第61話 母をたずねて
三学期が始まって数日。
わたしと翔吾くんは、いつものように並んで学校から帰っていた。
「昨日の『母をたずねて三千里』見た?」
翔吾くんが嬉しそうに聞いてくる。
「もちろん」
一月から始まった新しいテレビアニメ。
前世でも大好きだった作品だ。
「あのお話って、イタリアから始まるんだよね」
「うん。ジェノヴァっていう港町」
「ジェノヴァって、トリノからは遠いの?」
「そんなに遠くないよ」
地図を思い浮かべながら答える。
「でも、街の雰囲気はずいぶん違うと思うよ。ジェノヴァは港町だけど、トリノは工業都市だから」
「工業都市?」
「この辺で言えば……豊田市みたいな感じかな。」
「へぇ。でも豊田市も行ったことないや」
「あまり行く用がないかもね」
翔吾くんは感心したように頷く。
「じゃあ、海はないの?」
「ないよ」
イタリアと聞くと海のイメージが強い。
でもトリノはアルプスの麓にある内陸の街だ。
歩きながら、わたしは自然と母をたずねて三千里の主題歌を口ずさんでいた。
「えっ」
翔吾くんが驚いた顔をする。
「もう覚えたの?」
「好きな歌だから」
好きな歌ってのは嘘じゃないけど、本当は違う。
前世で何度も聞いたから覚えているだけ。
「昔から知ってる歌みたいな気がするんだよね。」
そう誤魔化して笑う。
大阪の児童養護施設の古いテレビ。
みんなで並んで見ていた記憶。
皆の事情までは知らないけど、なんらかの事情で親と別れることになった子どもたちばかり。
泣き出す子もいたっけ。
だけど――
最終回を見た記憶はない。
途中で施設を飛び出して日本を離れてしまったから。
「マルコもすごいよね」
翔吾くんが言う。
「イタリアからアルゼンチンまで、お母さんを探しに行くなんて」
「まだ、そのあたりはテレビでもやってないよ」
「お母さんから聞いた」
翔吾くんは、そう言って笑う。
「アルゼンチンもサッカーが強い国だよ」
「そうなんだ?」
「うん。イタリアもアルゼンチンも、世界でもトップクラス」
もう少し先の時代になれば、とんでもない天才選手も現れる。
そうすれば最強の一国になる。
でも、それはまだ未来の話。
「世界って広いんだね」
「うん」
わたしは空を見上げる。
もうすぐ、わたしたちもその広い世界へ向かう。
もちろん、マルコみたいな大冒険じゃないかもしれない。
でも。
夢を追いかける旅になることだけは、きっと同じだ。
そんなことを考えながら、わたしたちはいつもの帰り道をゆっくり歩いていった。
ここまで読んでいただいてありがとうございます!
少しでも「面白そう」と感じていただけましたら、『ブックマーク』や下の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価していただけますと嬉しく思います!
皆様の応援がモチベーションに繋がりますので、よろしくお願いいたします!




