「玄曜という男」②
「龍霊雨器」本編では語りきれなかった設定や裏話に加えて、
各回の最後には、ここでしか読めない限定SSもあります。
*本編のネタバレ満載の内容になりますので
未読の方はお気をつけください。
創作裏話、玄曜についてまた語ろうと思います。
玄曜について今明かされているのは、
父は現皇帝の第一子。直系の血筋。
現皇帝とは祖父と孫の関係。
母は後宮内で働いていた下女。
玄曜と同じく、龍霊雨器に関わる能力を持っている。
玄曜の天青色の瞳は母譲り。
ちなみに、光に透けて輝く紫水晶色の髪質も母譲りです。
顔は父親似らしい。
両親揃っていいビジュアルだったんだろうなぁ〜。
七歳で父親が病死。それを機に母は後宮を追われ、玄曜は後宮に残されることになった。
身分は高い。それなのに次期皇帝候補である彼が、
なぜ文官として働いているのか。
なぜ離れで一人暮らしをしているのか。
そして——倉庫の龍霊雨器達との関係は?
色々と複雑な過去がありそうなのに、本編では本人がまったく話さない。
玄曜が話したくないとか、話すのが面倒だから、とかはなく。
ただ単に玄曜にとって過去は過去。終わった事だから。
自分から話す必要ないけど、流星に聞かれたら話す。
玄曜にとってはその程度の事。
だからこれから先、流星にはどんどん踏み込んでいってもらいたい。
そうしないと、アイツ本当に自分から話さないんだ!
そのくせ他人が自分の事をペラペラ話されるのは嫌い。
本当にワガママな奴なのである。
『龍霊雨器』をコメディに変更するにあたり、
玄曜の過去については……過去編とかで大々的に明かされる!
とかはあえてしないと決めています。
コメディ路線に変更して明るめ(?)な過去には
なったけど……やっぱり暗いので。
あくまで断片的に。
少しずつ本編で明かされていくと思います。
話の断片から存分に考察して、楽しんで
いただければ嬉しいです。
*
玄曜SS「過去」
噂話は、聞くだけでいい。
話に耳を傾け、曖昧に頷く。
それだけで――思うようになる。
⸻
「また派閥争いになりそうですね」
後宮内の一室。
ここは人の出入りが激しく、様々な思惑と噂が行き交う場所だ。
私――堆朱漆器四方盆の龍霊雨器、
積言紅層は、噂話を聞くのが好きだ。
尽きることがないから。
……まあ、以前いた場所には及ばないが。
「文官最高位、最大派閥の李崇廉様が失脚されるなんて!」
「空いた席に誰が座るのか……」
「蘇家か、陸家か……
積言紅層様はどう思われます?」
不意に話を振られ、積言紅層は言葉に詰まる。
“い、いやぁ……派閥やら何やら、難しくて……私の口からは……”
龍霊雨器として魂を宿してから、ずっと後宮にいる。
だが、争い事はどうにも苦手だ。
――噂は、聞くだけでいい。
下手なことは言わないに限る。
積言紅層は口を閉ざし、
ただ相槌を打つだけに徹した。
“ふう……ようやく落ち着いた”
人気のなくなった一室。
人が引くと同時に、空気は静まり返る。
積言紅層は、ようやく一息ついた。
その時だった。
漆黒の衣を翻し、ひとりの少年が部屋へ入ってくる。
なびく黒髪。
陽光に照らされ、毛先が紫水晶のように輝く。
年の頃は十六ほどか。
幼さを残しながらも――凛とした、圧倒的な存在感を放っていた。
「積言紅層殿ですね」
少年は迷いなく歩み寄り、正面に腰を下ろす。
天青色の瞳が、真っ直ぐに積言紅層を射抜いた。
“は、はい! そうでございますが……
あの、何かご用でしょうか?”
「あまり人を操らないでいただきたい」
“は……?”
「人の噂を、操るのをやめていただきたい」
“な、何のことでしょう……?
た、確かにここは人の往来が多く、話は飛び交いますが――”
言い終える前に。
空気が、凍りついた。
全身を押さえつけられるような圧。
息が詰まり、全身が震える。
“は……”
何か言わなければ。
そう思うのに、声が出ない。
「お前が気まぐれで空けた席……オレが座った」
少年は静かに告げる。
「派閥争いも起こらない。
全員、オレの配下にしたからな」
少年はゆっくりと立ち上がる。
「お前とは、“二度目”だ」
――二度目?
胸の奥に、小さな違和感が引っかかる。
思い出せない。
だが、忘れてはいけない何か。
少年の瞳が、わずかに揺らぐ。
「次はない」
それだけを言い残し、静かに部屋を去った。
⸻
二度目。
二度目――。
積言紅層は、自らの記憶を遡る。
「……は、は……」
喉の奥から、笑いがこぼれる。
「はは……ははは……!」
「ハハハハハハハ!!」
思い出した。
あの瞳。
あの子供。
父を失い、母を追われ、
ただ泣きじゃくっていた――あの子供。
「――あれが、ああなるとは……!」
倉庫の龍霊雨器どもめ。
随分と、立派に育てたじゃないか……!
次はない、と言ったな。
くつり、と喉の奥で笑う。
「ならば、次は――こちらから、用意してやろう」
その声は、ひどく穏やかで。
そして――どこまでも、底が知れなかった。
※作者より
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『龍霊雨器』裏話+SSは、5/25〜6/2まで毎日20:30頃更新。
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