ちゃんと殺されないとね
そいつは……芹澤 マリシャは、俺の手に持たせたハサミで、自らの腹部を突き刺した。
「なっ……お前、なにして……」
なにをしているのか。そう聞こうとして、言葉に詰まる。なにをしようとしていたのは、どっちだ。
俺は、この女を殺すと決めた。だから……結果として、これは望んだもののはずだ。
ただ、屋上から突き落とす……それが、刺し殺すという結果になっただけで……
「ふ、ふ……言ったでしょ……怜の、かんがえ、てることなら……なんでも、お見通し、って……」
「いや、意味が、わからない……ならなんで、こんな……」
俺の考えがお見通し……俺がやることがわかっていたのなら、なぜこんなことをしている。さっき、突き落とされそうだったのを回避して……そのまま、なぜ逃げなかった。
なぜ、ハサミを持ってる。な、それを俺に握らせて……俺に、突き刺させた?
「だって……突き落とされて死ぬなんて、つまらないじゃない」
「? つま……」
つまらない? なにを言っているんだ、この女は。
手から、人を刺したのだという現実が押し寄せてくる。離そうにも、手を握られた状態なため、動かすことはできない。
「知ってたよ、怜、私を殺そうって思ってたでしょ? 今日、先輩の姿を見て……ううん、それはずっと、あの日から思っていたはず。でも優しい怜は、その気持ちを押し殺してた」
耳元で、囁かれる……
「それが今日、ついに気持ちが爆発した。ふふ……私は、怜が望むなら殺されたっていいんだよ」
男を誘惑するような、甘美な声で……
「でも……ただ突き落とす、なんてダメ、だよ。それじゃ、怜に殺されたって、実感がないもん。せっかく怜に殺されるんなら……こうして、ちゃんと怜の手で殺されないとね」
震える声で、この女は、平然と……殺されても、いいと……
「ちゃんと、怜の、手で……そう、これなら、怜は、絶対に……わす、れな……」
その言葉は、最後まで紡がれることはなく……こいつは、倒れた。その際、その顔は……芹澤 マリシャは、笑っていた。




