第42話 チームワーク?
試合終了の笛が鳴った瞬間。
「大島すげー!」
「全部アシスト決めてたな!」
「女子なのにって言ったら怒るかもだけど、女子なのにすげえ!」
部員たちが一斉に集まってきた。
昨日の紅白戦のときとは明らかに反応が違う。
あのときはまだ半信半疑。
本当にできるのか?
たまたまじゃないのか?
そんな空気があった。
でも今日は違う。
公式戦で結果を出した。
それが大きかった。
「ありがとう」
わたしは少し照れながら笑った。
こういうのは悪くない。
前世では褒められることなんて珍しくなかったけど、それは仕事の結果だった。
今は違う。
ただ純粋に仲間として認められている。
そんな感じがした。
そこへ榊原先生がやってくる。
「よし、次の試合の話だ」
みんなが先生を見る。
「大島は休みな」
「え?」
思わず聞き返した。
「どうしてですか?」
「連戦はきついだろ」
先生は当然のように言った。
「いや、そこまでじゃ――」
「次の相手なら問題なく勝てそうだしな」
先生は続ける。
「今日はうちの学校が会場だから六年生も全員来てる」
「はい」
「せっかくだから出場機会を作ってやりたい」
それを言われると弱い。
確かに六年生たちは最後の大会だ。
出られるなら出たいだろう。
「分かりました」
素直に引き下がる。
翔吾くんほどじゃないけど、わたしだって体力には自信がある。
連戦くらい問題ない。
でもチーム全体のことを考えたら仕方ない。
そして次の試合が始まった。
わたしはベンチから観戦する。
翔吾くんはもちろん先発。
ただ――
「大変そう」
思わず呟く。
この試合はわたしがいない。
当然ながらパスの供給もない。
だから翔吾くんは自分で持ち込み、自分で突破し、自分で決めるしかない。
個人技が増える。
それでも。
「ゴール!」
前半十分すぎ。
翔吾くんが一人で三人抜いて先制点を決めた。
やっぱりすごい。
でも前の試合ほど楽そうには見えなかった。
そして後半。
事件は突然起きた。
相手のカウンター。
フォワードが抜け出す。
飛び出したキーパーの沢村先輩がボールへ向かう。
その瞬間。
ドンッ!
鈍い音が響いた。
「うわっ!」
悲鳴が上がる。
沢村先輩と相手選手が正面から激突した。
二人とも倒れる。
グラウンドが騒然となった。
「沢村!」
榊原先生が駆け寄る。
わたしも思わず立ち上がった。
沢村先輩。
キャプテンで守備の要。
この予選もここまで無失点だった。
わたしから見ても信頼できる選手だった。
しばらくして沢村先輩は目を開けた。
意識ははっきりしてるようだった。。
でも顔色がよくない。
「頭打ってるな」
先生の表情が厳しくなる。
今日は日曜日。
近所の病院は休みだった。
結局、救急病院へ連れて行くことになる。
職員室から呼び出された別の先生が車を出すことになった。
問題はその後だった。
「代わりのキーパーどうする?」
誰かが言う。
でも誰も答えない。
沈黙。
誰も手を挙げない。
先生も困った顔をしている。
控えのキーパーがいないのだ。
昨日の紅白戦で五年生のキーパーをやっていた子も今日は来ていない。
みんな無言で顔を見合わせる。
「先生」
わたしは手を挙げた。
「ん?」
「わたし、やってみます」
全員がこちらを見る。
「大丈夫か?」
「たぶん」
正直、自信はない。
もちろん、経験なんてない。
でも他に誰もいない。
「ほら」
わたしは両腕を広げる。
「手足長いし、見た目だけならキーパー向きでしょ」
何人かが吹き出した。
先生も苦笑する。
「まあ確かに長いな」
というわけで。
背番号十から背番号一へ。
色の違うキーパー用ゼッケンに着替える。
翔吾くんが近付いてきた。
「本当に大丈夫?」
珍しく心配そうだ。
わたしは笑う。
「大丈夫、大丈夫」
「でも」
「十点取られたら」
わたしは親指で翔吾くんを指した。
「十一点取ってくれれば勝ちでしょ」
一瞬の沈黙。
そして。
「それ無茶だよ!」
「試合終わってるって」
周囲が笑った。
翔吾くんも呆れた顔をしている。
「できない?」
「やるけどさ」
やるんだ。
さすがだね。
そして試合再開。
ゴール前に立つ。
「……」
分からない。
何をすればいいんだろう。
沢村先輩はいつも声を出していた。
右だ。
左だ。
上がれ。
下がれ。
守備陣を動かしていた。
でも、わたしには分からない。
どう守るのが正解なのか。
何も言えない……
下手に指示して混乱させるよりマシだろう。
代わりに叫ぶ。
「みんなー!」
守備陣が振り返る。
「どんどん攻めてって!」
「え?」
「たくさん点取ってきてよ!」
一瞬の静寂。
そして。
「なんだそれ!」
「キーパーのセリフじゃないだろ!」
笑いが起きた。
でも。
不思議と空気は軽くなった。
そこから先は。
みんなが頑張った。
前線は攻める。
中盤は走る。
守備陣は体を張る。
相手が攻めてきても。
シュートを打たれる前に誰かが止める。
また誰かが止める。
そしてカウンター。
翔吾くんのシュートで追加点。
さらに追加点、今度は六年生が決めた。
今日初出場だった選手のゴールに、ベンチも大いに盛り上がる。
気付けば試合終了の笛が鳴っていた。
わたしは瞬きをする。
「……あれ?」
誰かが笑った。
「大島」
「ん?」
「お前、一回もボール触ってないぞ」
言われて気付いた。
本当だった。
キーパーとして出場したのに。
一度もボールに触っていない。
「……」
なんとも言えない気分になる。
すると翔吾くんが笑った。
「これで良かったんじゃない?」
「何が?」
「キーパーの仕事なくて勝ったんだから」
それもそうか。
みんなが守って。
みんなが攻めて。
わたしの出番なんて必要なかった。
それはたぶん。
良いことなんだろう。
わたしはゴールポストにもたれながら空を見上げた。
「これがチームワークってやつ?」
誰に聞くでもなく呟く。
すると近くにいた六年生が笑った。
「そういうことでいいんじゃないか」
チームスポーツって。
思っていたより、ずっと悪くない。
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