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第44話 次の一手

第4章のスタートです

 わたしは自分の部屋で机に向かっていた。


 市大会。

 翔吾くん。

 そして、これからのこと。


 考えたいことはいくらでもあった。


 そんなときだった。


「紗里ー」


 一階から亜紀さんの声が聞こえた。


「はーい」


 返事をして部屋を出る。

 階段を下りると、亜紀さんが少し困ったような顔で立っていた。


「どうしたの?」


 そう聞くと、亜紀さんは申し訳なさそうに言った。


「今ね、友だちの翔子から電話があってね」

「翔子さん……あー、新聞社に彼氏がいる人?」


 そろそろ、あの件に動きがないかなって思ってたから、名前からすぐ思いついた。


「そうそう、でね……」


 言いにくそうな亜紀さん。

 わたしはすぐに察した。


「ダメだった?」


 亜紀さんが小さく頷く。


「ごめんね。力になれると思ったんだけど」


 どこか自分のことのように申し訳なさそうだった。


「彼氏さんも社内で色々聞いてくれたみたいなんだけど……」

「うん」

「力になれなくて」


 わたしは首を横に振った。


「ううん」


 むしろ。


「ありがとう」


 そう言うと、亜紀さんは少し驚いた顔をした。


「ちゃんと探してくれたんでしょ?

 だったら十分だよ

 翔子さんにもお礼を言っておいてね」


 それ以上を望むのは贅沢というものだ。

 わたしは笑ってみせた。


「気にしないで」


 そう言って部屋へ戻る。


 扉を閉める。

 静かになった部屋の中で、わたしはベッドへあおむけに寝転んで天井を見上げる。

 そして小さく呟く。


「やっぱりね」


 不思議と落胆はなかった。

 むしろ、少しだけ気分が軽い。


「そんな都合よくコネが見つかるわけないか」


 前世を思い出す。

 欲しいものは自分で取りに行った。

 待っていても誰も与えてくれなかった。

 運良く助けられることなんてほとんどなかった。


「そう簡単にいくわけないよね」


 思わず笑う。

 道は自分で見つけるものだ。

 道は自分で切り開くものだ。


 それに――

 正直なところ。


 新聞社のコネにそこまで期待していたわけでもない。

 実はもう、別の案を考えていた。


「これで遠慮なく実行できる」


 もう一度一階に降りて、玄関脇の電話のところへ行く。

 少し考えてから受話器を取った。


 呼び出し音。


 数回鳴ったところで相手が出る。


「もしもし」

「……翔吾くん?」


 本人が出るとは思わなかった。

 てっきりお父さんかお母さんが出るものだと思っていたから、少しだけ構えていたのに。


「紗里ちゃん?」

「翔吾くんが出ると思ってなかったからビックリしちゃったよ」

「電話がなったら、紗里ちゃんからかもって急に思って出ちゃった」


 本当にテレパシーでもあるんじゃないだろうか。


「えっとね、例の新聞社の件なんだけど」


 少し間を置いて言う。


「ダメだった」

「そうなんだ」


 翔吾くんの声は意外なほど落ち着いていた。

 驚いている様子も感じられない。


 もしかすると、翔吾くんも同じくらいの期待値だったのかもしれない。


「それでね」


 わたしは続ける。


「次の作戦を考えたいの」

「作戦?」

「うん」


 自然と笑みが浮かぶ。


「わたし、ちょっと考えてることがあるから」


 受話器の向こうで小さく笑う気配がした。


「分かった」


 即答だった。


「で、いつ?」


 時計を見る。

 外はもう真っ暗だ。

 さすがに今から会うのは無理だろう。

 小学生だし。


「明日だね」


 わたしは言った。


「練習のあと、うちに来れる?」

「いいよ」


 こちらも即答。

 迷いがない。


「じゃあ、そのときに」

「うん、また明日」


 短いやり取り。

 だけど。

 それだけで十分だった。


 電話を切る。

 静かになった部屋で、わたしは机の引き出しを開けた。

 中には図書館で借りた本が入っている。


 海外サッカーの資料。


 チーム紹介。

 スタジアム。

 クラブの歴史。


 そして――


 住所。


 まだ誰にも話していない。

 明日、翔吾くんに相談する予定の作戦。


 指先で文字をなぞる。


「さて」


 わたしは小さく笑った。


「これが第一歩だよ」


 未来へ続く道は、待っていても決して現れない。

 だったら自分で作ればいい。

 そう思いながら、わたしは本のページをめくった。


ここまで読んでいただいてありがとうございます!


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