第35話 「鼠の仕事」
上司に命令されたのか、弓隊が恐る恐る中雀門に歩み寄ってくる。
カイは門を飛び出して、弓隊の前に己の姿をさらした。
「射!」
好機とばかりに隊長の号令。
弓隊が弓を引いた瞬間、カイは地面に倒れこむ。
射られた十数本の矢は頭上を通り過ぎ、忠邦の足元に突き刺さった。
「ヒイイ」
悲鳴を上げる人質をよそに、カイは匍匐前進を始めた。
弓は立ってなきゃ撃てない。
だがオイラの相棒はオイラと寝てくれるんだぜ。
パン、パン。
地面に伏せたまま弓の射手の足元を狙撃していった。
槍に続き弓隊もドミノ倒しに崩れていく。
最後方の白兵隊は上級武士たちなのであろう、一目散に退却し本丸の中へ引っ込んでしまった。
立ち上がったカイは拳銃を構えたまま、馬と忠邦のもとへ戻った。
「あんたは、ここでいいよ」
鞍に差しておいた意義の遺品、小刀を抜いて忠邦の縄を切ってやる。
「人質が私では不足、と申すか?」
「不足だね。だって、あんたに命を預けるやつなんか、どこにもいねえじゃん」
誰も追って来ないことを確かめて、拳銃を肩から掛けた革袋にしまう。
「大塩平八郎には、三百人いたぜ」
屈辱的な言葉だ。
忠邦は何とかこの若造を論破したい、と思う。
「革命なぞと申しておったな。お主のような者にはわかるまいが、この国は急激な変化は求めておらんのだ。まずは『改革』なのだ!」
「それがあんたの仕事なら、好きなだけやればいいさ」
馬を繋いだ縄を、逆手に持った小刀でバッサリ切る。
「今見せたろ? 最新の武器があれば、刀も槍も弓も役に立たないんだって。つまりは武士っていう階級もな。ちなみにオイラは百姓上がりだ」
「か、革命なぞ、この国では起きんのだ!」
「だから心配すんなって。そっちは……」
小刀を腰に差して、カイは馬に跨る。
不意に決起の時の「天誅、天誅!」という群衆の叫びが耳に蘇った。
テンチューテンチューって、鼠かよ。
あの緊張感の中で、オイラは場違いな含み笑いをしたっけな。
「そっちは、鼠の仕事さ」
つづく




