5 ニセモノ勇者の出立と、宿屋で騒ぐ者たち
よろしくお願いします。
「これより、魔王及び魔獣討伐へ向かう、勇者と聖女の出立式を執り行う!」
王宮の謁見の広間で、重臣や貴族らが見守る中、厳かな式が行われた。
王都の街には、一目伝説の勇者と聖女を見ようと、見物客が押し寄せていた。
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国の伝承に『聖剣抜かるる時、魔物溢れ国乱れん。聖剣に選ばれし者、勇者なり。勇者に聖女寄り添はむ』とある。
誰もが知る建国神話。
その昔、魔物が人々を襲い、人は怯え暮らしていた。
女神が民を救うため、聖剣を生み出した。
聖剣に選ばれた勇者が魔物を狩り、民を救った。勇者の恋人は力を持つ聖女。
勇者と聖女は権力に興味なく、国を巡り各地を平和にした。初代国王には勇者の友が立った。
勇者と聖女は今も国を守っている。
勇者の剣は聖剣と呼ばれて、神殿の聖域、結界の中、聖樹に刺されてある。
今も聖剣は聖樹に守られて国を守っている。
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以上がオウンドゴール国の誰もが知る神話である。
その聖剣が失われた事は隠せない。
毎月一度、神殿は聖剣見学ツアーを催し、多額の金を集めている。
見学者は結界に弾かれ近付けないので、遠目に聖樹に刺さった聖剣を眺めるのみであるが、毎回希望者殺到で神殿はウハウハなのである。
聖剣は失われた。
聖剣の紛失を隠すには、『勇者が現れ聖剣を抜いた』とするしかない。
そして、聖女も必要である。
グオール王と神殿は、「ニセモノ勇者と聖女」を仕立て上げることにした。
勇者には第三王子ルーファス。金髪に青い目の誰もが見惚れる美男子。
ルーファスに神殿から「聖剣」が渡された。豪華な装飾のついた華麗な「聖剣」である。
ルーファスは跪き、恭しく「聖剣」を受け取った。
貴族達から大きな拍手が起こった。
聖女には王家の影、シルビア。銀の髪に薄いアイスブルーの瞳。こちらもルーファスの隣にいて見劣りしない美少女。
神官長が神託を受けて選ばれた、とされた。
二人が王宮のバルコニーから民衆に手を振った。集まった民衆から大きな歓声が上がった。
ルーファスが「聖剣」を手に持ち、振りかざす。
「聖剣」に埋め込まれた宝石が日の光を受けて輝いた。民衆から一際大きな歓声が上がった。
次は出立のパレードだ。
にこやかに手を振り、白馬に乗ったルーファスと、馬車の中から手を振るシルビア。
完璧な2人の姿に、王都の民衆は歓喜し、華やかなパレードで2人は旅に出たのである。
王都の安宿で。
ジンはベッドに突っ伏していた。
「どこにも断られる、、、。騎士団どころか、商会の警備員にも雇ってもらえない、、、」
故郷の母親に「仕送りする」なんて言って出たのに、「仕送り下さい」と手紙を出すハメになりそうだった。
ジンは落ち込んでいるが、ジンの部屋は毎日、賑やかだ。
「ニャーニャー、ニャニャニャン!」(就活って難しいよね!元気出して。気持ちわかるよ)
瑠璃猫が肉球でジンの額をペチペチ叩いた。
『覇気が無いのだ!頼りなく見えるからだ!俺様の様に高貴な雰囲気も無いしな!』聖剣。
「ニャーン!ニャニャニャニャーン!ニャンニャンニャン!」
(はぁぁ?アンタはただ偉そうなだけでしょ!何もしないくせに、何言ってるのよ!)
『ふん!お前こそ何もしとらんではないか!毎日食っちゃ寝生活しておいて、何をいうか!そういやお前、太ったのではないか?』
フフン、と聖剣が瑠璃猫を馬鹿にする。
「フンニャー!ニャニャニャニャニャーン!ニャニャニャンニャ!」
(失礼な!仕方ないでしょ。猫なんだから。私だって好きでココにいるんじゃないんだから!日本に戻してよ!私、日本で行方不明者になってるわよ!どーしてくれるの!?)
鞘入り聖剣をペシペシ猫パンチする瑠璃猫。
「毎日、妄想の変な声が聞こえるし。猫は可愛いけど、うるさいし。俺はどうすれば良いんだ。、、、金はないし、、、」つぶやくジン。
ジンに構わずケンカする聖剣と瑠璃猫。
「ニャニャニャン!ニヤーッ!」(アンタさあ、ジンと話せるんでしょ?私が人間って伝えてよ!)
『うるさい。俺様は伝言板では無い。敬いもしないお前の言うことなど、伝える義理はない』
「はぁー、お前達、毎日飽きもせず賑やかだな。
セイケンは猫ちゃんの気持ちがわかるみたいだし。ははは。もういいや。俺はおかしい。
おい、セイケン、猫ちゃん、3人?でこれからやってこうな。
もう宿賃もなくなるから、3人?で宿無し生活だ。はははは」
やけくそに笑うジン。
ジンの言葉に大きく反応したのは、瑠璃猫だ。
「フニャニャニャニャニャン!ニャーーン!ニャニャン!」
(お金が無い!?ですって?宿無しなんてイヤー!ご飯は?ベッドは?お風呂は?安全は?)
『ハハハ。おい、ジン。良い案を授けよう。
この聖女猫に人間の怪我や病を治療させて、金を得るのだ!お前は薬が作れると言っていたな!それらしい薬を作れ!
それから、この猫の名前を教えてやろう。ルリだ』聖剣。
「へー、ルリか。可愛い名前だな。
って、セイケン、お前自分で聖剣様だとか、偉そうにしてるくせに、詐欺を提案するのか?」
呆れるジン。
『詐欺ではない。正当なビジネスだ。怪我や病の者は治れば感謝するであろう。良い事である!
それとも、このまま金が尽きて路頭に迷うのか?我は良い生活を所望する!路上生活など、プライドが許さん!』聖剣。
「ニャニャン!ニャーニャーニャーン!」
(やる!路上生活は絶対にイヤー!)
瑠璃はノリノリ。やる気満々。
『ルリもすると言っている』聖剣。
「はー、このままじゃ宿無しだし。良心は痛むけど、やるか」ジン。
ジンは就活を一旦休止して、近くの山に入った。ありふれた薬草を数種類、採ってきた。
宿屋で鍋で煮込ませてもらい、部屋ですり潰してそれらしい「塗り薬」を作った。
ジンは自分用に薬を作る携帯道具を持って来ていた。
部屋の中に独特の薬草の匂いが立ち込めた。
「、、、はぁ、俺は何しに王都に来たんだろ。これは気休めの安い薬草ブレンドなのに。詐欺じゃん。神様に顔向けできない」ジン。
お人好しで小心者のジンは、出来上がった塗り薬を薬壺に移しながら、半泣き状態だった。
聖剣が偉そうな声を響かせた。
『売れたら高級剣磨き布を買え!俺様を磨くのだ!手入れをしろ!』
「ニャンニャンニャニャーン!」(美味しいお肉!お肉!お肉!)
瑠璃は猫生活に馴染み始めていた、、、。
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