第68話 長い長い空の旅
飛行機に乗って、数時間。
窓の外には、ずっと雲が広がっている。
景色がほとんど変わらないせいか、隣の翔吾くんがなんとなく落ち着かない。
「暇だね……」
「まあ、飛行機ってそういうものだから」
翔吾くんは座席に座ったまま、もぞもぞと身体を動かしている。
「ずっと座ったままじゃなくて、ときどき立って屈伸とかしたほうがいいよ」
「そうなの?」
「うん。長時間座りっぱなしは身体によくないから」
今でこそエコノミークラス症候群なんて言葉が知られているけれど、この頃はまだ一般にはほとんど知られていない。
だからこそ、こういうところは気をつけておいたほうがいい。
しばらくすると、機内アナウンスが流れた。
最初は英語。
続いて、いくつかの言語の中に日本語もあった。
『当機はまもなく給油のため着陸態勢に入ります――』
「着いた?」
「いや、給油のためって日本語でも言ってたじゃん」
「……がっかり」
そんなに早く着くわけないでしょうに。
でも、着陸態勢に入ったことで、また耳の奥がおかしくなってくる。
そして――。
「うぅ……」
やっぱり頭が痛くなってきた。
念のために持ってきたバファリンを飲む。
本当は、あまり短い間隔で続けて飲むのはよくないらしい。
でも、このあとまた飛ぶのだ。
どうせすぐに気圧が変わる。
なら、今のうちに飲んでおいたほうがいい。
やがて飛行機は着陸。
給油を終えると、また離陸。
「……これ、いつまで続くの?」
「まだ始まったばかりだよ」
わたしが答えると、翔吾くんがげんなりした顔をする。
その向こうでは――。
「……すぅ……」
亜紀さんは、もう寝ていた。
大物だなぁ、この人。
でも、さすがにやることもない。
外は暗くなり、時間もかなり遅くなってきた。
わたしたちも座席を少し倒して、眠ることにした。
どれくらい眠ったのだろう。
『まもなくテヘラン空港に到着いたします――』
「ん……?」
アナウンスで目が覚めた。
「今度こそ着いた?」
「んー……乗り換えだね」
「……そういえば、乗り換えがあるって言ってたっけ」
寝ぼけた翔吾くんを連れて、飛行機を降りる。
そして――。
「ここがテヘランかぁ……」
前世でも利用したことがある。
だけど、記憶にある空港とはずいぶん印象が違う。
「あれ……?」
もっとイスラム圏らしい雰囲気だったような気がする。
でも、今の空港は思っていたより西洋的だ。
それに――。
「案内板、少ないなぁ……」
次に乗る飛行機がどこから出るのか、いまひとつ分からない。
空港係員らしき人も、すぐには見つからない。
どうしようかな、とキョロキョロしていると、ターバンを巻いた男性が歩いてきた。
とりあえず英語で話しかけてみる。
『すみません、○○行きの乗り継ぎはどちらでしょうか?』
……通じてない。
男性は困ったような顔をしている。
英語が通じないなら――。
その人の話している言葉を聞いてみる。
少し訛りはあるけれど、たぶんペルシャ語。
それなら。
『○○行きの飛行機は、どこから乗ればいいですか?』
今度はちゃんと伝わった。
男性は丁寧に答えてくれる。
どうやら、同じ飛行機に乗るらしい。
なら、一緒に行けば間違いない。
わたしたちは男性についていくことにした。
しばらく歩いていると、亜紀さんが小声で話しかけてきた。
「ねぇ……今の英語じゃないよね?」
「うん、ペルシャ語」
「……」
亜紀さんが無言になる。
そして、少し考えたあと。
「……もう紗里ちゃんに、いろいろ突っ込むのはやめることにする」
「うんうん」
翔吾くんまで頷いている。
「なんで翔吾くんまで……」
そんなやり取りをしながら、ターバンの男性に案内された場所へ向かう。
どうやら、ここで間違いないようだ。
乗り継ぎの飛行機へ乗り込む。
まだまだ先は長い。
……本当に、長い。
日本からイタリアって、こんなに遠かったっけ?
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