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悪女、二周目はサッカー少年の夢に人生を捧げる  作者: 鳴嶋ゆん
第5章

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第57話 旅立ちの準備

 一番大きな話が終わると、今度は現実的な問題が待っていた。


「旅行代理店かぁ」


 リビングのテーブルを囲みながら、亜紀さんが腕を組む。


「海外旅行なんて一度も行ったことないから、どこへ頼めばいいのか分からないね」

「うちも同じだ」


 翔吾くんのお父さんも苦笑いを浮かべる。

 今の時代、海外旅行なんて誰でも気軽に行けるものじゃない。


 ましてイタリア。

 身近に詳しい人なんて、そうそういるはずもなかった。


「……こういうことなら」


 わたしは一人の顔を思い浮かべた。


「斎藤のじーさんか」

「海外のことも詳しいって話だったね」


 亜紀さんは、手続きのことで何度か相談しているうちに、ずいぶん親しくなっていた。


「うん。相談してみよう」


 受話器を手に取り、電話をかける。

 数回の呼び出し音のあと、懐かしい声が聞こえた。


「もしもし」

「大島紗里です」

「おお、紗里ちゃんか。どうした?」


 わたしはこれまでの経緯を順番に説明した。


 イタリアへ送った手紙。

 ユヴェントスから返事が届いたこと。

 三月末の選抜試験に招待されたこと。


「……なるほど」


 ひととおり聞き終えた斎藤のじーさんから笑い声が聞こえる。


「ずいぶん大きな話になったな」

「はい」

「そのくらいなら、観光ビザで十分だろうな」


 やっぱりそうか。


「旅行代理店なら心当たりがある」

「本当ですか?」

「ああ、イタリア方面にも強いはずだ」


 それだけでも十分ありがたい。


「担当者に話を通しておくよ。年末だから、営業しているといいんだが……」


 年も押し迫ってるから、年末年始のお休みに入ってるかもしれないのか。


「ありがとうございます」

「向こうから電話させよう」


 これで一歩前進だ。

 電話を切ると、みんながほっとした顔を見せた。


「よかったね」


 亜紀さんが笑う。


「ほんとに」


 まだ何も始まってはいない。

 それでも、少しずつ道がつながっていくのを感じていた。


    ◇


 翌日の昼過ぎ、はやくも電話がかかってきた。。


「大島です」

「○○旅行の山田と申します。斎藤様からお話を伺いまして」


 年末なのに仕事をしているんだ。

 よかった。


「この業界は年末年始が忙しいんですよ」


 なるほど。

 世の中が休みだからこそ旅行へ行く人が増える。

 考えてみれば当然だった。


 担当者は慣れた口調で説明を始める。


 飛行機。

 パスポート。

 ビザ。

 滞在日程。


 必要な手続きを一つずつ確認していく。


 そして最後に。


「現時点でのおおよその費用ですが――」


「えっ!?」


 思わず声が出た。


 高い。

 想像していたより、ずっと高い。

 思わず受話器を持つ手に力が入った。


「航空運賃だけで、お一人三十五万円ほどになります」


 担当者が苦笑する。


「ヨーロッパまでとなりますと、どうしても」


 なるほど。

 逆に言えば、現地での宿泊費や手続き費用よりも、飛行機代が圧倒的に大きいということだ。

 確か亜紀さんのお給料が月に十万円くらいって言ってたから三ヶ月分以上になるのか。

 簡単に何度も行き来できる距離じゃない。

 改めて実感する。


「パスポートの申請、それから観光ビザの取得は、できるだけ早めに進めましょう」

「はい」

「必要書類はこちらでご案内します」


 電話を終えたあと、わたしは大きく息を吐いた。

 やることは山ほどある。

 でも、一つずつ片付けていけばいい。


 冬休みの間は、旅行の準備を最優先。

 そう決めて、わたしは手帳にやるべきことを書き込んでいった。

ここまで読んでいただいてありがとうございます!


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