第72話 運動能力試験
試験の最初は、ごく普通の運動能力試験のようだった。
まずは一〇〇メートル走。
「紗里ちゃん、どのくらいで走れる?」
「うーん、はかったことないなぁ」
「ボクも」
「学校は五〇メートル走だもんね」
そんなことを話しながらスタートラインに並ぶ。
合図と同時に走り出す。
結果のタイムは教えてもらえなかったけれど、わたしも翔吾くんも、組の中では先頭でゴールすることができた。
次は二〇メートル走。
「これなんだろ?」
翔吾くんが首をかしげる。
「瞬発力かな?」
ところが、ただ二〇メートルを走るだけではなかった。
ゴールすると、すぐに折り返して走る。
それを繰り返して、全部で八本。
「なるほど。瞬発力だけじゃなくて、持久力もかな」
短い距離を全力で走って、すぐに方向転換。
これを何度も繰り返す。
なかなかきつい。
それでも、翔吾くんもわたしも、八本すべてで先頭を走り切った。
そして次は、ドリブル。
何本もの旗が立てられていて、その間をボールを蹴りながら進んでいくようだ。
これは一人ずつ。
最初の選手がボールを大きく前へ蹴り出し、それを追いかけるようにダッシュした。
その直後――。
ピィッ!
笛が鳴った。
係の人が何かを言い、選手はやり直しになった。
どうやら、ボールを遠くへ蹴り出しすぎたらしい。
「どうやらボールを一定範囲内にキープしながら走らないといけないようだね」
翔吾くんは、なるほどという顔をしている。
さすがにこれは得意そうだ。
対して、わたしはちょっと苦手。
なんといっても、ドリブルという極めて基礎的な技こそ、熟練度がものをいう。
ドリブルなんて、サッカーを始めるまでやったこともなかった。
でも――。
選抜試験に行けることが決まってから今日までの三か月、めいっぱい練習してきた。
まだサッカーを始めて四か月にもならない。
それでも、もう初心者ではない。
少なくとも、ここで恥ずかしいところを見せるつもりはなかった。
翔吾くんは、余裕の表情で旗の間を抜けていく。
そしてわたしの番。
慎重になりすぎてはいけない。
スピードこそ、わたしの信条。
緊張のせいか少し大きく蹴ってしまった。
慌てて追いかける。
でも、なんとかコースを外れることなく最後まで走り切った。
やり直しの指示はなかった。
……よし。
どうにかクリアできたはず。
まだまだ翔吾くんには及ばない。
だけど、三か月前のわたしなら、こんなこと絶対にできなかった。
そう考えると、ちょっとだけ嬉しくなった。
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