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第33話 お弁当の半分

 まわりの笑いが収まったあと。


「で、それ飲んでみて」


 わたしは翔吾くんに水筒を押し付けた。


「う、うん」


 翔吾くんは恐る恐る一口飲む。

 そして微妙な顔になった。


「……なんか変な味」

「え?」


 思わず声が出た。

 変な味?

 そんなはずないと思うんだけど……


「貸して」


 わたしは水筒を受け取る。

 そのまま口をつけた。


 ごくり。


 うん、普通だ。

 というか、ほとんどポカリスエットそのものだった。

 いい感じでポカリスエットの味が再現できている。

 砂糖と塩、それに果汁を加えて作った自信作だ。

ほんの少しだけ、味を整えるつもりで梅干しも加えている。


 そういえば前世で初めてポカリを飲んだ時も、


『なんだこれ』


 と思った記憶がある。

 いつの間にか慣れてしまって、これが普通に感じるようになってしまったのかな?


「こういうものだよ」

「そうかなあ」


 翔吾くんは納得していない顔だったけど、強引に言い切った。


 その時。


「あーっ!」


 後ろから声が上がる。


「間接キスだ!」


 しまった。話がそういう方向へ行くのか。さすが小学生だな。


 周囲が一斉に騒ぎ始める。


「藤堂ー!」

「大島ー!」

「お似合いだぞー!」


 好き勝手言っている。


 わたしは思わず翔吾くんを見る。

 翔吾くんもこちらを見ていた。


 数秒、目が合う。

 そして二人とも何も言わずに視線を逸らした。


 だって、いまさら間接って言われても――

 そっちは、もう済んでいるからね。



 短い休憩の後、後半戦が始まった。

 前半二対〇。

 うちの学校がリードしている。

 当然ながら相手も対策してきた。


「あれ?」


 開始してすぐ気付く。

 翔吾くんの周りに相手選手が集まっている。


 一人。

 二人。

 三人。


「完全にマークされてる……」


 さすがに目立ちすぎたらしい。

 ボールを持てば囲まれる。

 持たなくても誰かが張り付く。

 まるで翔吾くんだけ別競技だ。


 試合は一気に動かなくなった。

 攻撃の起点を失って、味方は有効な攻撃ができない。相手側も決定的な攻め手がなく、人数をかけた攻撃はできない。


 中盤で奪って。

 奪われて。

 また奪い返して。


 そんな展開が続く。

 観ている側としては少し退屈だ。


 でも選手たちは必死だった。

 そして、そのまま終了が近づく。


 残り数分。


 このまま終わるかと思った。


 その時だった。

 味方が前線へボールを蹴り出す。


 翔吾くんが反応した。


 三人に囲まれている。

 普通なら無理だ。

 そう思った。


 しかし……


「うわっ!」


 相手選手の声が聞こえた。


 一人目を体で押し切る。


 二人目の足をかわす。


 三人目とぶつかりながらもボールを離さない。


 強引……

 本当に強引だった。


 技術じゃない。

 速さと体の強さだけで突破している。


 そして。

 右足を振り抜いた。


 ボールがゴールへ突き刺さる。


「入ったー!」


 歓声が上がる。


 三点目。


 ハットトリック達成だった。


 翔吾くんは少し照れたように笑う。

 チームメイトたちが駆け寄った。

 もみくちゃにされている。

 わたしも思わず拍手した。


 今のは凄かった。


 ただ――

 さっきの二点目ほどの不思議さは感じなかった。


 あれは純粋に身体能力で押し切ったように見える。

 やっぱり気のせいだったのかな。



 第一試合終了後、第二試合が始まるまで休憩になった。

 部員たちは思い思いの場所に座り始める。


「よし、飯だ飯!」


 誰かが叫ぶ。

 待ちに待った弁当タイムである。


「翔吾くん」


 わたしは包みを差し出した。


「はい」

「ありがとう」


 翔吾くんが開く。

 そして固まった。


「多くない?」


「そんなことないよ」


 しれっと答える。

 もちろん嘘だ。

 かなり多い。


 普通の子供なら二人前近い量が入っている。


 おにぎり。

 卵焼き。

 唐揚げ。

 ウインナー。

 野菜のおかず。


 朝から頑張った力作である。

 翔吾くんのリクエストのメニューでもある。


「食べきれるかな……」

「食べられるよ」


 だって翔吾くんだし。

 試合中の運動量を見れば分かる。

 普通の子よりずっと食べる。


 結果。

 食べきった。


 しかも……


「まだちょっと足りないかも」


 と言い出した。


「嘘でしょ……」


 思わず呟く。


 いや、ある程度の予想はしていた。

 していたけど……


 本当に足りないとは思わなかったよ。


 わたしは自分の弁当箱を見る。

 まだかなり残っている。


 ほとんど考えもせず差し出した。


「半分食べる?」


「いいの?」

「うん」


 翔吾くんは少し遠慮したあと、


「じゃあもらう」


 と言った。

 そして嬉しそうに食べ始める。


 なんだろう。

 その様子を見ているだけで、少し幸せな気持ちになった。


 いっぱい食べて。

 いっぱい走って。

 いっぱいゴールを決める。


 今はまだ小学生だけど。

 きっとこの子は、もっと大きな舞台へ行く。

 そんな確信が、なぜか胸の中にあった。

ここまで読んでいただいてありがとうございます!


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