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第40話 初ゴール

 土曜日。


 授業は午前中で終わりだった。

 給食もない。


 翔吾くんといっしょにお弁当を食べる。


 わたしが作ってこようか?

 と提案したんだけど、遠慮されてしまった。

 毎回となると、家での理由付けが難しいらしい。


 まだ家族公認の正式な恋人扱いってわけにはいかないようだ。

 そのうちなんとかしよう。

 これは急ぎの問題ではなさそうだし。


「そんなに食べるの?」


 わたしは少し呆れた。


 弁当箱は二段重ね。

 しかもおにぎりまである。

 先週わたしが用意したお弁当よりあきらかに多い。


「午後から練習だから」


 当たり前のように答える。


 昨日の練習終了前。

 榊原先生から発表があった。


 今日は紅白戦。

 五年生チーム対六年生チーム。


 そして活躍した選手は翌日の試合に起用する可能性がある、と。


「先生の作戦でしょうね」


 わたしはお茶を飲みながら言った。


「作戦?」

「わたしを試合に出したいんでしょ」


 翔吾くんは頷く。


「たぶん」


 だろうね。


 普通なら今週入ったばかりの五年生の女子をすぐに試合に出そうなんて考えない。


 でも榊原先生は考えている。

 そのためのアピールの場。

 それが今日の紅白戦なのだろう。


 そして午後。

 グラウンドに集まった部員たちは二つのチームに分かれた。


 五年生チーム。

 六年生チーム。


 わたしも翔吾くんも当然五年生側。



 試合開始の笛が鳴った。

 最初のボールは六年生。


 開始直後。

 六年生の選手がドリブルを始める。


 しかし。


「早っ!」


 誰かが叫んだ。


 翔吾くんがあっという間に距離を詰める。

 ボールを奪う。


 そのままわたしのほうを向く。

 そして。


「紗里!」


 声が飛んだ。


 ――紗里。


 一瞬だけ。

 胸が跳ねる。

 ちゃん付けじゃない。


 初めてだ。

 試合中だからだろうか。


 そんなことを考える暇もなく。

 ボールが転がってきた。


 ボールを受ける。


 翔吾が走っていた。

 一直線にゴールへ向かって。


 わたしはタイミングを図って自然と足を振り抜いた。


「翔吾!」


 こちらも呼び捨てだった。

 勢いよく蹴り出されたボールは大きく前へ飛ぶ。


 ただし。

 あきらかにずれてる。


 速さは十分すぎる。

 でもコースが悪い。

 狙いよりかなり外れた。


 さすがにこれは翔吾くんでも追いつけない。

 そう思った。


 しかし。


「え?」


 六年生の誰かが声を上げる。


 翔吾くんが加速した。

 信じられない勢いだった。

 まるでロケットみたいに。


 誰も追いつけない。

 誰も止められない。


 そして。

 ギリギリでボールに追いついた。


 翔吾くんは大きく飛び上がる。

 頭で合わせる。


 ボールが弧を描く。

 キーパーは手を伸ばすがその上を越える。


 ネットが揺れた。


「ゴール!」


 榊原先生の声。


 一瞬遅れて。


「うおおおお!」

「すげえ!」

「やった!」


 五年生たちの大歓声が響く。

 六年生側は呆然としていた。


 わたしも少しだけ呆然としていた。


 いや。

 あれ追いつくの?


 普通。

 追いつける?


 翔吾は何事もなかったように戻ってくる。


「ナイスパス!」


 満面の笑みだった。


「ちょっとじゃなくずれたでしょ」

「届いたから問題なし!」


 そういう問題かなあ。

 まあ。

 翔吾くんらしい。


 その後。

 六年生も意地を見せた。

 五年生側の守備ミスを突いて同点。


 試合は振り出しに戻る。


 そして再び。

 ボールがわたしのところへ来た。


 翔吾くんの位置からでもゴールはまだ遠い。

 でも迷わない。


 翔吾くんへパス。


 そして。

 わたし自身もゴールへ走る。


 翔吾くんはボールをキープしたまま。

 一人抜く。

 二人抜く。

 三人目もかわす。


 ゴール前へ到達。


 でもまだ守備は硬い。

 シュートコースも狭そうだ。


 その瞬間。

 翔吾くんがわたしに視線を送った。


 そして素早いパス。


 ゴール前。

 わたしの足元へ。


「えっ」


 一瞬だけ迷う。

 翔吾くんへ返すべき?

 確率はどちらが高い?


 でも翔吾くんの目は違った。

 返せとは言っていない。


 行け!

 そう言っている気がした。

 迷いは消えた。


 ここはシュートだ。


 前世で何度も見たセリエAのストライカーたち。


 ゴール前での一瞬。

 最小の動き。

 最短の振り。

 その姿を思い出す。


 体が自然と動き、その姿を再現した。


 振り抜く。

 ボールが飛ぶ。


 渾身のシュートだ。


 だけど。

 キーパーの守備範囲だった。


 キーパーは速いボールにも素早く反応した。


 止められる。

 そう思った。


 しかし。

 ボールはキーパーの手を弾いた。


 そのまま。

 ゴールネットへ突き刺さる。


 一瞬の静寂。


「ゴーーーール!」


 榊原先生の声が響いた。


 翔吾くんが駆け寄ってくる。


「ナイスシュート!」


 勢いよく肩を叩かれた。

 ちょっと痛い。


 その後も翔吾とわたしの連携は続いた。

 翔吾が崩し。

 わたしが繋ぐ。

 そして追加点。


 試合終了。


 三対一。

 五年生チームの勝利だった。


 試合後。

 榊原先生が全員を集める。


「明日の試合だが」


 みんなが注目する。

 先生は迷わず言った。


「大島。先発だ」


 ざわめきが起きる。

 でも不満の声はどこからも出ない。


 今日の試合を見れば当然だった。


「解散!」


 みんなが散っていく。


 わたしは少しだけ胸を張った。


 一ゴール二アシスト。

 悪くない結果だったと思う。


 隣に来た翔吾くんが言った。


「課題はコントロールだな」

「……は?」


「最初のパス、かなりずれてた」

「そこ!?」


 初ゴールの感想じゃないの?


「もっとあるでしょ!」

「例えば?」

「初ゴールおめでとうとか!」


 翔吾は少し考えた。


「ああ」


 そして笑う。


「初ゴールおめでとう」

「遅い!」

「でも、あのシュートも、もっとコーナー狙えたと思う」

「ひとこと多い!」


 思わず叫ぶと。

 翔吾くんはいたずらっぽく笑った。


 明日の試合、少し楽しみになってきたね。

ここまで読んでいただいてありがとうございます!


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