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第43話 120点の評価

ありがとう、日本代表。

ブラジルは思ってた以上に強かったですね。

 いつもの帰り道を翔吾くんと並んで歩く。

 夕方の空は少し赤くなり始めていた。


「ねえ」


 わたしは隣を見た。


「ん?」

「今日の試合、どうだった?」


 翔吾くんがちょっと考える。


「キーパーだけど」

「あ、そっちはいらない」

「なんとかはなってたじゃん」

「皆のおかげでボール飛んでこなかったからね

 ちょっとくらいなら捕れたと思うけど」

「うんうん」


 翔吾くんは完全に同意って感じだ。


「あれほど向いてないポジションはないってわかった」

「確かにそうだね」


 本当にあれほど何をしたらいいか分からない競技は久しぶりだった。


「もうキーパーとかやらないから」

「そこまで?」

「うん」


 わたしは力強く頷く。


 本気でそう思う。

 目の前で何が起きているのか分からない。

 どう指示を出せばいいのかも分からない。

 どう守ればいいのかも分からない。

 分からないことだらけだった。


「だから心配してたんだけどね」


 翔吾くんが言う。


「え?」

「試合中」


 なるほど。

 あの時の心配そうな顔はそういう意味だったのか。

 てっきり失点しそうだからかと思っていた。


「もし本気でやるなら、一から勉強しないと」


 わたしはため息をつく。


「向いてないから何か月もかかりそう」

「普通は何年もかけるものだと思うけど」

「そんなにかけてたらおばあさんになっちゃうよ」


 翔吾くんが吹き出した。

 失礼な。

 まだ十一歳なんだけど。

 中身はともかく。


 しばらく笑ったあと。

 翔吾くんがこちらを見る。


「で?」

「最初の試合のほうだよね」

「うん」


 わたしが本当に聞きたいのは、最初の試合の評価だ。

 実はちょっと自信ある。

 今日は三アシスト、ほぼ完璧にこなせてたと思う

 八十点くらいは期待してもいいはずだ。


「何点くらい?」


 わたしが聞くと。

 翔吾くんは即答した。


「百二十点」

「え?」


 思わず足が止まりそうになった。


「百二十点?」

「うん」

「百点満点だよね?」

「当然そうだよ」


 当然じゃない。

 全然当然じゃない。


「そんなに高得点?」

「そんなに」


 翔吾くんは迷いなく頷いた。


「なんで?」


 わたしには理解できなかった。

 すると翔吾くんは少し考えてから言った。


「紅白戦の時に予想したんだ」

「何を?」

「紗里が出すパス」


 なるほど。


「たぶんこのくらいかなって」


 そう言って手で大雑把な軌道を描く。


「でも実際は全然違った」

「違った?」

「ずっと良かった」


 その言葉に。

 少しだけ嬉しくなる。


 もちろん、紅白戦のままで終わるつもりなんてなかった。

 ミスをするのは仕方ない。人間なんだから。


 でも、同じ失敗を繰り返す。

 それは違う。

 少なくとも前世の世界では。

 そんなことをしていて生き残れるほど甘い世界じゃなかった。


 分析したよ。

 検証した。

 原因を探った。


 何が悪かったのか。

 どこがズレたのか。

 どうすれば修正できるのか。


 幸い、自分の身体をコントロールするのは得意だ。

 細かな修正を頭の中で繰り返した結果、成功率はかなり上がったと思う。


 まだまだ練度不足、筋力不足で完璧には程遠いけれど


「えっへん」


 わたしは胸を張った。

 説明できないことばかりだから。

 とりあえず威張ってごまかしておく。


 翔吾くんは少し笑った。

 そして。


「もしかしたら」


 ぽつりと言う。


「ボクより上手いかもしれない」


 今度は本当に言葉が止まった。


「……それはないよ」


 ようやくそう返す。

 絶対にない。

 少なくとも今は。


 確かにわたしは知識を持っている。

 前世で見た世界のサッカー。


 一流選手たちの動き。


 技術。

 戦術。


 いろんなものを知っている。

 再現だってある程度はできる。


 だけど、翔吾くんは違う。


 誰にも教わらず。

 誰にも導かれず。


 それでも、ここまで来てしまった。

 そもそも、それが異常なのだ。


 今の小学生たちと比べれば別格。


 だけど、世界基準で見ればまだまだ遠く及ばない。


 そして何より、今の翔吾くんには環境がない。


 一流のプレーを見る機会がない。

 学ぶ機会がない。

 ビデオもない。

 繰り返し研究することもできない。

 指導者もいない。


 榊原先生は良い先生だと思う。

 でも、サッカーを教える人ではない。


 このままじゃ駄目だ。

 才能も努力もある。

 でも、それだけでは足らないんだ。


 翔吾くんをもっと広い世界へ連れて行かなければ。


 もっと早く。

 もっと遠くへ。


 夕焼けの道を歩きながら、わたしは改めて思う。


 焦らなきゃダメ。


 環境さえあれば、どこまでだって行ける。

 それだけのものを持っているとわたしは信じてる。


 翔吾くんの未来は。

 こんな小さな場所で終わっていいものじゃないのだから。


 飛び出さなきゃ。

 世界へ。

ここまで読んでいただいてありがとうございます!


今回の話でひたすらサッカー小説の第3章は完結、第4章はいよいよ海外へ向けて動き出します。


10話ほど書き溜めできてますのでしばらくは安定して公開できると思います。


キリのいいところで、少しでも「面白そう」と感じていただけましたら、『ブックマーク』や下の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価していただけますと嬉しく思います!


皆様の応援がモチベーションに繋がりますので、よろしくお願いいたします!

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