第41話 信じるということ
日曜日。
市大会予選二日目。
今日はわたしたちの小学校が会場だった。
朝から運動場には他校の選手たちが集まっている。
榊原先生がゼッケンを配り始めた。
今の時代に立派なユニフォームなんてない。
体操服の上から着るだけの簡単なものだ。
「大島は十番」
「十番?」
受け取って数字を見る。
十番。
なんだか妙に特別な番号に見える。
サッカーの十番。
これって、エースナンバーじゃない?
いいのかな?
翔吾くんは九番。
ストライカーの番号だ。
将来始まるサッカー漫画なら、十番は主人公の翼くん、九番は日向くん。
ちょっと面白いね。
「なんか失礼なこと考えてない?」
「別に?」
鋭い。
試合前なのに。
そんなやり取りをしているうちに一試合目が始まった。
わたしたちは待機。
他校同士の試合を観戦する。
結果は――
0対0。
そのまま終了。
延長戦もPK戦もない。
この予選では引き分けも普通に存在するようだ。
どちらも決め手がなかった。
守備は悪くない。
でも攻撃も決めきれない。
そんな試合だった。
そして、二試合目。
整列の前に翔吾くんが寄ってきて小声で言う。
「速攻でいくぞ」
「え?」
「開始直後」
それだけ言って前を向いた。
作戦らしい。
試合開始の笛。
翔吾くんがわたしへチョコンとボールを蹴る。
そして翔吾くんは走った。
一直線に。
相手ゴールへ向かって。
速い。
何度見ても速い。
わたしはボールをキープする。
一人。
二人。
相手が寄ってくる。
まだ待つ。
もう少し。
もう少し。
――今だ。
思いっきり振り抜いた。
ロングパス。
ボールが大きく前へ飛ぶ。
狙い通り。
今度は昨日みたいに曲がらない。
綺麗な軌道。
その先には。
当然のように翔吾くんがいた。
パスを受け、体勢を整えつつ数歩ドリブルで進む。
落ち着いてシュート。
ネットが揺れた。
審判の笛が鳴り響く。
開始早々の先制点だ。
歓声が上がる。
昨日の紅白戦だけじゃない。
公式戦でも通用する。
そんな実感が湧いてきた。
早々の先取点で相手のリズムが乱れた。
リズムの乱れがパスの乱れを呼ぶ。
中盤で転がるボール。
「紗里!」
声が聞こえた。
わたしはボールへ向かって走る。
翔吾くんも走る。
ただ向かう先が違う。
翔吾くんはゴール前へ。
ライン際でボールをキープする。
素早く顔を上げる。
翔吾くんの位置を確認する。
すでにゴール付近へ到達しているのを確認。
でも、パスコースがない。
相手が塞いでいる。
普通なら無理。
でも翔吾くんは言ったよね。
「ボクがシュートできる場所にパスを出す」
「それだけでいい」
わたしは味方の誰もいないゴール前へ蹴り込んだ。
翔吾くんを信じて。
翔吾くんは完璧なタイミングでゴール前に走り込んできた。
ボールを一瞬だけ確認すると、そのまま右足を振り抜いた。
吸い込まれるように翔吾くんの右足へボールが合わさる。
ボレーシュート。
ボールはそのままネットへ突き刺さった。
「またかよ!」
相手チームから悲鳴が上がる。
わたしも少し驚いていた。
今のなんだったんだろう。
特殊能力とか未来予知とかそういうものじゃない。
わたしは翔吾くんなら、必ずそこへ来てくれると信じた。
翔吾くんはわたしなら、そこへパスをすると信じた。
ただそれだけだ。
前半終了。
二対〇。
理想的な展開だった。
そして後半。
チャンスが訪れる。
昨日、わたしが初ゴールを決めた時と似た形。
ゴール前。
足元にボール。
シュートできる?
いや違う。
昨日より守備が近い。
コースが狭い。
シュート成功率は極めて低い。
一瞬で判断する。
パスを折り返す。
翔吾くんはマークを剥がしている。
「ナイス!」
翔吾くんはそのままシュート。
三点目だ。
わたしがムリして得点する必要なんてない。
どんなときにも翔吾くんがいてくれる。
信頼できる翔吾くんにわたしがパスを繋げる。
そうすればすべて上手くいく。
サッカーだけじゃなく。
そんな気がしていた。
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