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悪女、二周目はサッカー少年の夢に人生を捧げる  作者: 鳴嶋ゆん
第6章

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第69話 長い旅の果てに

 どれくらい眠っていたのだろう。

 機内に流れるアナウンスで、わたしは目を覚ました。


 聞こえてくるのは英語。

 そして、その後に続くイタリア語。


「今度こそ着いたんだよね。なんて言ってるかわからないけど」


 隣の翔吾くんが、眠そうな目をこすりながら尋ねてくる。


「うん。今度こそイタリアで間違いないよ」


 窓の外を見る。

 暗い。

 まあ、時間が時間だから当然なのだけど。


 日本を出発してから、いったい何時間経ったんだろう。

 真夜中の変な時間に乗り継ぎで起こされるし、飛行機の中では自由に動き回れないし、ひたすら長い。

 そして時差。

 もう体内時計が完全におかしくなっている。


 翔吾くんなんて、見るからに疲れ切っていた。


「大丈夫?」

「……大丈夫」


 声にまったく元気がない。

 わたしも、想定していた以上に疲れていると思う。

 前世では何度も海外へ行った経験があるけれど、子どもの身体でこの長旅はさすがに堪える。


 なのに――。


「……亜紀さん、元気だね」


 亜紀さんは、いつの間にかすっかり目を覚ましていた。


「そう?」

「うん。なんか普通」

「まあ、旅行だからね」


 旅行だからって、ここまで平然としていられるものなのだろうか。

 想像以上に大物かもしれない。


 飛行機を降りる。

 そして、空港内を移動して――。


「ミラノだよ」

「ミラノ?」

「うん。ACミランの本拠地」

「ああ……そうかー」


 翔吾くんは、少しだけ嬉しそうに周囲を見回した。


「……まだだったね」

「うん。まだトリノじゃないよ」


 当然、今回の旅程については二人にもしっかり説明してある。

 トリノには国際便がほとんどない。

 だから、ここからは国内線への乗り換えになる。


「また乗り換えだよ」


「……また?」

「また」

「長いなぁ……」


 うん。

 わたしもそう思う。


 こんなに遠かったっけ、イタリア。

 わたしもそう思う。


 そして、ようやく最後の飛行機に乗り込む。


    ◇


 そこからさらに時間が経って――。


「……やっと着いたー」


 トリノの空港に降り立った翔吾くんが、心の底から嬉しそうに言った。


 長かった。

 日本を出てから、ここまで三十時間以上。

 長旅すぎる。


 日本からの直行便があればなぁ。


 飛行機代は高い。

 その割に時間もかかる。


 これじゃ、そう何度も日本とイタリアを行き来するわけにはいかない。


 まあ、そもそも小学生が何度も海外へ行くような生活をすること自体がおかしいのだけど。


 空港からはタクシーに乗った。

 公共交通機関でも行けるようだけど、荷物が多い。


 この状態で乗り換えながら移動する気力は、もう残っていなかった。


 ホテルは、ユヴェントスから指定された試験会場のある街に予約してある。

 チェックインを済ませ、部屋へ向かう。


「じゃあ、明日は――」

「おやすみ」


 翔吾くんがベッドに倒れ込む。


「早っ!」


 わたしも笑いながら自分の荷物を置く。


 部屋は、わたしと亜紀さんで一部屋。

 翔吾くんは一人部屋だ。


 さすがに小学生とはいえ、わたしと翔吾くんを同じ部屋にするのはまずいかなと思って避けた。


「じゃあ、紗里ちゃん。おやすみ」

「おやすみなさい」


 隣の部屋から、すぐに静かな気配がする。

 わたしもベッドに横になる。

 もう限界だった。


 明日は丸一日、完全休養日にしてある。

 ちょっと贅沢な日程かなと思ったけど、明日を試験日にしなくて、本当によかった。


 もし到着したその翌日にすぐ試験なんてことになっていたら、体力的にも時差的にも、とんでもないことになっていたと思う。


 まずはしっかり休もう。


 そして明後日。

 いよいよ、ユヴェントスの選抜試験だ。

ここまで読んでいただいてありがとうございます!


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