勇気ある告白……
部活で汗を流し、その日に感じていたストレスを一気に払拭する。やはり、この時間が一番だ。
あとは、帰るだけ……帰ればまたあの女と顔をあわせることになるが、おじさんやおばさんもいるし多少の我慢だ。いつか一人暮らしをする目途が立ち、あの家から出られるときが来ても、おじさんやおばさんには恩を返していきたい。
「しっかしやっぱ高城速いよな。陸上好きでそんなに速いって、お前やっぱマラソン選手になる気かよ」
「いやぁ、そんなつもりは……」
「あ、あの!」
友人と、適当な雑談を交わしながら帰宅する。いつもの光景であったが、そこに第三者の声が割り込む。
そこにいたのは、女子だ。見たことはないが……背丈は、俺と同じくらいか。その目が、見ているのは……
「……俺?」
「あれ、もしかして鹿波先輩じゃね? ほら、結構人気の」
俺には心当たりがなかったが、どうやら有名人であるようだ。容姿ではわからなかったが、名前はなるほど聞き覚えがある。
三年生である、鹿波先輩。そのスタイルの良さや、活発な性格から男女ともに人気がある人物だ。そんな人が、いったいなんの用なのか。
「あの、実は高城くんにお、お話が……」
「あー……じゃ、俺先に帰るわ。うらやましいなこのやろ、まあ頑張れよ」
先輩の、俺に用があるとの言葉を聞くと、友人は気を利かせたつもりなのか、一人で帰ってしまう。去り際、長の肩を軽く叩いて。
あいつがなにに気を利かせたのか、そしてこのシチュエーション……俺はそこまで鈍感ではない。
「あのね、私……高城くんのこと……」
……それは、おそらく一世一代であろう告白だった。赤くなった顔を、震える足を、詰まる言葉を、絞り出すように。
それはとても、勇気のいることだったんだろう。それに俺自身、こうまで熱い気持ちをぶつけられてなにも思わないわけはない。
スタイルが良く、まるでモデルのよう。活発そうな印象を与えるショートヘアーが特徴で、先輩ではあるがかわいらしい人。こんな人と一緒に休日を過ごせれば、それは楽しいだろう。
「……すみません、先輩のお気持ちは嬉しいですが……」
お答えできません、と俺は答えた。
走っている姿が好きと言ってくれた。だが、俺にとって走るのは、ただあの女を忘れるための口実。いや、口実さえ作れれば走ること以外でもよかった。
先輩は、それを受け止めて「そっか……」と言い残し、笑って去っていった。だが、その目尻には涙が浮かんでいた。
悪いことをしたとは、思う。だが、俺が先輩を受け入れれば……あの女が、なにをするかわからないから。こうするしか、ない。
たが、幸いだったのはこの場にあの女がいなかったことだ。もしあの女がいたら、告白を断ったとはいえ先輩になにか危害を加えるかもしれない。あいつは、そういう女だ。
ぶーっ、ぶーっ
そこに、スマホが着信を知らせる。これは……メールか。しかも差出人は、あの女だ。なんてタイミングだ、
どうせ、部活が終わったのに帰ってくるの遅いとか、そういう内容だろう。なんで、こんなところまであの女に束縛されなきゃ……
「……え?」
しかし、メールの画面を開き、内容を確認した瞬間……俺の頭は、真っ白になった。
『怜、部活お疲れ様。やっぱり走ってる怜はかっこいいから、その姿にきゅんときた女子から告白されるのも仕方ないよね。告白を断ってくれたのはすごく嬉しい……けど、鹿波先輩、だっけ。私の怜を取ろうとしたあの人には、ちょっとわからせてあげないとね』




