第66話 空へ
いよいよ、物語の舞台はイタリアへと進みます
定刻通り、東京駅に到着した。
新幹線を降りたわたしたちは、すぐに山手線へと向かった。
「こっちだよ」
迷うことなく先を歩くわたしの後ろを、翔吾くんと亜紀さんが慌てて追いかけてくる。
「紗里ちゃん、ちょっと待ってよ!」
「待って待って。東京なんて初めてなんだから、もう少しゆっくり……」
「あ、ごめんごめん」
思わず足を緩める。
前世では何度も歩いた東京駅。
乗り換えだって慣れたものだった。
でも、今のわたしにとっては初めて訪れる場所なのだ。
あまり先走るのも変だよね。
山手線に乗り換え、浜松町へ。
そこから東京モノレールに乗り換える。
「モノレールって、東山公園や犬山でしか乗ったことないや」
翔吾くんが窓の外を眺めながら言った。
「わたしも」
もちろん、今世では。
モノレールから眺める東京の街並みは、わたしの記憶にあるものとはずいぶん違っていた。
そして――羽田空港。
空港の中を歩きながら、わたしは案内板を見上げる。
「国際線は……どっちだ?」
前世のわたしが海外へ出たときには、すでに成田空港ができていた。
羽田を使った記憶は日本国内くらいしかない。
過去を知っているからといって、何もかも知っているわけじゃない。
そんな当たり前のことを、改めて思い知らされる。
案内に従って進み、いよいよ搭乗口へ。
そして――飛行機。
「大きい……」
翔吾くんが見上げる。
「これに乗ってイタリアまで行くんだよね」
「そうだよ、乗り換えはあるけどね」
そう答えながら、わたしも飛行機を見上げていた。
胸の奥が、少しだけざわついている。
怖い。
……というより、緊張している。
やがて搭乗が始まり、わたしたちは機内へ。
座席は新幹線と同じ並びだった。
窓側が翔吾くん。
真ん中がわたし。
通路側が亜紀さん。
「紗里ちゃん、なんか顔が固くない?」
「そう?」
「うん」
翔吾くんが不思議そうにわたしを見る。
わたしは少し迷ってから、正直に話した。
「実はね。わたし、飛行機が苦手なの」
「えっ?」
翔吾くんが目を丸くする。
「怖いの?」
「高いところが怖いとか、そういうのじゃないよ」
窓の外を見る。
これから、この鉄の塊で空を飛ぶ。
考えてみれば、とんでもないことだ。
「気圧が変わっていく感じが苦手なの。頭痛になるかもしれない」
「ああ、それなら……」
亜紀さんがバッグの中を探り始める。
「バファリンあるよ」
「ありがとう」
「一応、すぐ出せるところに入れておくね」
「助かるかも」
やがて、離陸のアナウンスが流れた。
飛行機がゆっくりと動き出す。
窓の外の景色が流れ始める。
滑走路を進み――
「……来る」
「何が?」
「離陸」
わたしが身構えた直後。
身体が座席へ押しつけられる。
地面が、遠ざかっていく。
東京の街が、少しずつ小さくなっていく。
翔吾くんは窓に張りつくように外を眺めていた。
「すごい!」
「……すごいね」
わたしも窓の外を見る。
これから向かうのは、イタリア。
前世では、こんな形でイタリアへ向かう未来なんて想像したこともなかった。
でも今は――
隣には翔吾くんがいる。
もう片方には亜紀さんがいる。
そして、この先にはユヴェントスが待っている。
わたしは小さく息を吐いた。
「行ってきます」
誰に言うでもなく、そう呟いた。
ここまで読んでいただいてありがとうございます!
少しでも「面白そう」と感じていただけましたら、『ブックマーク』や下の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価していただけますと嬉しく思います!
皆様の応援がモチベーションに繋がりますので、よろしくお願いいたします!




