第63話 優勝への最後の壁
市大会準決勝と決勝。
瑞穂競技場での試合だ。
年末に日本リーグの試合を観戦したばかりなのも感慨深い。
準決勝。
結果だけ言えば、危なげない勝利だった。
翔吾くんは二得点。
わたしも一本アシストを決め、決勝進出を決める。
試合後、グラウンドの隅で片付けをしていると、一人の男性が近づいてきた。
「藤堂くんと大島さんだね?」
三十代半ばくらいだろうか。
日に焼けた顔で、人の良さそうな笑みを浮かべている。
「私は近藤と言います。」
名刺を差し出される。
「○○ジュニアサッカークラブ監督」
と書かれていた。
「新聞の記事を見て興味を持ってね。今日の試合も見せてもらった」
なるほど、スカウトか。
「決勝の相手は、ほとんどがうちのクラブの子たちなんだ」
「え?」
思わず聞き返した。
「同じチームなんですか?」
「そう。もとの学校は違っても、普段は一緒に練習してる。」
準決勝のもう一試合は、もちろん観戦していた。
組織だった動きの素晴らしさは納得だった。
「でも、みんな同じ小学校ですよね?」
すると近藤さんは苦笑した。
「学区内へ住所を移した形にしている子もいる」
「住所を?」
「形式上はね。越境入学だよ」
なるほど。
少しグレーな方法ではある。
普通なら眉をひそめる話かもしれない。
だけど、目的のために知恵を使う人は嫌いじゃない。
ルールの中で最善を探す。
そういう考え方は、前世の世界でも珍しくなかった。
「二人とも、春からうちへ来ないか?」
翔吾くんを見る。
あまり乗り気ではなさそうだった。
「すみません」
言いかけた翔吾くんにわたしが口をはさむ。
「少し考えさせてください」
「もちろん」
近藤さんは笑って名刺をもう一枚差し出した。
「返事はいつでもいい。」
連絡先だけ受け取り、その場を後にした。
◇
二人きりになると、翔吾くんがすぐに聞いてきた。
「行く気なの?」
「転校はしないよ」
「じゃあ?」
「春になったら、学校のサッカー部はいったん解散でしょ?」
「あ」
翔吾くんも気付いたようだった。
「六年生が卒業したら、二学期になるまで活動もほとんど止まるはず」
野球部との兼ね合いでサッカー部の活動は冬季だけになっている。
その間、練習する場所がない。
「もし練習だけ参加できるなら、そのほうがいいかなって」
「なるほど」
翔吾くんも納得したように頷いた。
「返事は決勝が終わってから考えよう」
「うん」
◇
そして決勝戦。
開始早々から違いが分かった。
「速い……」
というより、迷いがない。
一人が抜かれても、すぐ次。
さらにその次。
誰がどこを守るのか、全員が理解している。
「すごく鍛えられてるね」
翔吾くんも頷く。
「うん」
わたしたちには二人ずつマークが付いた。
強引に抜いても、すぐ別の選手が立ちはだかる。
翔吾くんが突破しても囲まれる。
わたしがボールを持っても囲まれる。
点が入らない。
時間だけが過ぎていく。
後半も残りわずか。
「これが最後」
翔吾くんが中央突破を仕掛けた。
二人。
三人。
守備が一斉に集まる。
「今!」
翔吾くんの右足から、大きなロングパスが放たれた。
わたしは全力で走る。
飛び出したキーパーより、一歩だけ早い。
跳ぶ。
額で合わせる。
ゴール。
「やったぁ!」
歓声が響いた。
そのまま試合終了。
わたしたちは市大会優勝を果たした。
◇
表彰式を終え、ひとやすみ。
「強かったね」
翔吾くんがぽつりと言う。
「うん」
本当に強かった。
組織力も。
連携も。
守備も。
だけど。
「なんだろう」
わたしは苦笑する。
「強いんだけど……あんまりワクワクしなかった」
「分かる」
翔吾くんも笑った。
「ああいう管理されたサッカーだと、翔吾くんの良さは消されちゃう気がする」
わたしは近藤さんの名刺を見つめる。
「練習相手としては、最高かもしれない」
優勝の喜びと、新たな課題。
その両方を胸に抱えながら、わたしたちは家路についた。
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