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第39話 雨の日にできること

 昼休み。

 わたしは職員室へ向かっていた。

 その隣には当然のように翔吾くんがいる。


「なんでついてくるの?」

「なんとなく」


 絶対なんとなくじゃないし……

 まあいいけど。


 職員室の扉を開く。


「失礼します」


 榊原先生は書類を見ていた。


「おう、大島」


 先生はこちらに体を向けた。

 わたしは深呼吸。


「昨日の件なんですけど」

「おう」

「サッカー部の選手、やります」


 先生が一瞬固まる。

 そして笑った。


「そうか!」


 嬉しそうだった。

 隣を見る。

 翔吾くんも満足そうに頷いている。

 だからなんで君がそんな顔するのかな。


 わたしは張り切っていた。

 新しいことを始める時は少し楽しい。


 しかし……

 窓の外はというと。


 ざあああああ。

 雨だった。


「……」


 見事な雨だった。

 とても運動場は使えそうもない。


 わたしの人生っていつもこんな感じだよね。


 思わず苦笑する。

 やる気を出した日に限って予定が狂う。

 前世から何度も見てきた光景だった。


 まぁ、この程度で落ち込むほど若くない。

 肉体年齢はともかく精神年齢はもういい年になる。


 問題は練習だった。

 体育館はバレー部が使っている。

 雨の日は基本的にサッカー部は休み。

 それがこれまでの慣例らしい。


「日曜も試合だったしな」


 榊原先生もそう言う。

 休養日と思えば悪くない。

 今日一日のことならそう思える。


 ただ、天気予報では明日も雨。

 この大事な時期に二日連続のお休みはちょっと問題だ。


 わたしは少し考えた。

 そして手を上げる。


「先生」

「ん?」

「廊下で何か練習できませんか?」


 先生が首を傾げる。


「何かって?」


 すると翔吾くんが言う。


「廊下だと滑って危なくない?」

「うーん」


 それはそうだった。

 却下。


「じゃあ……ストレッチとか?」

「すとれっち?」

「え?」


 先生も翔吾くんも同じ顔をしている。

 ストレッチは通じなかった。

 昭和だもんね。

 いつ頃からストレッチって一般に知られたんだろう?


「柔軟運動」

「ああ!」


 今度は通じた。


 前世。

 わたしは美容のために色々やった。


 エアロビ。

 ヨガ。

 なんとかブートキャンプ。


 流行ったものはだいたい試している。

 身体の使い方とかはしっかり覚えている。


「今日は無理だな」


 榊原先生が言う。

 急に連絡はできない。


 結局、明日も雨なら六年生フロアの廊下に集合。

 そう決まった。


 そこからが大変だった。


「五年生頼む」

「了解」


 翔吾くんが五年生。

 わたしが六年生。

 手分けして部員へ連絡することに。


「大丈夫?」


 翔吾くんが聞いてきた。


「大丈夫」


 わたしは頷く。

 一度見た顔は忘れない。


 そんなわけで。

 放課後いっぱい使って全員へ伝達完了。


 翌日。

 天気予報通りの雨だった。


 六年生フロアの長い廊下。

 そこにサッカー部員たちが集まっている。


「じゃあ始めるよ」


 なぜかわたしが前に立つことになった。

 榊原先生も面白そうに見ている。


 まずは前屈。

 続いて開脚。

 肩回り。

 股関節。

 ふくらはぎ。


 順番にやっていく。

 すると。


「いてててて!」


 五年生の男子が叫んだ。

 身体が硬いらしい。


 別の子が面白がって背中を押そうとする。

 わたしは即座に止めた。


「ダメ」

「え?」

「無理に押しちゃダメ」


 少し真面目な声になる。


「痛いのに無理して曲げるのも禁止ね」


 全員がこちらを見る。


「痛くなる寸前くらいで十分」


 わたしは続けた。


「身体の柔らかさなんて個人差があるから」


 前世で嫌というほど見てきた。

 無理な柔軟で怪我する人を。


「自分のペースでやればいいの」


 みんな素直に頷いた。


 そんな感じで一時間ほど柔軟体操を続けた。

 そこそこ柔らかい子もいたけど、全体的にはかなり硬い。

 サッカー選手ならもう少し柔軟性が欲しいところだ。

 ケガの予防にもなるし、このあたりは続けた方がいいかもしれない。


 そして最後。

 わたしは勢いよく両手を叩いた。


「じゃあ締め!」


 部員たちが顔を上げる。


「特別メニューです」


 嫌な予感がしたのか。

 数人が一歩後退した。


 遅い。

 もう逃がさない。


 前世で覚えた謎のエクササイズ。

 なんとかブートキャンプ。

 正式名称は忘れた。


 でも動きは覚えている。


「いくよ!」

「えっ」

「ちょっ」

「待って!」


 もちろん待たない。


 数分後。

 廊下には息も絶え絶えになったサッカー部員たちが転がっていた。


 翔吾くんだけは平気な顔で


「これ面白いね、もっとやろうよ」


 と笑っていた。


「「「勘弁してくれよ」」」


 最後のエクササイズはどうも翔吾くん以外には、あまり評判がよくないようだ。

 おかしいなぁ。

 前世ではみんな楽しそうにやってた気がするんだけど。


ここまで読んでいただいてありがとうございます!


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