いいか。コメディ、コメディを書くんだ。
シリアスにしてはいけない」
そう自分に念を押しています。
龍霊雨器は、最初はとんでもなくシリアスでした。
流星が妹の代わりに女装して後宮に入り込んで玄曜にバレる。
流星の工芸品に宿る記憶が見える能力を玄曜が知る。
脅されて協力させられ、バディを組む。
途中までは現在の龍霊雨器と流れは同じ。
シリアス版は、龍霊雨器のトラブル対応を通じて
後宮内の権力争いに巻き込まれていく流星と玄曜。
次第に明かされていく玄曜の過去と皇族との確執。
後宮を支配する龍霊雨器の存在。
過去を乗り越えて、最後にラスボスの
龍霊雨器を倒す、というもの。
玄曜の復讐がメインの話でした。
初期設定では、倉庫の地下には龍の神ではなく、
破壊された龍霊雨器(瑠璃と金でできた天星図の龍霊雨器)が
眠っていました。ラスボスはその龍霊雨器の双子の弟。
後宮に君臨する龍霊雨器との権力争いに敗れ、
父と母を殺されて、後宮を追われた皇子。
それが玄曜。陰謀ドロドロですね。
性格やキャラも違っていて、ぶっきらぼうで手段を選ばず、
復讐に燃える暗い奴。
流星と出会って少しずつ希望を手に入れて
変わっていく……そんな設定でした。
結構、構想も考えて書いたんですよ。
3回ぐらい書き直したりして。終盤ぐらいまで。
でも暗すぎて……。
過去編なんて書いてて作者が沈むぐらい。
そこでふと思ったんですよね。
これって……読者が途中で離脱しないか?
両片想いドタバタコメディ……
あらすじ詐欺にならんか?
最初はコメディだけど……
ハートフルなBLを期待してきた読者の方々は
どう思うんだろう……。
書き進めていくうちに、本編でもシリアスからコメディへ
戻る温度差がチグハグで、どうにもバランスが悪い。
そのあと、4日ほどまた悩み。
コメディ全振りに切り替えて考え直すことになりました。
最初のうちは気を抜くとすぐシリアスにしそうに
なっていたので、コメディを書くんだ!と言い聞かせ
今の龍霊雨器が出来上がった訳です。
今ではコメディ全振りにして良かったな、と満足しています。
*
SS「もしもの話」
「もし、シリアスだったら……」
流星がぽつりと呟いた。
「あ?」
玄曜が胡桃を食べながら、ぶっきらぼうに返す。
離れの午後。
二人はいつものように茶を飲み、のんびりとした時間を過ごしていた。
「シリアスな話だったらさ。
こんな平和な午後、なかったのかなって」
「……知らん」
玄曜は興味なさげに胡桃を口へ放り込む。
流星はむぅ、と頬を膨らませた。
「絶対もっと暗かったよなー。
玄曜も、もっと怖かったかも」
「今も十分怖ぇだろ」
「それはそう」
「おい」
流星はけらけらと笑う。
そんな二人の様子を、慎言は静かに眺めていた。
――もし。
もし、本当にシリアスだったなら。
玄曜様は、こんな穏やかな顔で胡桃を食べてはいないでしょう。
……そもそも。
膝の上に星鈴さんを乗せたまま、茶を飲んだりもしない。
慎言は静かに茶を啜る。
(……まあ)
(今ぐらいが、ちょうど良いのかもしれませんね)




