第54話 海の向こうから届いた招待状
家へ上がるのももどかしく、わたしと翔吾くんは居間のテーブルを挟んで向かい合った。
テーブルの上には、一通の封筒。
左上には見慣れない紋章。
そして。
JUVENTUS FC
さっきまで何度も見返していた文字だ。
「開けるよ」
「うん」
翔吾くんも少し緊張した表情で頷く。
封を丁寧に切る。
中から便箋が数枚現れた。
すべてイタリア語。
翔吾くんには読めない。
だから、まずはわたしが目を通す。
「……」
一行。
二行。
三行。
読み進めるたびに、胸の鼓動が速くなっていく。
そして。
「……!」
思わず目が大きく開いた。
「どうしたの!?」
翔吾くんが身を乗り出す。
わたしは大きく息を吸い込んで、もう一度最初から確認する。
見間違いじゃない。
本当に書いてある。
「すごい……」
「何?」
「翔吾くん」
顔を上げる。
「これ、すごいよ」
自然と笑みがこぼれていた。
「まずね」
便箋を指で押さえながら説明を始める。
「ユヴェントスが来年の九月から、新しくジュニアユースチームを作る予定なんだって」
「ジュニアユース?」
「十二歳から十五歳までを対象にしたチーム」
翔吾くんの目が少しずつ輝いていく。
「だから今のわたしたちにちょうど合う年代なんだよ」
「本当に?」
「うん」
わたしは頷いた。
さらに続きを読む。
「そのチームを作るために――」
指先が少し震える。
「来年三月の終わりに選抜試験を行う予定だって」
「三月!」
「そう」
まだ三か月ほどある。
準備する時間は十分とは言えないけれど、まったくないわけでもない。
そして。
一番大事な一文へ視線を落とす。
「えっと……」
深呼吸。
「ここが一番すごいところ」
翔吾くんも固唾をのんで待っている。
「本来は推薦が必要なんだけど……」
一拍置く。
「翔吾くんと、わたしを」
ゆっくりと読み上げた。
「特別枠で、その選抜試験へ招待します――だって」
「え……?」
一瞬。
翔吾くんの時間が止まった。
「招待……?」
「うん」
「ボクたちを?」
「そう」
「本当に?」
「ここにちゃんと書いてある」
便箋を見せる。
もちろん翔吾くんには読めない。
でも、わたしが嘘を言っていないことだけは分かるはず。
「あとね」
最後まで目を通す。
「参加するかどうか返事をくださいって」
「返事……」
翔吾くんがぽつりと呟く。
そして。
「……紗里ちゃん」
「うん」
「これって」
震える声で言った。
「夢じゃないよね」
その言葉を聞いた瞬間。
わたしも我慢できなくなった。
「夢じゃないよ!」
思わず立ち上がる。
翔吾くんも立ち上がる。
そして、二人同時に笑った。
「やったぁ!」
気付けば抱き合っていた。
くるくるとその場で回る。
「やった!」
「やったね!」
日本から送った一通の手紙。
半分は無理だと思っていた。
返事すら来ないかもしれないと思っていた。
それなのに。
海の向こうから届いたのは。
ただの返事じゃない。
未来への招待状だった。
わたしたちは何度も顔を見合わせて笑った。
ここがゴールじゃない。
まだスタートラインにも立っていない。
世界への扉は。
少しだけ。
でも確かに。
開き始めていた。
実際のイタリアでは、日本のような「ジュニア」「ジュニアユース」「ユース」という区分はなく、年代ごとにもっと細かくカテゴリーが分かれています。
ただ、そのままの制度を採用すると、読者の皆さんにも少し分かりづらく、小説としても進めにくいため、本作では分かりやすさを優先して、日本と同じような区分で表現しています。
『キャプテン翼』でも「イタリアジュニアユース編」という名称になっていますし、そのあたりは「分かりやすさ優先」ということでご容赦いただければ幸いです。
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