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ホームシックは試供品の香り

体を拭いていつものパジャマに着替え、新品の布団に入った。

体は泥のように重かったが一向に眠くならなかった。


確実に寝てる場合ではなかった。


さらさらとしたシーツの足ざわりはうちのものであってうちのものでない

お店のにおいがする気がする。

イオンヌか、ニットリか。

どっちで買ったか忘れたけれど、そこの寝具売り場のにおいだと思う。


だから、寝具おためしコーナーで寝そうになってるみたいな

やっちゃいけないことをやっている気持ちになる。


寝て起きたら逆に元に戻っているということはないだろうか。

俺はちょっと気絶していて、妙な夢を見ている。


妙すぎる。


でも人間の脳には無限の可能性があるとテレビでやっていたのを聞いたことがある。


『帰還処理の完了後は、時系列の推移は発生しません』


起きたら棺桶の中ということはないだろうか

誤嚥て本当に怖いから俺は唐揚げが詰まって死んでいるのでは


いや、怖い想像はよそう。

目を閉じる、開ける。

付けっぱなしの炭がぼんやりと光っている。

自分で自分の背中をバンバン叩いた

痛ェ


明日、親玉の毒ニワトリというのをつつがなく退治したら

きっとなんかあのキラキラフワフワしたのに包まれて

お疲れさまでしたと言い合って帰宅できるのだと信じるのだ。


俺は、リハビリ前後に絶対クレームの電話かけてきて

リハビリ中もずっと文句言ってくる木内さん(患者・76歳)の予約を見つけた時の前の日に

意外と機嫌がすごくいい木内さんを想像しながら寝るように


無理にいいイメージを抱いて寝ようとした。


しかしやはり寝てる場合ではなかったので寝付けない。


みなちゃんが妊娠したかもしれない。

俺はパパになるかもしれない。


みなちゃんは不安かもしれない。

俺は唐揚げが喉に詰まっている場合ではない。


元彼がひどいやつで、みなちゃんは不安にさせられて大変だったという、

義母から漏れ伝わった話を反芻した。

みなちゃんは俺に元彼の話をしない。俺もみなちゃんに元彼女の話はしない。

でも安心させたい。


だから寝てる場合ではないし、とっとと寝るべきであった。

毒ニワトリの親玉が簡単にみつかって、すみやかに退治できますように。


うつらうつらして明け方になった。

俺は家具売り場にいて、寝ちゃいけないのに寝たところで

横にはみなちゃんがいると思った。


みなちゃんはおらず、俺はゲル(パオ)の中にいた。


教わった井戸に生活用水を汲みに行くと、なんかすごい泣いている人がいた。

泣きたいのはこっちだ、と思った。

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