第十二話 勇者の戦闘
「ではユイ、ここはまず貴女に任せるとしましょうか」
ゼファーのその言葉にユイは言葉にならない驚愕の色を示すが、おずおずと勇者組達の前に足をのばす。
「よ、よろしくお願いします」
ユイは丁寧にお辞儀をし、腰に装備された剣に手をかける。ゼファーよ考えたな、ユイを前線に置きその戦いぶりを見る事で成長の確認をしようと言うのか。
「こんな小娘が我々の相手になるとでも!?ふざけるのも大概にしろよ!」
勇者マサシが吠える。が、ユイはその姿勢を崩さず戦闘を開始しようとしている。ユイにとって勇者マサシの威圧より、ゼファーの笑顔の方が怖いのだ。
「ユイ、手加減してあげるのよ」
シェリーの一言で勇者マサシが意を決したように戦闘態勢に入る。
これ以上侮辱されてなるものかという気迫がその体に漲り、金色のオーラが滲み出始める。
勇者マサシが笑みを浮かべた瞬間、ユイの剣が弾かれる。
「なっ!?」
驚愕の声を上げたのはユイ。十数メートルは離れていたであろう間合いを、勇者マサシは一瞬で詰め、剣戟を放ったのだ。
ユイはすぐさま間合いを取るが、勇者マサシはその間合いを瞬時に詰め、ユイに襲いかかる。
「くっ、このっ!!」
ユイが反撃を試み、剣を振り回すが勇者マサシはその攻撃を紙一重で全て躱し、ユイに攻撃を繰り返す。
「油断していたであろう!この勇者は口だけだと!お調子者の勇者が現れたと!」
勇者マサシの台詞が辺りに響き渡る。
「侮ってもらっては困る!私達は最強のパーティだ!魔王を討伐する為、あらゆる死線をくぐり抜けて来た!」
勇者組はここぞとばかりに集合し、予め決めていたであろうポーズを各々が行う。
「我ら、最強勇者組!!」
最高に寒気のする演出だが、まあこれは見逃して置くとしよう。そして、勇者組全員で攻撃態勢に入る。
「小娘ではあるが、仕方ない!これも世界の為だ、許せよ!」
勇者マサシがそう言ってのけると、ユイに全員で襲いかかる。
ユイは決して弱くない。この者達の戦力が想像の範疇を超えていただけの話だ。ユイは必死に回避するが、その先で魔法使いルミナの地雷魔法が炸裂する。吹き飛んだユイを武闘家クドウが地面に叩きつけ、騎士タケルが追撃する。
数十秒後、ユイはその場に倒れ伏す。
「悪く思うな小娘よ!これも我々の正義の為だ!ん!?小娘、君は人間だったのか!?……普通の人間が我々勇者組に勝てるはずがないだろう!もしや操られていたのか!?許せんぞ魔王!!しかし案ずるな!我々が魔王を討伐した後、蘇生魔法をかけてやろう!」
なにやら勝手な解釈をしているようだが、我はあえて口を挟まない。
勇者組はゼファーの前に立ち、攻撃態勢に入る。
「次は貴様だ!執事!」
シェリーが戦いたそうにうずうずしていたが、先にゼファーに向かって宣戦布告されたものだから、不機嫌そうにしているがまあ良いだろう。
「私は勿論構いません。が、余所見をしていても良いのですかな?」
ゼファーが勇者組に忠告する。
「ん!?貴様は何を言っ……」
ゾクリ。と、勇者組全員の背筋に悪寒が走る。
その悪寒の正体は、倒したはずの一人の少女からの形容し難い殺気であった。
すぐさまそちらを振り返ると、ユイの体から紫色のオーラが溢れ出し、地面を覆い尽くしていた。
「こ、小娘!君は私たちが倒したはずでは!?」
勇者マサシは驚愕する。
「そしてこの殺気……君は本当に人間なのか!?」
ユイの体が、重力に縛られない不自然な動きで起き上がる。体は紫色のオーラで包まれ、その容姿はオーラに包まれ確認できない。
紫色のオーラが揺らいだ刹那、紫色の閃光が勇者組の間を駆け抜ける。
「ぐぁあっ!!」
勇者組の複数名が叫び声を上げ、その場に倒れ、動かなくなる。辛うじて立っているのは、勇者マサシだ。
(な、なんだ今のは…!?全く見えなかったぞ!!)
勇者マサシは驚愕する。
「貴様……!本当に人間か!?」
ユイに問いかけるが、返答はない。ただ凄まじい殺気が勇者マサシを襲うだけであった。
「人間は人間でもあの子は勇者なのよねー」
シェリーが嬉しそうに勇者マサシに言い放つ。
「勇者……だって!?そんな馬鹿な!!なぜ勇者が魔王の味方をする!?それに、そのオーラは勇者などとは程遠い!!魔族のそれと同等、あるいはそれ以上だぞ!!」
戸惑いと驚愕をシェリーにぶつけるが、知らんがな。という表情でそっぽを向く。が、勇者マサシはそんな態度に構っている余裕はなく、ユイ目掛けて攻撃を繰り返すが、その攻撃は紫色のオーラを通り抜けるだけで、全く感触がしない。
辺りに広がったオーラがゆっくりとユイの体に集まり、その戦闘能力を上げていく。
「あ、ありえない!!なんだその殺気は!闘気は!!まさか貴様!!!?」
ユイが頭上に剣を構え、振り下ろす。
「や、やめろー!!!」
が、そこでゼファーが片手でユイの攻撃を受け止める。
「上出来ですよ、ユイ」
ゼファーがユイの顔の前に掌を向けると、ユイの体からオーラが解き放たれ、ゼファーの腕の中に倒れこむ。
「手加減しろって言ったのに、あの子はしょうがないわね……」
シェリーはそう言うが、仕方ない。ユイは凡そ意識が無かったのだ。これ以上力の制御を誤ると勇者達を消し炭にしてしまうだろう。
「おや?」
ゼファーが眼下を見ると、そこには泡を吹いて倒れる勇者マサシの姿があった。
そして、勇者組と魔王軍との戦いは終わったのだ。




