第34話 見えている景色
今日の更新はここまで。明日は20時頃更新の予定です。
第二試合が始まった。
お弁当を食べ終わった皆はグラウンド脇から観戦する。まだ何人かはゆっくりお弁当食べてるようだけどね。
さっき戦った小学校と、三試合目に対戦する小学校との試合だ。
うちと戦った相手を応援したくなる。さっき苦戦した相手だし、少し親近感もある。
しかし――
現実は厳しかった。
前半だけで二失点、後半にも追加点を奪われる。
結果は四対〇。完敗だった。
「強い……」
思わず呟く。
榊原先生が腕を組んだ。
「あそこは去年の区代表だからな」
「区代表?」
「市大会までは行ったんだよ。ただ、そこでは一回戦負けだったけどな」
それでも十分強い。いわゆる格上ってやつだろう。
少しだけ不安を感じた。
でも――
当の本人は。
「へえ」
翔吾くんは弁当箱を片付けながら、にやりと笑った。緊張している様子はない。
強い相手と戦えることが嬉しいみたいだ。頼もしく感じる。
第三試合。
開始の笛が鳴る。
相手は明らかに強そうだ。
体格もいい。
動きも揃っている感じだ。
しかし。
開始直後だった。
翔吾くんがボールを受ける。
一人かわす。
二人かわす。
三人、四人とかわしていく。
中央突破だ。
「えっ」
誰も止められない。
そのままゴール前へ。
右足一閃。
大きくネットが揺れた。
鮮やかな先制点だ。
「うそみたい……」
開始早々だった。強豪相手なのに。
まるで関係ないみたいに点を取ってしまった。
強豪と聞いてさっきよりギアがワンランク上がった感じ。
だが相手も黙っていない。
すぐに反撃が始まる。
うちの守備陣が押し込まれる。
そして決定的な場面。
ゴール前へ鋭いパス。
誰かが合わせれば失点。
そう思った瞬間、翔吾くんが現れた。
パスコースへ飛び込み、ボールを奪って、大きく蹴った。
ロングパス。
「おおっ!」
前線へ通った。
完全にチャンス。
しかし、受けた味方がトラップを失敗する。
ボールは転々と転がった。
「あー……」
周囲からため息が漏れた。
結局そのまま前半終了。
一対〇。
リードはしている。
でも油断できる相手じゃなかった。
休憩時間。
わたしのタオルで汗を拭いていた翔吾くんがこちらを見る。
「紗里ちゃん」
「ん?」
「あれは?」
あれ?
一瞬考えたけどすぐ分かった。
「スポーツドリンク?」
「うん」
珍しいね、自分から言ってきた。
「はい」
水筒を渡す。
翔吾くんは飲んだ。
ごくっ。
ごくっ、ごくっ。
微妙な顔してる。
でも最後まで飲み干した。
「気に入ったの?」
「うーん……でも紗里ちゃんが用意してくれたものならなんでも飲むし、なんでも食べるよ」
「……」
さらっと言う……
さらっと言うけど。
そういうことを平気で言うのは反則じゃないかな。
こいつ、実は女たらしか……末恐ろしいな。
そんなこと面と向かって言われたら、簡単に落ちちゃうじゃないか。
少し赤くなってうつむいちゃって、返事もできなかったよ。
自分の意外なまでのチョロさにやや呆れるばかりだ。
小学生男子にイチコロのババァってなんだよ。
後半開始。
開始直後、相手のパスが乱れた。
ボールが誰もいない場所へ転がっていく。
失敗だ。
そう思った。
「あれ?」
翔吾くんが走っていた。
誰よりも早く。
まるで最初から知っていたみたいに。
ボールが転がる先へ。
すぐにボールを回収し、そのままドリブル。
一気にゴール前へ。
相手も油断していたのか、反応できている選手は少ない。
キーパーが飛び出した。
でも、それもかわす。
ちょこんとボールを押し出すようなシュート。
ボールはゆっくりとゴールへ転がった。
二点目だ。
歓声が上がった。
でも……わたしは歓声より別のことが気になっていた。
今のは何?
周囲を見る。
みんな普通に喜んでいる。
誰も不思議がってる雰囲気はない。
わたしだけだった。
後半中盤。
さらに妙な場面があった。
試合は中盤で膠着していて相手ボール。
翔吾くんがいきなり走り出した。
誰もいない方向へ。
「え?」
何か狙いがあるのかと思った。
もしかして、さっきの再現?
しかし……
何も起きない。
ボールも来ない。
そのまま数秒後には元の位置へ戻っていた。
周囲は誰も気にもしていない。
さっきの得点と繋げて考えなければ、ただの無駄走りにしか見えないだろう。
なんだろう。
さっきから時々感じていた違和感。
偶然だと思っていた。
気のせいだと思っていた。
だけど。
もしかして――
試合終了間際。
最後のチャンスが訪れる。
翔吾くんが中央突破。
対戦相手の意識はここまで2得点の翔吾くんに集中している。
試合結果はもう見えているけど、ハットトリックなんてやられてたまるかっていうところだろう。
さすがにシュートコースはつぶされている感じだ。このままシュートしてもゴールできる可能性は低いだろう。
でも翔吾くんなら決めてくれるかもしれないね。
そんなふうに考えていたら、横へパス。
完全にフリーじゃん。
よく見えているなぁ、わたしは翔吾くんしか見えてなかったようで他の味方のことなんて完全に意識の外だった。
「チャンス!」
思わず声が出た。
いい感じのシュートだったとは思う。
でも、ボールはゴールの上を抜けていった。
「ああー!」
ベンチから悲鳴が上がる。
翔吾くんも苦笑していた。
「惜しかった」
翔吾くんはシュートミスしたチームメイトを責めるのではなく自分のことのように悔しがっている。
いいな、ああいうの。
そのまま試合終了。
二対〇。
二戦全勝。
予選初日としては最高の結果だった。
部員たちが歓声を上げる。
榊原先生も珍しく笑顔だった。
帰りのバス。
そして学校での解散。
「今日はここまでだ!」
先生の声が響く。
部員たちはそれぞれ帰路につく。
わたしも荷物を持った。
隣には当然のように翔吾くんがいる。
だけど今のわたしは。
二連勝の喜びよりも試合中に何度か見た、あの不可解な動きの方が気になっていた。
まるで――
少しだけ未来が見えているみたいな。
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