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悪女、二周目はサッカー少年の夢に人生を捧げる  作者: 鳴嶋ゆん
第5章

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第65話 イタリアへの旅立ち

 三月下旬。

 名古屋駅の新幹線ホーム。


「重い……」


 わたしは足元に置いた大きなバッグを見下ろした。


 着替えに洗面用具、それに向こうで必要になるかもしれないもの。

 荷造りをしているときは、それほどでもないと思っていたのに、実際に持ってみるとかなりの重さだ。


「紗里ちゃん、大丈夫?」


「大丈夫だよ」


 そう答えながらも、腕はかなり疲れている。


 隣では翔吾くんも大きな荷物を抱えていた。

 そして、一番大きな荷物を持っているのは亜紀さんだ。


「本当に、これ全部持っていくの?」

「だって、必要になるかもしれないものだから」

「向こうで買えるものもあるんじゃない?」

「……もったいないじゃない」


 そんなやり取りをしていると、


「おーい!」


 声が聞こえた。


 振り返ると、翔吾くんの両親と弟の真治くんが、少し離れたところから手を振っていた。


 春休みとはいえ今日は平日なので、お父さんは仕事があるらしい。

 それでも、このために少しだけ仕事を抜けてきてくれたようだ。


「今日は来てくれてありがとうございます」


 亜紀さんが頭を下げる。


「こちらこそ。翔吾をよろしくお願いします」

「はい」


 わたしも深く頭を下げた。


「お兄ちゃん、頑張ってね!」

「うん。真治も元気でな」


 そんな会話をしていると、今度は別の声が聞こえた。


「藤堂くん、大島さん!」


 振り返ると、新聞社の須藤さんが立っていた。

 その隣にはカメラマンさんもいる。


 今日、わたしたちが旅立つことは、こちらから新聞社へ連絡しておいた。


 新聞に載せてもらえるかもしれない。

 それに何より――。


 この先、何かにつながるかもしれない。


「出発前に、少しだけいいかな?」

「はい」


 簡単なインタビューを受ける。


 イタリアへ行く今の気持ち。

 選抜試験への意気込み。

 向こうで頑張りたいこと。


 質問に一つずつ答えていく。


「最後に、写真を何枚かお願いします」


「はい」


 カメラマンさんが位置を変えながら、何度もシャッターを切る。


 パシャッ。

 パシャッ。


「もう少し笑って!」

「こう?」

「そうそう!」


 翔吾くんが少し照れくさそうに笑う。

 わたしもつられて笑った。


 そのときだった。


 新幹線がホームに近づいてくるアナウンスが聞こえた。


「来たよ」


 東京行きのひかり。

 白い車体が、ゆっくりとホームへ入ってくる。


 いよいよだ。

 ここから東京へ。

 そして、その先には――イタリア。


「それじゃあ」


 翔吾くんのお父さんが手を差し出す。


「気を付けて行ってこい」

「はい」


 翔吾くんと二人で、お父さんと握手をする。

 お母さんとも。

 真治くんとも。


 最後にもう一度、頭を下げる。


「行ってきます」

「行ってらっしゃい!」


 わたしたちは新幹線へ乗り込んだ。


 指定された席は三人並び。

 窓際が翔吾くん。

 真ん中がわたし。

 通路側が亜紀さん。


 荷物を網棚に載せ、席に座る。

 窓の外には、見送りに来てくれた三人。


 翔吾くんのお母さん。

 お父さん。

 そして真治くん。


 三人とも、手を振っている。


 わたしも手を振る。

 翔吾くんも手を振る。


 やがて、車内に発車のアナウンスが流れた。

 新幹線が、ゆっくりと動き始める。


「行ってらっしゃい!」


 窓の外から声が聞こえた。


「行ってきます!」


 翔吾くんが大きな声で答える。


 列車が速度を上げていく。

 ホームが後ろへ流れていく。

 見送りの三人が、少しずつ遠ざかっていく。


 それでも翔吾くんは、手を振り続けていた。

 やがて三人の姿が見えなくなっても。

 それでも。

 しばらくの間、翔吾くんは窓の外へ向かって手を振り続けていた。


 わたしは、そんな翔吾くんを見つめる。


 日本を離れる。


 まだ試験に合格したわけじゃない。

 何も決まったわけじゃない。


 それでも。

 わたしたちは今、夢へ向かって走り始めた。


 新幹線は東京へ向けて、静かに加速していった。

ここまで読んでいただいてありがとうございます!


今回の話で第5章は完結、第6章はいよいよ舞台をイタリアへ。


キリのいいところで、少しでも「面白そう」と感じていただけましたら、『ブックマーク』や下の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価していただけますと嬉しく思います!


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