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悪女、二周目はサッカー少年の夢に人生を捧げる  作者: 鳴嶋ゆん
第5章

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第60話 全校集会

 三学期が始まった。

 冬休みはあっという間だった。

 教室へ入ると、友達同士でお正月の話をしている声があちこちから聞こえてくる。


「お年玉、いくらだった?」

「初詣、行った?」


 いつもの光景。

 わたしも席に着いて翔吾くんのほうを見る。

 目が合うと、お互い小さく笑った。

 イタリア行きの準備をしていたことは、まだ学校では誰にも話していない。


 そんな始業前。

 教室の扉が開き、担任の先生が入ってきた。


「大島さん、藤堂くん」

「はい」

「始業式で校長先生がお話しされるそうです」

「え?」


 思わず顔を見合わせる。


「市大会出場と、新聞の記事について紹介するそうです」


 新聞の記事。

 昨年末の掲載だけど、冬休みに入っちゃってたからなぁ。


「体育館では前に出てもらうからね」


 先生はそう言って職員室へ戻っていった。


    ◇


 始業式。

 全校児童が体育館へ集まる。


 いつもどおり校長先生が壇上へ立ち、新年の挨拶が始まった。

 そして。


「それでは前へ」


 先生に促されて立ち上がる。

 前へ出たのは三人だった。

 サッカー部キャプテンの沢村先輩。

 翔吾くん。

 そして、わたし。


「なんで俺までなんだよ……」


 沢村先輩が小さくぼやく。


「キャプテンだからじゃないですか?」

「納得いかねぇ……」


 沢村先輩の言い方がおかしくて、思わず笑いそうになる。

 校長先生が話し始めた。


「本校サッカー部は、市大会への出場を決めました」


 拍手。


「さらに新聞でも紹介されました」


 また拍手。


 その後も。

 本校の誇りだとか。

 努力は大切だとか。

 夢を持ちなさいだとか。

 話はどんどん続いていく。


 長い。

 ものすごく長い。


 体育館をそっと見渡す。


 一年生は足をぶらぶらさせている。

 二年生は床の木目を眺めている。

 後ろのほうでは小さなあくび。


 ……ちゃんと聞いている子は、ほとんどいない。


 もちろん、わたしも途中から何を話しているのか分からなくなっていた。


「――皆で応援しましょう」


 最後のその言葉だけは、しっかり耳に入った。


 大きな拍手。

 ようやく終わった。


「長かったなぁ……」


 体育館を出ると、沢村先輩が大きく伸びをした。


「お疲れさまでした」

「本当だよ」


 三人で顔を見合わせて笑う。


    ◇


 放課後。

 三学期最初のサッカー部の練習が始まった。

 準備運動が終わると、翔吾くんが手を挙げる。


「先生」

「どうした?」

「みんなに話したいことがあります」


 部員全員の視線が集まる。

 翔吾くんは一歩前へ出た。


「ボクと紗里ちゃん」


 一呼吸置いて続ける。


「三月にイタリアへ行きます」


 一瞬、静まり返る。


「え?」

「イタリア?」

「なんで?」


 あちこちから声が上がる。

 わたしも前へ出た。


「イタリアのサッカークラブから選抜試験に招待されました」


 驚きはさらに大きくなる。


「すげぇ!」

「本当に?」

「海外!?」


 部員たちは口々に叫んでいる。

 榊原先生も目を丸くしたままだった。


「……そういうことか」


 しばらくして苦笑いを浮かべる。


「それなら、もう少し早く教えてくれればよかったのにな」

「え?」

「校長先生の話も、もっと違う内容になってたぞ。」


 みんなが一斉に笑った。


「すみません」


 わたしたちも思わず頭をかく。

 先生は改めて二人を見る。


「でも」


 静かに笑った。


「これは学校だけじゃない。

 地域の誇りだ」


 その言葉が少し照れくさかった。

 まだ、何一つ成し遂げてはいない。

 これから試験を受けるだけ。


 それでも。

 もう、わたしたちだけの夢ではなくなり始めていた。

ここまで読んでいただいてありがとうございます!


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