同居しているわけ
学校が終われば、俺は所属している陸上部へと向かう。帰宅部であるあの女とは、正真正銘部活動の時間だけが解放される時間だ。
それに、走っているとかな嫌なことを忘れられる。それは、俺にとっては至福の時間以外のなにものでもないのだ。
「いやぁしかし、やっぱりうらやましいよ」
部室での着替え中、同じ部活に所属している男友達が話しかけてくる。それは、主語がなくてもなにを指しているのか明らかだ。
「そんなことないよ」
「そうか? あの学校のアイドル、芹澤 マリシャとひとつ屋根の下なんだろ? むしろ変わってほしいくらい……いや、不謹慎だな。悪い」
「いや、いいさ」
俺があの女と同居している形になっていることは、隠してはいない。おおっぴらに宣言したわけでもないが、隠していないのだからバレる。
当初は、そりゃ男子の恨みとか買ったが……それも、今はほとんどない。俺が芹澤家に住む経緯を、知っているからだ。
両親が殺され、好意で幼なじみである俺を家に住まわせてくれた。これもおおっぴらに宣言したわけではないが、知れば大抵の奴はなにも言わなくなる。
今の友人だって、それを知っているから、不謹慎だと切り捨てた。ま、今さら俺はなんとも思ってないが。
「さ、そんなことより。行こうぜ、早く走りたい」
「お前ホント走るの好きだよなー。将来マラソン選手にでもなるつもりかよ」
そんな軽口を叩きあい……なんのしがらみもなくなった時間を、思う存分に堪能していく。これこそが、一日で一番の楽しみだ。




