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第37話 翔吾の願い

 サッカー部の練習を終えた帰り道。

 わたしは隣を歩く翔吾くんをちょっときつめの目でじっと見つめた。

 あれ?

 翔吾くんって、こんなに背が高かったっけ。


 成長期まだまだこれからって感じの翔吾くんと、成長期終わりの雰囲気が漂ってきてるわたし、これからどんどん差がついていくんだろうなぁ。


「ねえ」

「ん?」

「狙ってたでしょ」

「何のこと?」


 白々しい。


「選手の話だよ」


 翔吾くんは少しだけ目を逸らした。


「バレてた?」


 図星らしい。


「だったら最初から言ってよ」

「ごめん」


 謝るのは早かった。


「今日になって、部活の最中に急に思いついたんだ」

「何が?」

「運動神経が抜群なのは知ってたけど」


 翔吾くんは少し考えるように空を見た。


「シュート練習の時のパス出し見てて、サッカーもできるじゃないかって思ったんだ」

「それで?」

「試してみたくなった」


 なるほど。

 だからあんな強引にパス練習へ連れていったのか。


「どうして急に?」


 わたしが聞くと、翔吾くんは少し言いづらそうな顔になった。


「悪口みたいになるから、他の人には言えないんだけど」

「うん」

「紗里ちゃんなら余計なこと言わないよね」

「そのあたりは信用してくれて大丈夫だよ」


 翔吾くんならもちろんだけど、もともと誰に対しても口は硬いですよ。


「まともに練習できる相手がいないんだ」


 ああ。

 それは少し分かる。


 実際、今のサッカー部で翔吾くんだけ明らかにレベルが違う。


「うーん……」


 わたしは苦笑した。


「それはそうかも」

「でしょ?」

「ちょっとレベルが違いすぎる気はする」


 本人の前で言うことじゃないかもしれないけど。

 事実だから仕方ない。

 翔吾くんは少し嬉しそうだった。


「紗里ちゃんとなら思いっきりサッカーができそう」

「いやあ……」


 わたしは首を傾げる。


「球技って苦手なんだよね」

「そうなの?」

「水泳とか陸上みたいな個人競技なら平気で、ある程度自信もあるんだけど」


 状況とかあまり考えなくていい。

 自分の体だけ動かせばいい。

 そういう競技は得意だ。


 でも球技は違う。


「さっきできてたじゃない」

「ああいう単純な動きなら問題ないのよ」


 パスを受ける。

 返す。

 それだけなら問題ない。


「でもサッカーってそうじゃないでしょ」

「うん」

「周りを見て、相手を見て、味方を見て、その場その場で判断しなきゃいけない」


 わたしは肩をすくめた。


「そういうの苦手」

「なるほど」


 翔吾くんは妙に納得した顔をした。


「たしかに単細胞だもんね」

「ちょっと」


 思わず睨む。


「ひどい言い方じゃない?」

「違う?」


「……違わないけど」


 否定できない。

 一つのことを考え始めると、そればかりになる。

 昔からそうだった。

 前世ではシングルタスク人間って自分で思ってたけど、単細胞と変わらないか。


「一つのことを真面目に考えるとさ」


 わたしは苦笑した。


「頭の中がそれでいっぱいになっちゃうんだ」

「ふーん」

「他のことに対応できなくなる」

「なるほど」


 考えてみると、集中したときの思考が翔吾くんとは正反対だね。

 全体を俯瞰的に見れる翔吾くんと、一つのことしか考えられなくなる自分。

 でも、わたしの頭脳だってシングルタスクでしか動けないけど、決して性能は劣ってないんだからね。


 翔吾くんは何かを考え込む。

 そして。


「じゃあ一つだけやればいい」

「え?」

「一つだけ」


 意味が分からなかった。


「どういうこと?」


 翔吾くんは当然のように言った。


「ボクがシュートできる場所にパスを出す」

「……」

「それだけでいい」

「そんな簡単に言うけど」


 わたしは思わず立ち止まりそうになった。


 それだけ?


 そんな簡単な話だろうか。


「他はボクが考えるから」


 翔吾くんは続ける。


「紗里ちゃんはボクにパスをくれるだけでいい」


 妙に自信満々だった。


 だけど。

 その言葉を聞いていると。

 不思議とできるような気もしてくる。


「うーん……」


 少し考える。


 確かに。

 翔吾くんだけ見ていればいいなら。

 それならわたしにもできるかもしれない。


「どう?」


 期待した顔で見てくる。


 ずるい。

 そんな顔されたら断れないじゃないか。


「分かったよ」

「本当?」

「明日にでも先生に話してみる」


 翔吾くんの顔がぱっと明るくなった。


「ありがとう!」

「まだ選手になるって決まったわけじゃないからね」

「でもなるでしょ?」


 即答だった。

 その自信はどこから来るんだろう。

 わたしは呆れながらも笑ってしまう。


 夕焼けの道を二人で歩いていく。

 明日からは、マネージャーじゃない。

 翔吾くんの隣で、一緒に戦う。

 そう思うと、胸の奥が少しだけ熱くなった。


ここまで読んでいただいてありがとうございます!


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