中山新三東下り
遅れた……
14日にupしたかったのに。
一月はインフル、治ってからまたインフル。
二月は映画観に行くのに忙しかった。映画館はしごして一日三本までしちゃった。
大石内蔵助の命により中山新三は江戸を目指して東海道を下っていた。
新三は持ち前の健脚で八日で沼津までやってきており、その移動距離は八十里(一里は約4㎞)を越える。
東海道五十三次の既に残りは五分の一となっているが、これより向かうは難所と名高い箱根である。
「まったく、ご城代も無茶を言ってくれるよ」
沼津の宿を後にしながら新三は江戸に向かう事となった経緯を思い出していた。
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「お前ちょっと江戸に行け」
「は?」
思わず間抜けな声が出た新三を気にせず、内蔵助は続ける。
「流石にもうワシが直接安兵衛と話さねばならん」
堀部安兵衛を中心とした江戸の仇討ちを主張する急進派は、もう内蔵助という旗頭無しでも動くと意思表示している。
放っておけば本当に仇討ちをを決行してしまうだろう。
「しかしいきなりワシが話しても頑なになってしまうやもしれん」
話し合いの結果感情的になって引くに引けなくなっては、止めに行ったつもりで背中を押す事になってしまう。
「そこで先触れとして江戸の連中と話をする者が必要じゃ」
「その役目を僕がやるんですか?」
「うむ。後で行くワシが説得する前に仇討ちを止めさせても構わんぞ。ワシが楽できるしのう」
「いや無理ですよ!」
殺気立ってる江戸の武闘派を説得など誰もやりたくない。
「江戸勤めの経験のあるお前なら顔も利くじゃろう」
「江戸に居た時は小間使いみたいなものだったんですよ。そんな奴が生意気に仇討ちを止めろなんて言ったら……」
「お、怒るかのう?」
「翌日に川で発見されるかもしれません」
もちろん溺死体ではなく、死因は刀傷だ。
「……よ、よし。では新三よ、明日にでも出立するのじゃ!」
「僕の話聞いてました!?」
「頼んだぞ。赤穂の明日はお前に任せた!」
「荷が重すぎるんですけど!?」
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内蔵助の命令を断りきれる筈もなく、新三はこうして江戸を目指しているのであった。
今日は三島、箱根を越えて小田原まで行く予定だ。
十里以上を歩く事になるので、新三は近道を使う事にした。
旅を楽にできる近道は、しかしその利便性にも係わらず、利用する者は少ない。
街道のように整備された道と違い草が生え、石が転がり、獣道一歩手前といった様子の荒れ果てた道だ。
このように荒れているのは、もちろん理由がある。
狼、盗賊、そしておっかない化物の噂。
そういったものが人を遠ざける。
人が通らない道を整備するなど金の無駄遣いなので、藩は何もしない。
その結果がこれである。
しかし新三は恐れず進む。
狼や盗賊や化物が怖くない訳ではない。
単純に朝っぱらから出る筈が無いと思っているからだ。
新三の他にもそう考える者が居たらしく、集団の姿が見えた。
「へっへっへ、命が惜しかったら有り金全て置いてきな」
「その腰の物もだ」
「言うこと聞いた方が得だぜ」
「………」
三人の男が一人の男を囲んで笑みを浮かべていた。
盗賊である。
紛うことなき盗賊である。
新三は遠目にそれを見て、朝なら盗賊が居ないだろうという考えを盗賊が逆手に取らない訳がないと、盗賊を少し感心しつつ納得した。
「どうでも良いけどよぉ、人様の物奪おうってんだ。テメェも奪われる覚悟はあるんだろうな?」
襲われている男は面倒そうに言うと、腰の刀の鯉口を切った。
「ひゃはは、馬鹿かこいつ」
「三対一で勝てるつもりかよ」
「俺達は人殺しだってなんとも思わないんだぜ!」
盗賊達は一斉に抜刀した。
それを見て新三は柄袋を外し、走り出した。
「あ~あ、抜いちまったよ」
男は獰猛とも言える笑みを浮かべると、目の前の相手に抜刀しつつ一閃、返す刀でもう一人を斬りつけ、最後に残った一人の腹を突き刺し、そのまま薙いだ。
恐るべき早業に盗賊は反応すらできなかった。
気付いたら斬られていた。そう感じたに違いない。
悲鳴をあげながら自らの血溜まりに崩れ落ちる三人。
見事と言うより他ない返り討ちだった。
どれも深手だ。手当てしても助からないだろう。
もっとも盗賊は打ち首と決まっている。ここで死ぬか、後で死ぬかの違いだ。
死体は狼が片付けるだろう。
「さて、そこの兄さん。やるかい?」
男は血払いした刀を肩に乗せ、新三へと振り返った。
「まさか。僕は助太刀しようとしただけですよ」
それまで握っていた刀の柄から手を放し、新三は敵意の無いことを示す。
「おっと、そうかい。まあそれでも俺ぁ構わないけどな。で、どうよ?」
「やりませんって」
どうやら血の気の多い男のようだ。
三人も斬っておきながら、まだ血が見たいらしい。
「雑魚の相手をしても歯ごたえが無え。その分、兄さんなら満足させてくれそうだ」
「竹刀でなら受けても良いですが、真剣だと勘弁してほしいですね」
柄袋を被せて完全に抜く気のない事を見せると、男はそれで諦めたのか懐紙で刀を拭うと、鞘に収めた。
そして傷口を押さえて呻く盗賊に蹴りを入れると、懐から財布を奪いはじめた。
「ちっ、三人合わせて五文かよ。蕎麦も食えねえ」
もうどちらが盗賊かわからない。
「そいつらの得物売ったらどうですか?」
「ろくに手入れされてないボロ刀三本抱えて歩く気にはなれねえな。兄さん持ってくれるかい?」
「嫌です」
長旅で荷物を増やすなど愚か者のする事だ。
整備されていない道を行く場合は特に。
新三はこれ以上ここに居て他の人間に見られて、疑いをかけられても面倒なので、脇を通り先へ進む事にした。
すると何故か下手人の男もついて来る。
「兄さんはどこまで行くんだい? 俺ぁ江戸までだ。方向が同じなら一緒に行こうぜ。旅は道ずれってな」
「素性の知れない相手と旅はしたくないですよ」
「おっと、それもそうだな」
男は立ち止まり、姿勢を正した。
「拙者、高家筆頭吉良家が家臣、清水一学と申す」
「これはどうもご丁寧に。手前は元赤穂藩浅野家の末席を汚していた中山新三にございます」
互いに名乗りあった所で、二人は相手の素性に思う所があった。
「赤穂浅野家?」
「吉良家?」
エイプリルフールで先行登場した清水一学が登場。
今年はエイプリルフールどうしよう?




