第60話 全校集会
三学期が始まった。
冬休みはあっという間だった。
教室へ入ると、友達同士でお正月の話をしている声があちこちから聞こえてくる。
「お年玉、いくらだった?」
「初詣、行った?」
いつもの光景。
わたしも席に着いて翔吾くんのほうを見る。
目が合うと、お互い小さく笑った。
イタリア行きの準備をしていたことは、まだ学校では誰にも話していない。
そんな始業前。
教室の扉が開き、担任の先生が入ってきた。
「大島さん、藤堂くん」
「はい」
「始業式で校長先生がお話しされるそうです」
「え?」
思わず顔を見合わせる。
「市大会出場と、新聞の記事について紹介するそうです」
新聞の記事。
昨年末の掲載だけど、冬休みに入っちゃってたからなぁ。
「体育館では前に出てもらうからね」
先生はそう言って職員室へ戻っていった。
◇
始業式。
全校児童が体育館へ集まる。
いつもどおり校長先生が壇上へ立ち、新年の挨拶が始まった。
そして。
「それでは前へ」
先生に促されて立ち上がる。
前へ出たのは三人だった。
サッカー部キャプテンの沢村先輩。
翔吾くん。
そして、わたし。
「なんで俺までなんだよ……」
沢村先輩が小さくぼやく。
「キャプテンだからじゃないですか?」
「納得いかねぇ……」
沢村先輩の言い方がおかしくて、思わず笑いそうになる。
校長先生が話し始めた。
「本校サッカー部は、市大会への出場を決めました」
拍手。
「さらに新聞でも紹介されました」
また拍手。
その後も。
本校の誇りだとか。
努力は大切だとか。
夢を持ちなさいだとか。
話はどんどん続いていく。
長い。
ものすごく長い。
体育館をそっと見渡す。
一年生は足をぶらぶらさせている。
二年生は床の木目を眺めている。
後ろのほうでは小さなあくび。
……ちゃんと聞いている子は、ほとんどいない。
もちろん、わたしも途中から何を話しているのか分からなくなっていた。
「――皆で応援しましょう」
最後のその言葉だけは、しっかり耳に入った。
大きな拍手。
ようやく終わった。
「長かったなぁ……」
体育館を出ると、沢村先輩が大きく伸びをした。
「お疲れさまでした」
「本当だよ」
三人で顔を見合わせて笑う。
◇
放課後。
三学期最初のサッカー部の練習が始まった。
準備運動が終わると、翔吾くんが手を挙げる。
「先生」
「どうした?」
「みんなに話したいことがあります」
部員全員の視線が集まる。
翔吾くんは一歩前へ出た。
「ボクと紗里ちゃん」
一呼吸置いて続ける。
「三月にイタリアへ行きます」
一瞬、静まり返る。
「え?」
「イタリア?」
「なんで?」
あちこちから声が上がる。
わたしも前へ出た。
「イタリアのサッカークラブから選抜試験に招待されました」
驚きはさらに大きくなる。
「すげぇ!」
「本当に?」
「海外!?」
部員たちは口々に叫んでいる。
榊原先生も目を丸くしたままだった。
「……そういうことか」
しばらくして苦笑いを浮かべる。
「それなら、もう少し早く教えてくれればよかったのにな」
「え?」
「校長先生の話も、もっと違う内容になってたぞ。」
みんなが一斉に笑った。
「すみません」
わたしたちも思わず頭をかく。
先生は改めて二人を見る。
「でも」
静かに笑った。
「これは学校だけじゃない。
地域の誇りだ」
その言葉が少し照れくさかった。
まだ、何一つ成し遂げてはいない。
これから試験を受けるだけ。
それでも。
もう、わたしたちだけの夢ではなくなり始めていた。
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