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悪女、二周目はサッカー少年の夢に人生を捧げる  作者: 鳴嶋ゆん
第5章

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第63話 優勝への最後の壁

 市大会準決勝と決勝。

 瑞穂競技場での試合だ。

 年末に日本リーグの試合を観戦したばかりなのも感慨深い。


 準決勝。

 結果だけ言えば、危なげない勝利だった。

 翔吾くんは二得点。

 わたしも一本アシストを決め、決勝進出を決める。


 試合後、グラウンドの隅で片付けをしていると、一人の男性が近づいてきた。


「藤堂くんと大島さんだね?」


 三十代半ばくらいだろうか。

 日に焼けた顔で、人の良さそうな笑みを浮かべている。


「私は近藤と言います。」


 名刺を差し出される。


「○○ジュニアサッカークラブ監督」


 と書かれていた。


「新聞の記事を見て興味を持ってね。今日の試合も見せてもらった」


 なるほど、スカウトか。


「決勝の相手は、ほとんどがうちのクラブの子たちなんだ」

「え?」


 思わず聞き返した。


「同じチームなんですか?」

「そう。もとの学校は違っても、普段は一緒に練習してる。」


 準決勝のもう一試合は、もちろん観戦していた。

 組織だった動きの素晴らしさは納得だった。


「でも、みんな同じ小学校ですよね?」


 すると近藤さんは苦笑した。


「学区内へ住所を移した形にしている子もいる」

「住所を?」

「形式上はね。越境入学だよ」


 なるほど。

 少しグレーな方法ではある。

 普通なら眉をひそめる話かもしれない。


 だけど、目的のために知恵を使う人は嫌いじゃない。

 ルールの中で最善を探す。

 そういう考え方は、前世の世界でも珍しくなかった。


「二人とも、春からうちへ来ないか?」


 翔吾くんを見る。

 あまり乗り気ではなさそうだった。


「すみません」


 言いかけた翔吾くんにわたしが口をはさむ。


「少し考えさせてください」

「もちろん」


 近藤さんは笑って名刺をもう一枚差し出した。


「返事はいつでもいい。」


 連絡先だけ受け取り、その場を後にした。


     ◇


 二人きりになると、翔吾くんがすぐに聞いてきた。


「行く気なの?」

「転校はしないよ」

「じゃあ?」

「春になったら、学校のサッカー部はいったん解散でしょ?」

「あ」


 翔吾くんも気付いたようだった。


「六年生が卒業したら、二学期になるまで活動もほとんど止まるはず」


 野球部との兼ね合いでサッカー部の活動は冬季だけになっている。

 その間、練習する場所がない。


「もし練習だけ参加できるなら、そのほうがいいかなって」

「なるほど」


 翔吾くんも納得したように頷いた。


「返事は決勝が終わってから考えよう」

「うん」


     ◇


 そして決勝戦。

 開始早々から違いが分かった。


「速い……」


 というより、迷いがない。

 一人が抜かれても、すぐ次。

 さらにその次。

 誰がどこを守るのか、全員が理解している。


「すごく鍛えられてるね」


 翔吾くんも頷く。


「うん」


 わたしたちには二人ずつマークが付いた。

 強引に抜いても、すぐ別の選手が立ちはだかる。


 翔吾くんが突破しても囲まれる。

 わたしがボールを持っても囲まれる。


 点が入らない。

 時間だけが過ぎていく。


 後半も残りわずか。


「これが最後」


 翔吾くんが中央突破を仕掛けた。


 二人。

 三人。


 守備が一斉に集まる。


「今!」


 翔吾くんの右足から、大きなロングパスが放たれた。

 わたしは全力で走る。

 飛び出したキーパーより、一歩だけ早い。


 跳ぶ。

 額で合わせる。


 ゴール。


「やったぁ!」


 歓声が響いた。

 そのまま試合終了。

 わたしたちは市大会優勝を果たした。


     ◇


 表彰式を終え、ひとやすみ。


「強かったね」


 翔吾くんがぽつりと言う。


「うん」


 本当に強かった。

 組織力も。

 連携も。

 守備も。


 だけど。


「なんだろう」


 わたしは苦笑する。


「強いんだけど……あんまりワクワクしなかった」

「分かる」


 翔吾くんも笑った。


「ああいう管理されたサッカーだと、翔吾くんの良さは消されちゃう気がする」


 わたしは近藤さんの名刺を見つめる。


「練習相手としては、最高かもしれない」


 優勝の喜びと、新たな課題。

 その両方を胸に抱えながら、わたしたちは家路についた。

ここまで読んでいただいてありがとうございます!


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